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    urami_imop

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    urami_imop

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    曦澄ワンドロ②
    お題は犬、でした

    正直、この時の私は何が書きたかったの?ってくらい話がまとまってない🙏なむ

    #曦澄

    大好きで仕方がない

     夜狩の帰り、江澄は姑蘇へ向かうことにした。前々からしつこく魏無羨から雲深不知処へ来る様に言われていたのだ。
     要件を尋ねても教えないものだから無視していたが、流石にここまで無視すると次会った時に何をされるかわからない。どうせ帰ってもまた執務に追われて外に出る機会を作るのは難しい。
     いくつか寄り道の理由を並べながら御剣していたが、少し先の空で稲妻が走る。先程から雲行きは怪しかった。
     しかし予想以上に変化が早い。次第にぽたりぽたりと江澄の頬に雨粒が落ちる。
    (田舎め……どこか雨宿りできる場所はないのか)
     山道の中、小さな民家を見つける。この辺りは人が住み着くほど、穏やかな地形ではないためこれ以上探しても時間を食うだけだろう。ここで雨宿りさせてもらうことにした。
    「あ……」
    「…阿澄」
     家の軒下には先客がいた。今、江澄が一番会いたくない人ーー藍曦臣だった。彼とはいわゆる恋仲である。
     しかし義兄のように周囲の目を気にせず乳繰り合う様なものではない。お互い宗主同士だ。自分の評判や噂はそのまま家や弟子達び影響する。
     江澄は墓までこの秘密を持っていく覚悟であったが、藍曦臣は違う。彼は二人の事を世に明らかにしたい。それだけでなく、自分が宗主を退き江家に嫁がせて欲しいと懇願した。
     以前からその件ですれ違うことはあったが、先日の清談会後についに口論になってしまったのだ。

     雨は次第に強まるが、江澄の脚はぴたりと止まってしまった。ここで帰ってしまうのも負けた気がするし、さらに溝が深まってしまう。それに江澄とて、ずっと恋人と喧嘩したままでいたいわけではないのだ。
     しかし素直に歩み寄れないのが江晚吟なのである。
    「阿澄、おいで」
     そして、そんなところも愛おしく感じるのが藍曦臣なのである。彼は雨も気にせず、門の手前で立ち尽くす江澄を迎えに行く。
    「あっ……」
    「こんなに濡れてしまって可哀想に」
     江澄の頬に張り付く髪をはらう。それだけなのに江澄はビクついてしまう。
    「あ、貴方まで濡れてしまう」
    「では私と雨宿りに付き合ってくれるかな」
     返事をする前に腕を握られ引かれていく。軒下は大の男2人が肩を並べるには少し狭かった。隣の彼は誰よりも心も身体も知っている相手のはずなのに、先日の口論のせいでどう接すればいいかわからない。
     気まずい時間が流れる。あまりに苦痛でここで世間話でもできれば、そこから話を持っていって素直に謝れたかもしれない。
     江澄は脳内で必死に言葉を選ぶが、溢れてくるのは皮肉ばかりだった。雨のせいもあり自分の卑屈さが嫌になる。
    「……寒いでしょう。声は掛けたのですが誰もいない様でして、せめてもう少し雨が和らいでくれればいいのだけれど」
    「ここで構わない」

