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    りんご

    @Rin_YSWR

    かいたものを投函するたぬきです。
    小説とイラストは9:1くらいです。

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    POIPOI 25

    りんご

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    K暁デー
    どっちも『おはよう』を楽しみにしている。
    タイトル詐欺みたいなほのいちゃK暁(当社比)

    #K暁
    #毎月25日はK暁デー

    おはようまでお楽しみ音をたてないようにノブを限界まで回してからドアを開けると、すっかり穏やかな寝息を立てて眠る彼の姿があった。起きててほしかったという残念さと、でもしんどいだろうから寝ていてほしい気持ちが混ざり合って、それが『やっぱり会えてうれしい』になってしまう自分の甘さに苦笑する。職業柄なにかと敏感なので、間違っても起こしたりしたくない。いつからか後ろ手のドアは金具に差し込めるギリギリまで元に戻して、締め切らないようになってしまった。

    依頼や他の行事で二人の時間がずれることが増えた。大半はKKが戻ってこないことが多いが近ごろはその逆で、就職活動や卒業間近のあれこれで帰りが日付線を超えることもしばしばだ。かつては一人で先走るところもあった典型的な前時代型の彼だが、意外にも気を揉んだりあからさまに機嫌が悪くなるようなことはない。内弁慶気味な彼をして当初は肩透かしを食らっていたが、これが彼なりの気遣いなのだと、最近になって分かり始めている自分がいる。時間が経つのは、楽しい。大切なものばかりすり抜けていた日々の、本来の在り方を初めて暁人に教えてくれた人だった。だからこそ少しだけ、ほんの…少しだけ、寂しさはあってもこの瞬間を損ないたくなかった。傍らにしゃがみ込み、暗がりに浮かぶ彼の寝顔をじっと眺める。以前はこの時点で起きていたことを思えば、これはとんでもない進歩だ。渋谷事変の時のような魂が結び合う感覚とはまた違う、気配が混ざっていると分かる瞬間に頬が緩むのを止められない。弾む気持ちのままに乱れた髪を撫で、顔をつついたのはまずかっただろうか。眉を寄せ寝返りを打ったので、息を止めて見守っていた。そこから変化のないことをよく確認しつつ、こちらを向いたKKをつぶさに観察する。
    短い前髪、割と大きな双眸に形のいい鼻と口がバランスよく収まっている。本人は気にしていないようだが、これはかなりレベルが高い・・・・・・と思っている。寝顔はみな幼くなるというが、彼も例外ではない。ただ、時たま生まれる陰影が壮年の精悍さと色気をはらんでいて、そのギャップにいつも暁人の心臓が持たなくなるという事をもっと自覚するべきだと思う(尤も、そのことがKKに知れたらしばらく格好の餌食になるだろうから口が裂けても言えないけれど)。
    それと同時に付随するあの日の感傷は、今でも暁人に柔らかく傷を作る。出会いがどうしようもなく最悪で、決別さえ覚悟していた悲壮感がずっと暁人を尻込みさせていた。そのもどかしさが伝えきれず、何度も喧嘩になったことだってある。暁人を襲うこの痛みの意味が『この人が生きていてくれてよかった』、から、『この人とこれからも生きていたい』に置き変わるまで時間はかかった。その分楽しくふたりで歩んでいける長さは短くなってしまったけれど、時に優しく、あるいは叱咤しながら暁人の手を引いて諦めなかった彼を、この先もずっと好きなんだろうという確信だけはあるのだ。そんなことを考えていたら、早く会いたくなった。眠ってる彼だって十分なものだけど、話だってしたいし触れあっていたい。


    こみ上げる衝動にひかれるまま、小さく唇にキスを落とす。
    静かな部屋に僅かに湿った音が響いた。


    「はやく…起きてね、KK」

    おはようを言いたいから、なんて子供じみているかもしれない。それでも取りこぼさずに残った大切なもののひとつだから、暁人はそれを大事に、大事に抱えていたいと思うのだ。




    ◆◆◆◆◆


    「なんつうか……情熱的・・・な挨拶だったぜ?」

    ややあって目を開いたKKは、すっかり寝息を立てている相棒に小さく呟いて覚醒した。

    暁人と目が合う時を狙って驚かすつもりで起きてみたりしていたこともあったが、どうもそれはアイツの好みではなかったようだ。驚きと喜びの合間に見える寂しそうな顔を見つけてからは、こういう時間はアイツのしたいようにさせてやることに決めた。それは体のいい建前で、本当はああいう表情を見るとどうしていいのか分からない自分を隠しているだけだが。
    ここ暫く、暁人とちゃんと顔を合わせた日というのは数えるほどしかない。理由は様々だが、なんとなく我慢しているだろうなとは思っている、お互いに。それがよくない兆候だという事も、KKには身に覚えがありすぎた。なにぶん、経験値だけは高い。少し削げてしまった頬とうっすら見える目の下の隈に、本当はこうしていることさえ無理させているのではないかと不安だったときを思い起こした。始まりがあんなことだから、極限のなかでの一体感が吊り橋式に高じた結果だと当初は一線引いていた。何より相手にはまだ未来があって、先も長い。潰しているとは思わないが、無駄にしているのではないかと気後れする焦燥感は、きっとアイツには一生かかっても理解できないかもしれないだろう。兄だなんだと言うが、基本的にアイツの周りは上のヤツが多い。年齢や立場も色々。そして本人も気づいていないが、どうもそういう連中に気に入られやすい。おそらくそういっただろう。本当は『どこへも行くな』、『ここにいろ』と何度引き留めたかったか。そうしなかったのは、新しく生まれなおすきっかけをくれたコイツへの、最後の矜持と最初の抵抗だった。
    これらが軟化するまで割と時間がかかった。それまでコイツを何度か泣かせてきたし、反対に胸倉掴まれて言葉で殴られたことだってあった。なあ お暁人くんよ、あの時どっちもしんどかったな。濃い影を落とす目元を掬うように撫でながらKKは回顧する。そうしながらようやく折り合いを付けられる頃になって残ったものは、まあかなり、シンプルなものだ。
    気持ちが明瞭になっても、そこからアイツに共有するまで随分迷った。ただ、もうかつての誰かの二の舞はしたくない。ここを間違えれば、今度こそ地獄に堕ちてしまうような気がする。できればふたりでもう少しだけ、上振れはじめた人生の余白を味わっていたい。ささやかだけど欲深い、だろうな。でも手放せなくなった、そうさせたのはオマエも共犯だから、諦めて責任とれよ。オッサンの執念は年季が入ってる分デカいし強い。そういう自信を―――希望をくれたのもまた、オマエだから。


    ベッドチェストに忍ばせておいた、金属をふたつ。
    暁人の左の薬指にくぐらせ、右手に鍵をそっと握らせる。

    「ドッキリ苦手か? でもこれで最後だぜ
    暁人、一緒にいてくれよ」

    返答のないコイツの頭をそっと撫でる。どうせまだ、起きやしないだろう。その時までゆっくりこっちも心づもりしておくよ。




    ずっと、と胸を張れるまではやはりまだ先だろうが。
    せめて明日のおはようを言えるくらいの長さを、積み重ねたいと思ってるんだ。

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