紅を隠す雲 曦臣と江澄が付き合い始めて早数年。付き合い初めの頃は互いに忙しくなかなか会える時間もとれず逢瀬にも苦労があったが、それも今となってはいい思い出だ。そしてあの時江澄がもらった婚礼衣装用の赤い布も当時のまま引き出しにしまってある。もちろんそのままでは虫に食われてしまう可能性もあるので、保存のための術がかけてある。江澄はその布がしまってある引き出しをたまに開けてはひと撫でして閉める。この布を見るたびに江澄は曦臣との婚礼を想像しては、その光景の中心に自分がいる幸せを噛み締めていた。
金凌も宗主としてだいぶ動けるようになったし、もういい加減暗殺の心配もなくなり、金家内部も安定してきた。江家は他の仙門に比べると新規門弟も多く、いつも賑わっている。藍家は曦臣が閉関を解いてすぐは、規模こそ小さいが野望だけは大きい仙門が、この機会に取り入ろうと復帰したばかりの曦臣をこぞって訪ねた。おかげで曦臣と江澄は逢瀬の時間をほとんど取れず互いにやきもきもしたが、その時に曦臣を訪ねてきた便乗仙門は、この数年で統合なども含めほとんどが消え去った。そして知らぬ存ぜぬの三不知・聶懐桑の聶家は、江家ほどではないが入門者が以前より増えていた。懐桑がただの三不知ではなかったことを聞きつけた者たちがこぞって聶家の門を叩いたからだった。
四大世家がそれぞれに活発になり安定をしてきたことで、世の中は以前に比べて平和になってきていた。平和とはいえ邪祟はいるので、仙門の役目がなくなることはないが、人間同士の争いが減ったことで、邪祟の出現頻度も動乱の時代の頃と比べたら少なくなってきていた。
江澄はこの時を待っていた。
『婚礼の儀式を執り行いたい』
これは江澄の、そして曦臣の望みであった。互いが宗主である間は一緒に住まうことは叶わなくても、道侶として天に地に、そして両親や姉上に報告がしたかった。
「曦臣はどう思うだろうか……」
曦臣が「不」と言うことはないとわかっているが、こういうのは時期が肝心なのだ。江澄も曦臣もそれはわかっていた。
「さて、文でも書くか。」
そう言って、江澄は曦臣宛の文を書き始めたのだった。
◇
久々に江澄から私的な文が届いた。こういった関係になってすぐの頃は、曦臣が特に忙しかったことや、江澄からの文が閉関を解くきっかけになったことを話したら、慣れないながらも曦臣のことを思って江澄は文を書いてくれていた。その後公務も落ち着き、逢瀬の時間が定期的に取れるようになってからは、江澄からの文は減ってしまっていたが、それでもたまに書いてくれた。もちろん曦臣も返事を書くが、筆の速さを江澄に叱られたこともあった。
「ふふっ、懐かしいな。」
そんな独り言をこぼしてから、曦臣は江澄からの文を開けた。
「……」
江澄からの文を確認した曦臣は、早速返事を書き始めたのだった。
◇
「阿渙!」
血相を変えて江澄が雲深不知処を訪れたのは、曦臣が文の返事を書いて三日後だった。
「阿澄、どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないだろう!あの内容はなんなんだ!」
「なんだも何も、あれが私の考えだよ。」
「どうして……!」
江澄は曦臣の考えがどうにも信じられず、雲深不知処を訪れたが、やはり文の内容は間違いなく本当のようだった。事実と知った江澄は今にも泣き出しそうだ。それに気付いた曦臣は優しく江澄に声を掛け、座を勧めた。
「阿澄、ここに座って。」
そうして示されたのは曦臣の膝の上だった。曦臣は江澄が座りやすいように足を崩し、膝をぽんぽんと叩いてそこに座るよう促す。江澄は少し渋ったが、曦臣がいつもと変わらない様子なので、不機嫌を浮かべたまま示された場所に腰を下ろした。
膝の上に座っているので仕方ないが、顔が近い。こんな時でも江澄を膝の上に座らせる曦臣も曦臣だが、それに素直に応じる江澄も江澄だ。まったくこの二人はこんなにも互いを愛し合っているのに、今更何を疑うことがあるのだろうか。
「阿澄ごめんね。あなたを不安にさせてしまった。」
曦臣は江澄の手をきゅっと握りながら、青みがかった薄紫の双眸をまっすぐ見つめた。
「謝るくらいなら、なぜ『不』と書いてよこしたんだ。理由を聞かせてほしい。」
