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    巨大な石の顔

    2022.6.1 Pixivから移転しました。魔道祖師の同人作品をあげていきます。

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    巨大な石の顔

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    サンサーラシリーズ番外編。蛍にまつわる叔父上の思い出話。藍パパを捏造しています。時系列的には兄上はまだ閉関しています。CP要素なし。

    #魔道祖師
    GrandmasterOfDemonicCultivation
    #藍啓仁
    lamKaiYan

    蛍火 藍家の二の公子が、読んでいた本を閉じてそろそろ寝ようとしていたとき。彼の居室に二つ年上の兄がやってきた。
     兄は人好きのする穏やかな微笑みとともに竹でできた虫籠を弟に向けて掲げた。中では小さな黒い虫が二匹、小さくて狭い床に這っていた。
     兄が剣胼胝のできた指で籠の小さな扉を開けると、部屋の明かりもふっと消えた。
     すると、籠から二つのとても小さな光がおそるおそる飛んだ。ここはどこだろうと戸惑っているかのようだ。それから光は暗い部屋の中をさまようかのように不安定に飛んだ。
     二の公子は、落ち着かないように飛んでいる光のそばに手のひらを差し出す。優美な仕草だが彼の手にも武骨な剣胼胝はできている。
     すると光は暗闇に浮かぶ白い手にすっと音もなく止まった。闇色の羽を持った小さな虫は、手のひらの上で緑がかった黄色い光を尾から放った。息を吸って吐くかのように、人の魂魄よりも明るく強い光は二の公子の手のひらで何度も瞬いた。
     小さな命の瞬きを眺めながら、藍家の公子はとても幼い頃のことを思い出していた。
     ちょうど今ぐらいの時期の風のない夜だ。師匠が冷泉近くにある沢のそばへ彼ら兄弟を連れて行った。そこには金色に輝く小さな星が飛び交っていた。
     蛍という虫だ、と師匠は教えてくれた。師匠は手にしていた竹帚を逆さに持って立つと、やがて指の関節のように曲がった箒の先に丸い光を放つ虫が集まってきた。少年たちはすかさず網でたくさん捕まえ籠に閉じ込めて一緒に暮らしている部屋に持ち帰った。二人は部屋の中を自由に飛び回る蛍を十分楽しんだ後、窓から逃がした。
     それから、この遊びが厳しい修行の中での彼らのささやかな楽しみになった。
     兄弟に個別の部屋が与えられた年、もう師匠の付き添いはいらないと大人たちに内緒で兄弟は二人だけでいつもの沢へ蛍狩りに行った。ところが、弟は蛍の舞う草むらに隠れていた蛇に足を噛まれてしまった。
     幸い毒蛇ではなかったが、二人は蛍狩りを禁止されてしまった。それからお詫びのように兄はこっそり毎年こうして自ら捕まえた蛍を籠に入れて弟の元へ持ってきてくれるようになった。
    「ほら今年も綺麗だろう」
     近くで満足そうに笑う気配が感じられた。これまで読書ができそうなくらい大量に捕獲してきた蛍を去年そんなにいらないと突っぱねたところ、今年はたった二匹ときた。弟は呆れてこめかみをぴくりと引きつらせた。
    「兄上、私はもう自分で蛍を捕まえられますよ」
     彼はすでに座学生の監督役も務めているのに、兄はいつまでたっても蛇に足を噛まれた十歳の子供扱いしようとする。困ったものだ。それにもう彼は部屋の中で飛び回る蛍を見ても、昔のように心動かされなくなっていた。
     すると、心底驚いたかのようにそばにいる兄は息を呑んだ。まるで弟が彼と背丈が追いついていることにさえ今この瞬間初めて気付いたかのように驚き戸惑っている。
     二の公子が手を少し動かすと、蛍はそこからさっと離れた。彼は部屋の窓を開けた。
     今宵は曇り空だ。月も満月だが叢雲がかかっている。冷泉近くの沢は子供の頃訪れたときのように幾千もの蛍が舞って光に溢れているだろう。
     空気の流れを感じたのか、宝珠のような美しい光を抱えた小さな虫は、蛙の鳴き声が響き渡っている外へ出た。その後を追いかけるようにもう一つの光も窓の外へ飛び去った。
     藍の二の公子が再び部屋の明かりをつけると、兄は苦笑いを浮かべていた。
    「そうか。そうだな。お前ももう私にいつまでもおぶわれるような子供じゃないな」
     そう自分に言い聞かせるように呟くと、兄は踵を返して弟の部屋から出て行った。弟の成長を彼はまだ受け止め切れていないかのようだった。
     去っていく背中に寂しげな影が落ちていたが、二の公子とていつまでも蛇に噛まれて兄の背で泣きわめいていた子供扱いされたくはなかった。
     この次の年から兄が弟のために蛍を捕まえることはなくなった。


     夜着へ着替えた藍啓仁が書見台においた本を読んでいると、どこからともなく一匹の蛍が本の端に止まった。そっと手で払えばそれは忙しなく部屋の中を飛び回った。まるで外へ出たがっているかのようだ。部屋に帰る前、廊下を歩いていたときに肩にでもついていたのかもしれない。
     藍啓仁は手をかざして部屋の明かりを消した。再び書見台の上に止まると、小さな虫は尾に丸い光を灯した。部屋の中をずっと飛び回って疲れたのか、力尽きかけているかのように光は弱弱しい。
     少しの間だけ儚い光を部屋の主は眺めて、そっと両手で包むと窓の外へ逃がした。
     蛍は薄い光の筋を残して庭の奥に立つ松林へ溶けるように消えていった。
     今宵は風もなく曇り空だ。かつて彼が兄にもう蛍はいらないと断った夜でもあり、小さな甥二人を連れて初めて蛍狩りに行った夜でもある。
     私がもし蛍に喜ぶ子供のふりをしていたら、兄はあの女を選んでも閉関しなかっただろうか。甥は実の父親に育てられていたらあそこまで心を閉ざさなかっただろうか。
     あの日寂しげにこの部屋を出た兄と先日の家宴ですっかり心ここにあらずだった甥を交互に思い浮かべながら、藍敬仁はひとつため息を吐くと静かに窓を閉めた。

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    かわいい子には旅をさせろかわいい子には旅をさせろ。若い頃、国外から来た客人にそんなことわざがあると教わった。
    弟子は皆可愛く思う。その中でも、藍忘機には才能を感じ、早くから様々な夜狩に向かわせた。

    その結果、どうなったか。

    丹精込めて育て上げ、特に気に入っていた弟子は得たいの知れない人間なのか魔なのかよくわからない奴に惑わされてしまった。未だに二人の仲をよくは思っていない。いつか藍忘機が魏無羨に飽きてくれればいいのにとさえ思っている。

    しかしそんな日は来ないだろう事はわかっていた。
    藍忘機の執着心は父親にソックリなのだ。
    そしてもう一つ、藍啓仁は理解している事がある。表向きは魏無羨が藍忘機を惑わしたように見えるが、実際は違う。

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