横殴りの雨が宿の窓硝子を勢いよく叩いている。
その雨を物思いにふけながら見つめるヒュンケルの耳に、恋人が扉を勢いよく開けた音が入ってきた。
「どうだった?」
「駄目だ。川を渡る船も、迂回路を行く馬車も、どちらも当分の間出そうにも無い。」
雨で濡れた髪をタオルで乱暴に拭きながらラーハルトが応える。
「……連日のこの雨では当然か。ということは、まだしばらくの間宿に拘束されるわけか。」
ヒュンケルはといえば、彼を休ませたいラーハルトと雨の利害が一致したのかしないのか。それはわからないが、もう昼を過ぎたというのにベッドの上でブランケットにくるまっている。
「そういうことになるな。ま、もうしばらくの辛抱だ。」
そう言ってラーハルトは、小さなテーブルに置いてあった本を手に取る。パラパラとページをめくっては、数行読むを2、3度繰り返す。そうして自分が読み進めた箇所を見つけたラーハルトは、背もたれの無い椅子に座るとその続きを読み始めた。
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