そうなのだ、曦臣は江澄からの婚礼の儀を断っていた。それは江澄も血相を変えて雲深不知処に訪れるのも納得出来る。
「それは……」
珍しく曦臣が言葉を詰まらせた。
「俺のことが飽きたのか?嫌いになったのか⁈」
江澄は気持ちが昂り、今にも部屋を飛び出してしまいそうな面持ちだ。
「阿澄お願い落ち着いて。きちんと理由を話すから!」
珍しく曦臣が声を荒げたと思ったら、寒室の周りに急に結界を張った。その様子に江澄は体をくっと硬くする。
「なんだ、そんなに聞かれたくないのか?」
別れ話を、とまでは言わなかったが、言外には滲ませた。しかし藍曦臣と言う男は、その声になっていない言葉すら拾うのだ。
「阿澄、なぜ私たちが別れると思うの?私は阿澄を現世も来世もその先の未来まで離すつもりはないよ。いつも言っているでしょう?」
「あれ、本気だったのか……」
江澄は藍家の執着の恐ろしさを改めて感じたが、本題はそこではない。なぜ婚礼の儀をあげないと言ったかが聞きたいのだ。
「実は、叔父上の婚姻が決まるかもしれないんんだ。」
曦臣は結界を張っているのに小声で話した。その様子に、事は少々複雑だと江澄も感じ取り、目を見開き静かに頷き、声を出さずに反応を示した。
「決まりそうではあるんだけれど、先方が少し気難しくてね。だから文でも詳細が書けずに端的なものとなってしまったんだ。あ!相手の方はそんなことないのだけれど、ご実家の方がね。それで藍家宗主としてはこれを逃すわけにはいかないから、自分たちの儀はもう少し後にしたいんだ。私としても叔父上にも幸せになって欲しいと思っているし。でも本当は今すぐにでも儀を執り行って、天に地にそして両親と義兄弟に、私の道侶を紹介したいと思っているよ。」
曦臣はそう言って江澄の手を先ほどよりもしっかり握る。その手の感触と、理由を聞いて江澄は安堵し、そして同時に嬉しくなった。自分の恩師の婚姻となればやはり嬉しいものだ。しかも将来の叔父ともなれば、それに協力しないわけにはいかない。
「そう言う事情であれば、文の内容承知した。それと、俺に手伝えることがあれば言ってくれ。秘密裏に協力しよう。」
と江澄が言えば、曦臣は
「ありがとう、阿澄。協力が必要な時はよろしくね。」
と微笑みかけた。
◇
かくして、藍啓仁に遅咲きの春が訪れ、雲深不知処は祝福の空気で満たされていた。
青衡君に代わり、皆を導いてきた藍家の一番の功労者がやっと婚姻を結べる世の流れとなったのだ。それは祝わずにはいられないだろう。この時ばかりは、藍家の長老方も珍しく少し浮かれているように見えた。季節は雲深不知処にも春が訪れた頃だった。
啓仁の婚礼の儀には、江澄も参列していた。もちろん曦臣が呼んだわけだが、啓仁も二人の関係を容認していたので参列できたのだった(とは言え、二人の関係は既に仙門には周知の事実であるが、江澄は何故か認知していないのは仙門七不思議の一つと言われている)
輿入れも家宴も無事に終わり、雲深不知処もすっかり静まり返った頃、曦臣と江澄は雲深不知処内の離れに来ていた。寒室は啓仁の私室と程近く、今日迎え入れた妻と啓仁に気を遣わせないためだった。
「婚礼の儀も無事に終わって、少しほっとしたんじゃないか?」
江澄は当たり前に盃を傾け、曦臣は茶を飲みながら、江澄の晩酌に付き合っている。この雲深不知処内で堂々と酒を飲めるのは江澄と魏無羨くらいなものである。
「そうだね、今日までに色々あったから。」
そう言う曦臣の顔には疲労ではなく嬉しさが滲んでいる。父親代わりだった叔父が、やっと自身の事を優先してくれたのだ。甥としても嬉しさはひとしおのようだった。
「よかったな、渙哥。」
そう言って江澄は曦臣の頭を撫でてやる。
「こうして撫でてもらうのも久々だな。頑張った哥哥をもっと褒めて、阿澄。」
と、曦臣は頭を江澄の方へ傾け、もっと撫でるようにとねだった。そして江澄は要望通りに曦臣の頭を撫でてやる。すると曦臣が、
「そういえば、二人で初めてここで過ごした頃は、阿澄はなかなか素面では『渙哥』とは呼んでくれなかったね。そう思うと、阿澄も色々と慣れてくれたよね。」
と思い出話を始めた。
