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    おもち

    気が向いた時に書いたり書かなかったり。更新少なめです。かぷごとにまとめてるだけのぷらいべったー→https://privatter.net/u/mckpog

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    おもち

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    PsyBorg。仲直りの話。しょとくんがいます。

    #PsyBorg

    買おうか悩んでいたブランド物のバッグも、いつか買おうとブックマークしておいた可愛いクッションも、そんなに使う機会はないからと買わずにいた良さそうなオモチャも、全部勢いでカートに入れて決済を済ませた。それでも気持ちは晴れなくて、友人にケーキバイキングに付き合ってと連絡をする。すぐにオーケーの返事をくれたから俺はさっさと上着を羽織って家を出た。メイクも髪も、デートの時のように気合を入れて準備してあった。褒めてくれる人はそこにいないのに。
    たまたま買い物に出ていたらしいショートとすぐに合流し、俺たちはホテルのラウンジでやっているケーキバイキングへと足を運んだ。挨拶以外何も話さなかった俺に、ショートは席についてからようやく「ファルガーと喧嘩?」と揶揄うような口調で言った。キッと睨みつけ「その名前今日は禁句」と言えば肩をすくめられる。
    「別に良いけど。今日の浮奇はとっても素敵なのに表情のせいで台無しだよ? もっと可愛い顔をしてくれない?」
    「俺はいつでも可愛いけど」
    「もちろん。いつでも」
    「……飲み放題も付けられるけどどうする?」
    「さすがに今の浮奇が酔っ払ったら僕一人じゃ相手しきれないよ。ソフトドリンクだけにして」
    「……」
    「帰りは家まで送ってあげるから、飲みたいなら家で飲もう?」
    「……家は、やだ」
    「……。とりあえず食べよっか」
    告知が出てからずっと行きたいと思っていたケーキバイキングはどれも可愛くて美味しくて、とっても甘い。幸せな気持ちが胸に広がると、同時に彼のことも思い出して心臓が痛んだ。ショートが可愛らしく「おいしい〜!」とはしゃぐ声も、頭の中で再生される大好きな人の嬉しそうな「おいしい」の呟きにかき消されてしまう。彼は甘いものはあまり食べないけれど、それでも俺が「おいしいから食べて!」とケーキを差し出せば必ずそれを食べて感想を聞かせてくれた。彼の豊富な語彙で、時々適当に返される褒め言葉が可愛らしくてすごく好きだった。
    「浮奇」
    「……ん、なに?」
    「何考えてるのか当ててあげようか」
    「……」
    「デート中に他の男のこと考えるなんて失礼だなあ」
    「……喧嘩したんだ」
    「うん」
    「……俺が悪いんだけど、ムカついちゃって、許せなかったし、謝れない」
    「浮奇は頑固だもんね。そこも可愛いとこだけど。放っておかれてんの? むこうも怒ってる?」
    「ふーふーちゃんが怒ってくれればいいんだけどね。一回宥めにきてくれたのをガン無視したら、それから一日話しかけてこない」
    「わーお。浮奇、黙るの怖いからやめた方がいいよ。美人は怒ると余計に怖い」
    「……嫌われたら、どうしよう」
    「嫌わないでしょ、今さらそんなことで」
    なんでもないことのように軽く言われ、俺は涙目でショートを睨んだ。「だってファルガーだよ?」と言われても、ふーふーちゃんだから俺はこんなに悩んでるんだ。ふーふーちゃん以外の誰に嫌われてもいいけど、ふーふーちゃんにだけは嫌われたくない。いくら優しいふーふーちゃんでも、もう俺に愛想を尽かしたかもしれない。
    「浮奇ってすごいネガティブだよね。全部が悪い方に行くと思ってる」
    「……だって、実際そうでしょ、現実なんて」
    「ファルガーと出会えて、恋人同士になって、同棲までしてるのに?」
    「だから俺の一生分の幸せはもう使い切っちゃったんだ。あとは落ちるだけ」
    「勝手に諦めて、先に手を離そうとしてるのは浮奇じゃない? 喧嘩したら仲直りすればいいだけだよ。たかが喧嘩でこの世の終わりみたいな顔しないで」
    「仲直りなんてどうやればいいのかわかんないもん……」
    「……いつもイチャイチャしてるみたいに、キスのひとつでもすれば?」
    「むり……」
    「じゃあもうファルガーに任せな。あっちの方が浮奇より大人だもん、仲直りの仕方もきっとよく知ってるよ。浮奇は黙ってファルガーの隣に座って、あとはファルガーがどうにかしてくれるから絶対に無視しないこと。そんくらいならできるでしょ?」
    「……ふーふーちゃん、怒ってるかも」
    「怒らないってさっき自分で言ってたじゃん。大丈夫だよ」
    「……ショート」
    「うん」
    「もっと、大丈夫って、言って」
    「……大丈夫だよ。浮奇とファルガーはムカつくくらいラブラブだし、簡単に離れたりしない。浮奇がファルガーのことをまだ大好きだって言えるなら絶対大丈夫」
    「……だいすきだよ、ずっと、ぜったい、いちばんすき」
    「ん、じゃあちゃんと仲直りしておいで。僕だってせっかくデートするならニコニコ笑ってる浮奇がいい」