    ーー気遣いありがとう。その細やかな気遣いが好きだ。言葉にしてやれなくてすまない。

    「ですが寒そうだ。手を貸してごらん」
    「いらない」

    ーー貴方まで冷えてしまう。嫌だ。悔しくて情けない。

    「ならせめてもう少し側に寄ってもいいかい」
    「それも駄目だ」

    ーーこれ以上、貴方を側に感じてしまうと堪えていた涙が止められなくなるんだ。
     雨で隠しきれなくなってしまうくらいに、声を上げて惨めに泣きついてしまう。
    「そう……なら仕方ない」
    「別れるつもりか!?別れてなんかやらないからな!愛らしく甘えられる恋人がよかったか。悪かった可愛げのない男で!でも貴方をこれ以上愛してしまうと、もう貴方を離してやれない。俺は誰よりも蓮花塢が大切で、それでも貴方も大切で……俺が貴方を愛してしまうことで二つも失ってしまうのが怖い……」
     雷の様に激しかったが、言葉尻はか細く弱々しいものだ。
     吐露した思いは江澄がずっと醜く汚いと隠していたものだった。大切なものを失う事を恐れているなんて弱い自分を知られたくなかった。
     そして、それ以上に江澄も藍曦臣を譲れないくらいに愛している事は隠していたかった。恋と呼ぶには相応しくないくらいに独占欲と執着が入り混じっていたからだ。
     藍曦臣が自分以外に優しく微笑むのも、藍曦臣が自分以外のことを思って憂うことも、藍曦臣が自分以外を慈しむことも許せない。そして何よりこの思いを知られれば、自分は藍曦臣を諦められないと気付いていたのだ。
    「悪かった。今までありが……なっ!なんて顔してるんだ」
     俯いていた顔を上げると、藍曦臣は真っ赤になっていた。泣き喚いた後の江澄にも頬の赤らみが伝染してしまうくらいに。
    「嗚呼、阿澄なんて意地らしい。こんなに熱烈に愛を告げられたのは生まれて初めてだ。ずっと愛されているか不安で、だからといって先日は貴方に当たってしまいすみませんでした」
    「はぁ!?」
     濡れた体なんて厭わずに藍曦臣は江澄に抱きついて離さない。
     はじめこそ必死に抵抗していたが、愛しい人に抱きしめられて拒めるほど江澄は強い男ではないのだ。それに思いを口にして恥ずかしくどこかに隠れたかった。江澄は愛しい人の腕に隠れた。

    「ねぇ? お兄ちゃん達って好き同士なの」
     甘い情人の逢瀬を子どもの無邪気が遮る。
     ここのうちの家の子だろう。まだ文字の読み書きもおぼつかないくらいの男の子どもが2人を見上げていた。
    「あ……」
     いつまで抱きしめあっていたのだろうか。雨はすっかり止んでいた。
     子どもは両手いっぱいに果物を持っていた。使いの帰りなのだろう。両親が側にいなくて幸いだった、と江澄は胸を撫で下ろす。離れようとすれば藍曦臣は代わりにとばかりに手を重ねてきた。
    「おい! 子どもの前だぞ」
    「ねぇ!? どうなの!」
    「どうなんですか? 江哥哥」
    「曦臣!」
     藍曦臣は普段見せない悪戯な笑みを浮かべる。自身はずっと弟という立場だった江澄は胸がこそばゆくて仕方がなかった。
    「うーん……」
     藍曦臣の期待の眼差しが突き刺さる。ここは素直に答えてやればいいかと思ったが、意地悪された後なのでどう返してやるかと頭を悩ませる。
    「犬だな」
    「犬!?」
    「わんちゃんなの? でもこのお兄ちゃん人間だよ」
    「そうだ。確かに人間だが犬みたいに優しくて可愛くて俺に従順で……この人が大好きで仕方がないんだ」
     藍曦臣は江澄からの真っ直ぐな想いに胸を押さえた。そして確信した。この恋人を世界中に自分のものだと知らしめようと。何が何でも果たさねばならない。
     そうしないとこれ以上、彼に惚れてしまう可哀想な人を増やしてはいけない。自分がいる限りその想いは果たされることはないのだから。
    「阿澄!私も、私も貴方が大好きです。愛してます」
    「大好きなのは犬のことだ!!」
    「それでも嬉しいです。さあ雲深不知処へ帰りましょう」
    「やめろ!腰を引くな!自分の剣に乗らせろ」
     取り残された子どもは何処までも騒がしい二人を見えなくなるまで見送っていた。
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    PROGRESS恋綴3-5(旧続々長編曦澄)
    月はまだ出ない夜
     一度、二度、三度と、触れ合うたびに口付けは深くなった。
     江澄は藍曦臣の衣の背を握りしめた。
     差し込まれた舌に、自分の舌をからませる。
     いつも翻弄されてばかりだが、今日はそれでは足りない。自然に体が動いていた。
     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
    「んんっ」
     気を削ぐな、とでも言うように舌を吸われた。
     全身で壁に押し付けられて動けない。
    「ら、藍渙」
    「江澄、あなたに触れたい」
     藍曦臣は返事を待たずに江澄の耳に唇をつけた。耳殻の溝にそって舌が這う。
     江澄が身をすくませても、衣を引っ張っても、彼はやめようとはしない。
     そのうちに舌は首筋を下りて、鎖骨に至る。
     江澄は「待ってくれ」の一言が言えずに歯を食いしばった。
     止めれば止まってくれるだろう。しかし、二度目だ。落胆させるに決まっている。しかし、止めなければ胸を開かれる。そうしたら傷が明らかになる。
     選べなかった。どちらにしても悪い結果にしかならない。
     ところが、藍曦臣は喉元に顔をうめたまま、そこで止まった。
    1437

