黒猫の祝福 小さな集落で緋美花はひとりの赤子を抱く。
黒い耳に二股の尻尾、先程産まれたばかりの我が娘だ。顔は……何となく自分似だろうか?
この子は一体どんな子に育つのだろう?
もし自分に似るなら……お転婆で、時折思い切った行動をする子になるのだろうか?
何にでも興味を示して、年頃になったらマタタビにでも酔っ払うようなありがちな失態でもおかすかもしれない。
失敗することも沢山あるかもしれない。もちろん思い通りにならない事も多いだろう。それでも自分の意志というのは大切だ。
どんな事があってもめげずに自分の気持ちを大切に出来る子になってくれればいい。
そしていつか自分を助けてくれたあの人のように、自分の信念に真っ直ぐで、助けたいと思う人を助けらるような素敵な人に育ってくれたらなお良い。
……流石に初対面で敵対してるような相手に恋をするようなところまでは似たりしないだろうけど。
何も知らない無垢な赤子ではあるけど、この子にはいずれ天無月と共に背負わなければならない使命がある。
不運に見舞われる事もあるだろう。きっと多くの苦難があるのかもしれない。けど、そんな苦難に負けず大きくなってほしい。
母親として娘の幸せを思う願いは尽きないけれど……でもきっと成長して綺麗になった娘の笑う姿を見られたらそれで十分かもしれない。
現在、リュカオーンはマルコシアスの加護下にある。けど、それも万全ではない。
過去に魔術師に襲われた例は幾つもあるし、天無月を盗まれる事件だってあったのだ。
もしも狙われたらその時は全力で守る。例え自分の命と引き換えでも、里の存続と引き換えででも……
何があってもこの子だけは絶対に……
猫妖精は世界でもっとも祝福された妖精と伝わっている。
もし自分の祈りも届くなら――
――愛しい我が娘に幸せという名の祝福がありますように。