    「……ありがと」
    ショートはベッと舌を出して生意気な顔を作り、ケーキを取りに行くために立ち上がったついでに俺の頭を撫でてくれた。小さな手に撫でられて、頭に浮かぶのはやっぱりふーふーちゃんのこと。硬くて冷たいけれど、優しさに溢れた大好きな手に触れて欲しかった。
    ショートと話したおかげか頭を満たしていた怒りの感情はもうどこかにいって、今は寂しさでいっぱいだった。たった一日話してないだけで、彼の声が聞きたくて死にそうだ。喉が渇くみたいに彼が足りなくて心が枯れている。
    「もう帰る?」
    「え?」
    「帰りたいって顔してる。浮奇の分も僕が食べといてあげるし写真も後で送ってあげるから、帰ってもいいよ?」
    「……俺が誘ったのに」
    「うん、だから次はもっと良いとこ連れてって。浮奇の奢りでね?」
    「……あとで連絡する」
    「ファルガーと仲直りしてからにして。もう不機嫌な浮奇はゴメンだから」
    「がんばる」
    「うん、がんばって。浮奇なら大丈夫だよ」
    「ありがと!」
    お皿いっぱいのケーキを食べながら、ショートはいつも通り俺に手を振った。とっておきの日の高いヒールでも転ぶことなんてなく、俺はホテルを出てすぐにタクシーに乗り込んだ。一人きりになると途端に不安な気持ちになったけれど、手を握って心の中で「大丈夫」と呟くとショートの声が優しく重なってすこしだけ安心した。大丈夫、きっと、大丈夫だ。
    家に着いて玄関を開けると心臓が壊れそうなくらいうるさく鳴った。不安で、怖くて、泣きそうになりながら、ゆっくりとリビングに向かう。入り口に背を向けるようにして置いてあるソファーに、彼は座っていた。むこうを向いたまま動かない。スリッパに履き替えていない俺のヒールが鳴らす足音は聞こえているはずなのに。ぎゅっと握った指先が冷たくて視界が滲んだ。でも、まだ、逃げちゃダメだ。昨日俺に声をかけてくれた彼のことを俺は無視したんだから、こんなことで逃げちゃダメ。
    鼻を啜る音が鳴らないように気をつけてそっと深呼吸し、俺はソファーに近づいた。まだ、彼はこっちを向いてくれない。本を開いて俯いた横顔は大好きだけれど、今は寂しくてダメだった。ズッと鼻を啜った音に、彼の指先がピクリと跳ねる。俺は彼の隣に座ってソファーに手をつき、怖々と彼の太ももに指先を触れさせた。
    お願い、ふーふーちゃん、わがままで頑固で可愛くない俺のことを許して。声をかけることすらこんなに怖いのに、俺に話しかけてくれたキミを無視してごめん。仲直りの仕方も全然わからない俺だけど、これから頑張るから、俺のことを嫌いにならないで。大好きなんだ。
    彼の隣に座るだけ。それだけでも俺は勇気を使い果たしていて、もうこれ以上どうすればいいのかわからなかった。一秒が一分に思えるくらい長くって、これを無視されてふーふーちゃんがどこか行っちゃったら俺は死んじゃうかもしれないって、またマイナスな方向に思考が落ちていく。涙はとっくに溢れていた。
    「……浮奇」
    「っ!」
    「……もう、怒ってないか?」
    不安そうな声で、ふーふーちゃんがそう言った。俺は反射的に彼のことをぎゅっと抱きしめて、ふるふると首を左右に振る。怒ってない、もう、全然怒ってないよ。グスッと鼻を啜り「ごめんなさい」と呟くと、彼の腕が俺の背中に回って、力強く俺のことを抱きしめた。
    「よかった……」
    「ん、う、もう、ふうふうちゃん、なんでそんな」
    「ごめんな、浮奇。泣かせてごめん」
    「ちがっ、おれが! おれが悪いんじゃん……! ふーふーちゃんは、あやまらなくていいのに」
    「浮奇の気持ちを理解してやれなかった俺も悪いんだよ。それに浮奇が泣いているのは俺のせいだろう。大好きな人を泣かせてしまったんだから、謝罪くらいさせてくれ」
    「俺が全部悪いんだもん……」
    「そんなことないよ。……自分から来てくれてありがとう。怖かったよな、ごめんな」
    「んん……俺も、昨日、無視してごめん……。話しかけるの、こんなに怖いなんて知らなかった……」
    「いいんだ、俺のタイミングが悪かった。俺は一人で話すのも得意だし大丈夫だよ」
    俺の頭を優しく撫でてくれる大きな手に甘えてしまってはいけない。ふーふーちゃんは俺より大人で、性格が良くて、人付き合いも上手だけど、だからって全部彼に背負わせたくはない。涙に濡れたままの顔を上げふーふーちゃんと目を合わせると、彼は少しだけ笑って俺の頬を撫でた。
    「甘えてばっかでごめんなさい」
    「……俺は浮奇に甘えられるのがすごく好きだから、謝らないでほしいんだが」
    「甘やかさないで……」
    「好きな子を甘やかさないで誰を甘やかすんだ。浮奇は俺のこと優しい大人だなんて思ってるかもしれないけれど、そんなことないからな。おまえだけ、特別に優しくしてるんだよ、浮奇」
    「……これ以上、好きにさせないで……」
    「計画通りだ」
    また溢れ出した涙をふーふーちゃんは笑いながら拭って、俺の目元や頬にキスをした。俺もふーふーちゃんの額や鼻にキスをして、ジッと、二人で見つめ合う。
    「……仲直りのキスをしても?」
    「……うん」
    優しく重なった初めての仲直りのキスは、俺の涙の味がした。
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