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    PROGRESS恋綴3-2(旧続々長編曦澄)
    転んでもただでは起きない兄上
     その日は各々の牀榻で休んだ。
     締め切った帳子の向こう、衝立のさらに向こう側で藍曦臣は眠っている。
     暗闇の中で江澄は何度も寝返りを打った。
     いつかの夜も、藍曦臣が隣にいてくれればいいのに、と思った。せっかく同じ部屋に泊まっているのに、今晩も同じことを思う。
     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
     行儀は悪いが誰かが見ているわけではない。
     牀榻の支柱に頭を預けて耳をすませば、藍曦臣の気配を感じ取れた。
     明日別れれば、清談会が終わるまで会うことは叶わないだろう。藍宗主は多忙を極めるだろうし、そこまでとはいかずとも江宗主としての自分も、常よりは忙しくなる。
     江澄は己の肩を両手で抱きしめた。
     夏の夜だ。寒いわけではない。
     藍渙、と声を出さずに呼ぶ。抱きしめられた感触を思い出す。 3050

    takami180

    PROGRESS長編曦澄17
    兄上、頑丈(いったん終わり)
     江澄は目を剥いた。
     視線の先には牀榻に身を起こす、藍曦臣がいた。彼は背中を強打し、一昼夜寝たきりだったのに。
    「何をしている!」
     江澄は鋭い声を飛ばした。ずかずかと房室に入り、傍の小円卓に水差しを置いた。
    「晩吟……」
    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
     かくいう江澄もまだ左手を吊ったままだ。負傷した者は他にもいたが、大怪我を負ったのは藍曦臣と江澄だけである。
     魏無羨と藍忘機は、二人を宿の二階から動かさないことを決めた。各世家の総意でもある。
     今も、江澄がただ水を取りに行っただけで、早く戻れと追い立てられた。
    「とりあえず、水を」
     藍曦臣の手が江澄の腕をつかんだ。なにごとかと振り返ると、藍曦臣は涙を浮かべていた。
    「ど、どうした」
    「怪我はありませんでしたか」
    「見ての通りだ。もう左腕も痛みはない」
     江澄は呆れた。どう見ても藍曦臣のほうがひどい怪我だというのに、真っ先に尋ねることがそれか。
    「よかった、あなたをお守りできて」
     藍曦臣は目を細めた。その拍子に目尻から涙が流れ落ちる。
     江澄は眉間にしわを寄せた。
    「おかげさまで、俺は無事だったが。しかし、あなたがそ 1337