「あの頃は、人からの愛情をなかなかうまく受け取れなくて、渙哥には苦労を掛けたな。でも、閨では俺がだいぶ苦労したんだから、今となってはお互い様だ。」
江澄にそう言われると曦臣は頬を赤らめた。
「もう阿澄!そう言う事明け透けに言って!」
と反論すれば、
「おやおや?助平な渙哥はどんなことを思い出したんだ?」
と、にやにやしながら江澄は尋ねる。そうやっていたずらっ子気分な江澄を黙らせるべく、曦臣はこの部屋で過ごした夏の日を思い出させる話を始めた。
「お付き合いし始めてすぐの頃、雲深不知処に避暑にきてくれた時のことだよ。帰る予定の前夜は盛り上がってしまって、結局滞在を二日伸ばしたね。あの時の阿澄の乱れる様は、いつ思い出しても興奮するよ。」
と、江澄の中でも一晩で迎えた絶頂の数が三本の指に入るほどの激しい夜の話をされれば、江澄は恥ずかしさとその時の気持ちよさを思い出し、二重の意味で赤面した。
「你っ……!」
「先に言ったのは阿澄なんだ、観念しなさい。」
とにっこり微笑むと、江澄は唇を尖らせ悔しそうにして酒を煽った。
「ところで阿澄、次に雲深不知処に来るのはいつになりそう?」
ごく自然に曦臣が尋ねた。
「日帰りだと二週間後くらいだが、数日予定をと言うなら、三月後になるな。どうした、何かあったか?」
「ちなみに、明日はいつ頃帰るつもりだい?」
「急ぎの用は特段ないからな……なんなら滞在をもう一日中伸ばしたって構わないが……」
「実は少し付き合ってほしい用事があってね。もしよかったら滞在を一日延ばして欲しいんだ。」
「そう言うことは早く言え。伝令蝶は……今送るか。明日の朝だと一番弟子から無粋な返事を受け取ることになりそうだ。」
そう言って江澄はさっと伝令蝶を作り、送り出した。
「彼は気が利くから、きっと大丈夫だね。」
「実務は問題ないが、あなたと付き合い始めた時なんかは、自分既婚者なので!と結構生意気な口を利いてたんだぞ。」
と言うが、そう言っている江澄の表情は実に解けていて、二人の信頼関係が垣間見えるようだ。
「妬けちゃうな。」
そう言って曦臣は江澄を静かに押し倒すと、軽い口付けをする。
「今の会話のどこに妬く要素があった⁈」
優しく倒されたが、腕はしっかり床に縫い付けられたかのように曦臣にしっかり押さえ込まれている。
「無自覚が一番良くないね。阿澄。さぁ明日は早いし、臥牀に行こうね。」
と江澄の声は聞き入れられずに、あっという間に公主抱きされた江澄は、曦臣に連れられて部屋の奥へと消えていった。
◇
翌朝、身支度を整えて寒室に戻った二人を待ち受けていたのは、仕立て屋だった。
「急にお呼び立てしてすまないね。」
その様子から、この仕立て屋は藍家御用達の仕立て屋だとわかる。
「いえいえ、藍宗主からのご依頼でしたら、断ることなどありはしませんよ。」
町の商人よろしく生き生きとした様子の者だが、雲夢とは違って、少し上品さを感じる。これが姑蘇に暮らす人なのかと江澄は改めて感じた。
「では採寸をさせて頂きますね、藍宗主は寸法が変わったなど、最近の衣服で気になることはございませんでしたか?」
と、自然と採寸が始まった。
「それでは江宗主はこちらで採寸致します。」
と呆気に取られている間に江澄は部屋の奥に連れて行かれた。
江澄はされるがままに、曦臣は満足げに採寸を終えたと思ったら、次の職人が寒室を訪れた。彫金職人だった。
「この度はおめでとうございます。」
と職人は深々と頭を下げ、
「それで、意匠はどのようなものをお考えでしたか?」
と当たり前に話が進んでいく。
「髪飾りは豪華過ぎず、華奢過ぎず、と考えていて、」
と言った曦臣は彫金師に自身の考えた飾りを描いた紙を彫金師に渡す。
「私は自分で作ることは出来ないから、作り的に無理なこともあるかもしれないから、そこは遠慮なく言ってほしい。」
と謙虚な姿勢を見せるが、彫金師の目が輝き、
「こんな素敵な意匠、一片でも変えるのは勿体ないです。これは私の持てる技術を全て使って作り上げて見せます!」
と息巻いている。
「それは有難い。楽しみにしているよ。」
すると、曦臣は隣に座っている江澄の顔を覗き込み、
「阿澄、お願いがあるんだけれど、私の飾りは阿澄が選んでくれないかい?」
