ラーハルトは人間から受け取った物には決して口を付けない。それはヒュンケルが相手でも同様であった。
だからヒュンケルは、彼の興味が引ける方法を考えた。
焚火を囲んで遠くに座る彼へ、腕を伸ばして串を差し出した。
「これがオレの一番好きな焼き加減なんだ」
「どれ……」
ひょいと取り上げられ、彼の歯がそれを囓った。
カチャリと扉が開いた気がした。
ラーハルトは他者の手が届く距離に決して身を置かない。ヒュンケルはそこに入りたかった。
だからヒュンケルは、少しだけ嘘を吐いた。
「この地名の読み方が分からん」
「どれ……」
地図を見せると、彼が隣に立った。
カチャリ。
彼の深くに近付いていく。どうやったらもっとラーハルトの心を開けられるだろうか。
ヒュンケルはその手段を考える事に没頭していった。
ラーハルトは誰にも体を触らせない。ヒュンケルは彼の温度を知ってみたかった。
難を払って剣を収めた時、ラーハルトの頬に一滴の返り血を見つけた。
「ついてるぞ」
「……!」
親指で拭ったら、手を強く掴まれた。
これは失敗だったようだ。
謝罪しようと口を開いたら、後頭部に手を回されて舌を突っ込まれた。何度も挿してかき回される。
カチャリ。カチャリ。カチャリ。
幾つも開かれて、一番奥まで辿り着かれて中身をごっそり奪われた。
「迂闊だったなヒュンケル。こんなに近寄ったらやられるぞ」
「……扉はオレの方だったのか」
2023.09.16. 09:45~10:20 SKR