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    ラーヒュン ワンライ 「酔っ払い」 2024.05.27.

    #ラーヒュン
    rahun

    「ワイン一杯で記憶を失うんだ。ミストバーンからも、体が傷むので飲むなと禁じられていた。いまも一滴も口にしないようにしている」
     生真面目な友を酒に誘ったらば、そんな理由で断られたのだ。酔ったら一体どうなるのか俄然見たくなるというものだ。
     ラーハルトはヒュンケルを自室に招き、どれほど面倒な酔い潰れかたをしようと必ず手厚く介抱をするから、と固く約束をして、飲酒をさせてみた。
     するとヒュンケルは、ワイン一杯を飲み干した途端に人が変わった。
    「おまえ、イイ男だな」
     と自らの椅子を立ち、ラーハルトの膝へと座ってきた。
     振り返るように腰掛けて頬に触れようとしてくる、その手を捕まえて止めた。
    「そういう酔い方なのかおまえ……」
    「別にいいだろう? 足はオレが開いてやるのだから、おまえに損はないぞ?」
     口づけを迫られたラーハルトは、素早く親指でヒュンケルの脾をついて、意識を奪った。



    「昨夜はありがとう。久々の酒はとても美味かった」
    「記憶は?」
    「やはり無い。オレはどんな様子だった?」
    「……すぐに寝てしまった」
    「そうか。ならまた休みの前にでも飲むとするよ。今回は翌日の運動機能にも支障が出なかったしな」
    「いつもは出ていたのか?」
    「ああ。足腰が鈍って動きづらかった」
    「それは……」
     ミストバーンが体が傷むと難色を示した理由について、嫌な仮説を立ててしまった。
     これは、余所で飲ませるわけに行かない。
     ラーハルトはヒュンケルの酒に付き合うことにした。要は自分の身持ちが堅ければ済む話だろうと。
     しかし次に飲んだ時、彼は怒りの形相になった。
    「おまえ、この間はやってくれたな。オレに誘われて落とし技を掛けて来たヤツは初めてだぞ。今度は油断せん」
     抱きついてきた彼を、ぐいと押し返す。
    「待て、貴様……以前に酔った時の記憶があるのか!?」
     飲酒時の記憶が消え去っているのではなく。
     飲酒時の記憶が独立しているというのであれば。
    「なんてこった……二重人格ではないか」
    「ああ。オレはオレだ」
     友へのふとした興味から、とんだ藪を突いてしまったようだ。ラーハルトは出てきた蛇を見据える。
    「おい、酔っ払い」
    「それはオレのことか?」
    「そうとでも呼ぶしかあるまい。酔っ払いよ、おまえの事を教えろ」
    「構わんぞ。暴露も一種の発散だしな」
     話によるとヒュンケルは、ミストバーンに飲酒を禁止されるまでは憂さ晴らしに部屋でよく飲んでいた。その度に適当な輩を呼び込んで性行為に耽っていたらしい。行為は受け身で、一晩に何人もの魔族を相手にすることもあったとのことだ。翌日の下半身がガタガタなのも納得だ。
     嫌な仮説の通りだった。ラーハルトはテーブルに肘を突いて頭を抱えた。
    「男にやられるのが趣味だったとは」
    「言うな。必要な処置なんだ。オレはヒュンケルの“甘え”の部分だ。ベタベタしたい、頼りきりたい、流されたい、喚きたい。日頃は過度に封じ込めているそれらを発散させてやる役目を負っている。おまえが酒を飲ませてくれて助かったよ。そろそろパンク寸前だったんでな」
    「どうすればおまえは消える」
    「おまえ……オレがヒュンケルの下位人格だと思っているな? 逆だぞ。ヒュンケルはオレの存在すら知らないが、オレにはヒュンケルの心がわかるのだからな」
    「心がわかるだと?」
    「その証拠にひとつ教えてやる。ヒュンケルは、おまえに惚れている」



     眉唾であった。ラーハルトは恋愛などには疎い男であったが、それにしてもヒュンケルの態度には惚れた腫れたの欠片すら見当たらない。
     早々に疑問を潰すことにした。
    「ヒュンケル、おまえオレに惚れてるのか?」
    「いや? 特には……」
     という昼間のやりとりについて。
     休み前日の定例となっている晩酌で、ワイン一杯を飲ませてから、呼びかけてみた。
    「おい、酔っ払い」
    「なんだ」
    「あれはどういうことだ?」
    「オレはヒュンケルの心がわかるだけで、あいつの記憶まではないぞ」
     説明して聞かせれば酔っ払いは、馬鹿正直に尋ねるヤツがあるか、と罵ってきた。
    「アイツが発散が下手すぎるからオレが居るんだぞ? 簡単に口を割るわけないだろうが」
    「ならどうすればいい」
    「おまえの台詞でかなり動揺している。まずは軽いスキンシップ程度にしておけ」



     それからというもの。
     飲酒の日には、ワインの一杯目をヒュンケルと楽しく語らい、その後には酔っ払いと話した。
    「おい、酔っ払い」
    「なんだ」
    「今、アイツから触ってきたぞ。なんと肩を叩いてきたのだ」
     と、本人の顔に向かって言うのもおかしな気がするが。
     酔っ払いは満足げに腕を組んだ。
    「よし、それだけ距離が縮んだなら、今度は近くに来たタイミングで名前でも呼んでやれ。おまえの囁き声にも弱いからな」



     休みの前の夜には、ワイン一杯を飲み終えたヒュンケルに相談をする。
    「おい、酔っ払い」
    「なんだ」
    「ヒュンケルが生意気になってきたのだが」
     すると彼は拍手で囃し立ててきた。
    「いいぞ。段々と遠慮がなくなってきたな。心配するな、ヒュンケルは前よりもおまえの事が好きだ。もっと押せ」



     だが、幾つめかの飲酒の日を迎えて、ラーハルトは気付いたのだ。
    「おい、酔っ払い」
    「なんだ」
    「これはもしや恋愛の手引きをされているのか?」
    「そうだな」
    「なぜオレが」
    「なんだ、おまえもヒュンケルに執心なのではないのか」
    「そんなんじゃない。友として、今の状況を看過できぬだけだ」
     酔っ払いはつまらなさそうにワインのボトルを指先で撫でた。
    「ならば続けろ。以前、『どうすればおまえは消える』と聞いたな? ……手段はあるんだ」
    「どんな?」
    「アイツが甘える先さえ見つけられれば。そうしたら、オレはもう不要だ」
     だから消えるというのか。
    「そうか……。オレはおまえも気に入ってたんだが。残念だ」
    「案ずるな。オレという要素は元々ヒュンケルのものだ。……生意気になってきたのだろう? オレとアイツが混じり合って一つに戻ってゆくだけのことだ」
    「……次はどうすればいい?」
    「キスでもしろよ。多分、もう逃げられない」
     酔っ払いは拗ねたみたいにフンと鼻息を吹いた。
    「おまえだって、オレとするより、初々しくキスに狼狽えてくれるヤツの方がいいだろ」
     こういう可愛さも元々ヒュンケルのものなのか。悪くない。



     初めてのキスをした日。夜は共に酒を飲んだ。
     ワイン一杯を飲んだヒュンケルに。
    「おい、酔っ払い」
     と、声を掛けたら。
    「酔ってない」
     ずいぶんと甘えた声で返事をされた。
     酔っ払いはもう、居ないようだ。









    2024.05.27. 20:45~22:10 +α



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