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    ふく波羅探題

    @fukuharatanda1

    K暁の短い小話置き場
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    ふく波羅探題

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    #毎月25日はK暁デー
    お題「スーツ」
    猫又が売ってるロングコートってあれケケの…?まぁケケのってことで!違ったらごめんなさい!
    それ前提のケケのロングコートの話です。
    楽しい企画ありがとうございました!

    #K暁

    『おい、何でオレの服まで売ってるんだ』
     右手が勝手にグイと前へ動いた。手のひらから漏れ出している黒いモヤも濃くなって、見るからに“怒っています”といった態度だ。なにより僕の内側の僕でない部分が不機嫌なのを微かに感じる。
    『ヤダなあお客さん。秘密ですよヒ・ミ・ツ。そ〜んなマル秘事項、いくらお得意様だからって教えられるはずないじゃありませんか』
     ね? と猫又は小首を傾げた。僕が見ると可愛い仕草も、右手から漏れる黒いモヤの主──KKにはどうにも癇に障ったようで、僕の内側に鎮座する不機嫌の、苛立ちと怒りが大きくなった。
     猫又はかわいい。だがKKが怒るのも納得はいく。
     狭い屋台の奥に吊るされていたロングコートはどうやらKKの私物らしい。なんでも、刑事時代に愛用していた代物だとか。
     しかもコート一着だけならまだしも、KKの書いた報告書はあちこちの猫又商店で取り引きされている始末。それも、人並みに猫は好きな僕からしても法外だと眉を顰めるほどの値段で出回っている。
    『人ん家勝手に漁りやがったな! この泥棒猫!』
    「KKそれなんか違う気がする」
    『やめてくださいよお客さん、人聞きの悪い。アタシらはちゃあんと正規ルートでしか仕入れてませんよ』
     ニャニャニャ。恐らく笑っているのだろう。猫又は口元に前足を持っていくと、肩を揺らしてチラリと横目でKKを、というよりもKKの実体はないから僕を見た。
    『別にいいんですよアタシは。このままお客さんが買ってかなくても。アンタが成仏してもこの外套が売れるまで、アタシが責任もってここに陳列しておくだけですよ。永遠に』
     ニャ。猫又は再び小首を傾げる。金色の目に見つめられ、何となく胸の奥がざわついた。
     僕の中に居るKKを見ているのだと思ったその目は、まるで僕を見ているようだ。動物とも人間とも異なるその視線に思わず喉が詰まる。
    『ったく、もういい。んな昔のもんくれてやる。おい暁人、さっさと行くぞ』
    「ちょっと待って」
     またもや勝手に動こうとした右手を力づくで抑え、僕はボディバッグから冥価を入れた巾着袋を取り出した。すると共有しているKKの感情が、一瞬だけ無風になった。
    「いくら?」
    『オマエまさか買う気かよ』
    『お、さすが肉体持ちだね、魂だけの旦那とは違ってお目が高い! 18,000Mにゃり』
     巾着の中からチャリンチャリンと硬貨を広げる。結構な枚数があったはずだが、どう言う理屈か猫又は嬉しそうに喉をゴロゴロ鳴らしながら、その小さな羽織の袂に全てをしまった。その袂が膨れている様子も重さで羽織が着崩れる様子もないからなおさら不思議だ。
    『毎度あり〜。いい買い物だと思うよ、アタシは』
     またしても猫又は僕を見ながら、口元をニンマリと上げた。
    『無駄遣いしやがって。んなもん買って何になる』
    「さぁ。けど僕は無駄遣いじゃないと思うけど」



     吹き抜けた木枯らしに、僕はコートの首元をギュッと寄せた。
     渋谷のスクランブル交差点は今日も今日とて人混みでごった返している。平日の昼間だと言うのに遊びに来たであろう学生を尻目に、僕はと言えばいつも通りの外回りだ。冬物とはいえスーツの上にロングコート1枚を羽織っただけの格好はかなり堪えるものがある。
     あれから不思議な力も失い超常現象に遭遇することなく、ただの人となってしまった僕に、相棒と呼んでくれた彼の意志を継ぐことは終ぞ叶わなかった。もしも今、この東京中に蔓延る穢れとマレビト退治に奔走できていたら、寒さなんて大した問題でもなかっただろう。
     走ることもビルからビルへと駆けることも出来ず、ただ地を歩くだけの東京は、あまりにも寒かった。
    『けど、それを着ていれば幾分マシでしょう』
     ニャニャニャ。聞き覚えのある笑い声が響く。つられて見上げたショーウィンドウには、羽織を着て浮かぶ、尻尾が2本生えた猫の姿が写っていた。
     ガラスの向こうには数えるのも嫌になるほどの人が忙しなく行き交っている。それを遮るように映る僕たちだけの時が止まったみたい。猫又は僕のすぐ後ろに浮かんで、金色の目を向けている。
    「どう? 少しは様になったかな」
    『ええ、随分とお似合いで』
     猫又はそれだけ言うと、ゴロゴロ喉を鳴らしながら頭を下げて消えていった。
    「本当、いい買い物させてもらったよ」
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    subaccount3210

    DONE #毎月25日はK暁デー
    【ジューンブライド】【ボーナス】【願い事】

    ※純度100%けあきです!!!
    ※ナチュラルに全員生きています
    白いタキシード姿の若い男が赤い絨毯に片膝をつき恭しく目の前の人の左手を掬い上げる。
    「僕と結婚してください」
    普段は柔和な印象を受ける目は真剣な色で己の指先を見つめている。シンプルだが決して安物ではないプラチナリングはステンドグラスから差す陽を受け一段と光輝いて見える。それがゆっくりと慎重に左手薬指に納められる。サイズもピッタリだ。秘かに安堵する息を飲み込んでセットした髪が崩れぬよう気を遣いながら愛する人の顔を見上げる。
    指輪と同じように陽光を背に受け輝くその人はしっかりとした声で応えた。
    「いや、何でオレがプロポーズされる側なんだよ」

    このチャペルはとある観光地のホテルに併設されたもので大々的に結婚式をするよりもブライドフォトを撮る場所である。勿論ここでプロポーズをする恋人たちもいて、ホテルスタッフは翌年の予約を楽しみにしていたのだが数ヵ月前から『このチャペルでプロポーズすると不幸が起こる』という噂がまことしやかに囁かれるようになった。『このチャペルでプロポーズすると破局する』という噂ならデートスポットでよくある嫌なタイプの通過儀礼のようなものではね除けようと思うのだが『不幸が起こる』という文言が気にかかった。しかも実際に『事故に合った』『病気が見つかった』といった実例も挙がるのだから噂は信憑性を増してしまい終いには『あのチャペルにはプロポーズして結婚間近で死んだ霊がいる』とインターネットに書き込みがされた。
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