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    ツイスターゲームをしようとする付き合い立て曦澄。
     確かに、藍曦臣があげた項目の中に「これ」はあった。そして自分もしたことがないと確かに頷いた。
     ただ、あまりその時は話を聞けていなかったのだ。仕方がないだろう?
     付き合い始めて一か月と少し。手は握るが、キスは付き合う前に事故でしたきりでそれ以上のことはしていない。そんな状態で、泊まりで家に誘われたのだ。色々と意識がとんでも仕方がないではないか。もしもきちんと理解していれば、あの時断ったはずだ。十日前の自分を殴りたい。
     江澄は目の前に広がる光景に対して、胸中で自分自身に言い訳をする。
     いっそ手の込んだ、藍曦臣によるからかいだと思いたい。
     なんならドッキリと称して隣の部屋から恥知らず共が躍り出てきてもいい。むしろその方が怒りを奴らに向けられる。期待を込めて閉まった扉を睨みつけた。
     だが、藍曦臣が江澄を揶揄することもないし、隣の部屋に人が隠れている気配だってない。いたって本気なのだ、この人は。
     江澄は深いため息とともに額に手を当てる。
     「馬鹿なのか?」と怒鳴ればいいのだろうが、準備をしている藍曦臣があまりにも楽しそうで、金凌の幼い頃を思い出してしまうし、なんなら金凌の愛犬が、 4757

    sgm

    DONEお風呂シリーズ可愛いね~~~!!ってとこからの派生。
    江澄の右手の後ろに蓮の花が見える気がしました。フラワーバスですか。ちょっと見えすぎじゃないでしょうか。江宗主。大丈夫ですか。いろいろと。
     ゆるりと意識が浮上した途端、少しばかりの暑さを覚えて江澄は小さく眉根を寄せた。覚醒するうちに、五感が少しずつ戻ってくるのが、閉じたままの瞼の裏がほんのりと橙色になり、すでに陽が昇っていることが分かる。
    「ん……」
     小さく声を漏らしてから、ゆっくりと瞼を上げた。ぼんやりと目に飛び込んできた天井を暫く眺めて、寝返りを打つ。隣にいるはずの男がいない。卯の刻は過ぎているのだろう。手を伸ばして男がいただろう場所を探るとまだ少し温もりが残っていた。一応用意しておいた客房に戻って着替えているのか、瞑想でもしているかのどちらかだろう。ぼんやりと温もりを手のひらで感じながら、牀榻に敷かれた布の手触りを楽しむ。蓮花塢の朝餉は辰の刻前だ。起きるにはまだ早い。寝ていていいとは言われているが、共寝をする相手の起きる時間にすっかり身体が慣れてしまった。冬であればぬくぬくと牀榻の中にいるのだが、夏は暑くてその気になれない。今もじわりじわりと室内の温度が高くなり、しっとりと身体が汗ばんで来ている。
     江澄は一つ欠伸をすると、身体を起こした。昨夜の名残は藍曦臣によってすっかりと拭われているが、寝ている間に汗をかいた 2456

    sgm

    DONE去年の交流会でP4P予定してるよーなんて言ってて全然終わってなかったなれそめ曦澄。
    Pixivにも上げてる前半部分です。
    後半は此方:https://poipiku.com/1863633/6085288.html
    読みにくければシブでもどうぞ。
    https://www.pixiv.net/novel/series/7892519
    追憶相相 前編

    「何をぼんやりしていたんだ!」
     じくじくと痛む左腕を抑えながら藍曦臣はまるで他人事かのように自分の胸倉を掴む男の顔を見つめた。
     眉間に深く皺を刻み、元来杏仁型をしているはずの瞳が鋭く尖り藍曦臣をきつく睨みつけてくる。毛を逆立てて怒る様がまるで猫のようだと思ってしまった。
     怒気を隠しもせずあからさまに自分を睨みつけてくる人間は今までにいただろうかと頭の片隅で考える。あの日、あの時、あの場所で、自らの手で命を奪った金光瑶でさえこんなにも怒りをぶつけてくることはなかった。
     胸倉を掴んでいる右手の人差し指にはめられた紫色の指輪が持ち主の怒気に呼応するかのようにパチパチと小さな閃光を走らせる。美しい光に思わず目を奪われていると、舌打ちの音とともに胸倉を乱暴に解放された。勢いに従い二歩ほど下がり、よろよろとそのまま後ろにあった牀榻に腰掛ける。今にも崩れそうな古びた牀榻はギシリと大きな悲鳴を上げた。
    66994