ここまでくると、江澄も曦臣が何をしたいのか聞かずともわかったので、出された紙を見て選び始めたが、内心動揺していないわけはなかった。
動揺しつつも、いくつかある中から一つ気に入ったものがあったが、何かが足りない……と自分が付けるであろう飾りと見比べた時に、あることに気付いた。
「なぁ、これに少し足したいものがあるんだが、描き足せるか?」
「あぁ、構わないよ。何を書き足すんだい?」
そう言って筆を取った曦臣は江澄に尋ねる。
「蓮の花びらを九枚」
それを聞いた曦臣は嬉しくなって、彫金師がいなければ江澄を抱き締めていただろう。
「阿渙、俺の飾りには雲紋をそれとなく入れておいて、九弁蓮がないとは何事だ。」
江澄はじとっと曦臣を見やるが、当の本人はにこにこと嬉しそうにしている。
「私にも蓮を使ってくれるの?」
曦臣とて九弁蓮のことが頭になかったわけではない。使いたいと思っていたが、自分の方にまで蓮を使うのは烏滸がましいと思ってしまったせいで、描き入れずにいたのだった。
「当たり前だ、早く描き入れろ。」
そう言われれば、どこに描き入れるか決まっていたかのように、さらさらと九枚の花びらは紙上に散らされていく。その様子に江澄は満足げに一つ息を吐き、完成した下絵を彫金師に渡した。
「こちらで宜しく頼む。」
そう江澄が言えば、彫金師は「仰せのままに」と言って、頭を深々と下げ、その紙を受け取り、寒室を後にした。
彫金師が帰った頃にはもう昼餉の時間だったらしく、間もなく寒室に二人分の昼食が運ばれてきた。食事中は言葉を交わさない二人だったが、食後のお茶を曦臣が淹れ始めたのを確認して、江澄が曦臣に問いかけた。
「なぁ阿渙、今までの出来事はどういう事だ?」
曦臣との付き合いもそこそこ長くなってきたのに、今日ばかりは曦臣の行動がわからず、江澄は困惑していた。淹れた茶を江澄に出してから、曦臣は視線を江澄に向け話出す。
「最初は事前に話しておこうとも思ったんだけれど、今回こちらの事情のせいで阿澄を悲しませてしまったから……お詫びというか、びっくりさせたいと思って黙っていたんだけれど、喜んでもらえたかな?」
そう言って、お茶を出しながら曦臣は小首を傾げてみせる。江澄が昔から好きなお願い顔に似た表情で顔を覗き込むが、数年経ってやっとこの美しい顔にも慣れたので、そう簡単には陥落しなくなったのが今の江澄だ。むいっと曦臣の鼻先を摘むと、そのままむいむいと、右に左に曦臣のすっと通った鼻を弄ぶ。
「喜ぶもなにも……驚きと幸せと嬉しさが混ざり合ってて、今の心の内をうまく表すことは出来ない。嬉しいし、幸せだし、驚いた。」
と言って、ぴっ、と鼻から手を離した江澄は、唇を尖らせつつも頬をほのかに染める。それがなんと愛らしいことか。曦臣は江澄の腕を掴んだと思ったら、そのまま引き寄せて自身の腕の中に収め、
「嗚呼、阿澄!どうしてあなたはこんなにも愛らしいんだ!今すぐにでも隠してしまいたい!ああ私の阿澄!どうかこの衝動を許してくれ!」
曦臣は叫んだ。そうしていつも通り江澄をぎゅうっと抱きしめる。数年付き合って、曦臣の江澄に対する自分の感情を隠さなくなったし、江澄も曦臣の大きくて深すぎる愛情を余すところなく受け止めることが出来るようになり、どこの誰が見てもお似合いの二人で、ともすれば周りには嫌味なほど二人は愛し合っていた。
そうやって一見すれば度を超えた江澄への愛情表現が一通り済めば、次は自分の番とでもいうように、今度は江澄が曦臣のことを抱きしめ、
「渙哥はなんて情熱的なんだ。その熱で俺が溶けてしまいそうだな。」
などと、以前の江澄には考えられなかったような、歯の浮く言葉を曦臣に囁きかける。そうして甘くて熱い、熱された飴のような愛を囁き合えば、自然と二人の唇が重なる。今まで何度もしてきた行為だが、何度も互いの唇を味わう。心地のいい日差しが差し込む昼下がりの寒室に、淫靡な水音が静かに聞こえる。唇を離せば、見つめ合って微笑み合う。
「江澄、私と結婚してくれますか?」
脈絡もなく、曦臣は江澄に尋ねた。
「答えは『是』しかないのに、何故今更聞く必要がある?もちろんだ、藍渙、結婚しよう。」
江澄は蜂蜜のように蕩けた瞳で曦臣を見つめ、曦臣もまた同じように蕩けた瞳で江澄を見つめあえば、二人はまた唇を重ねた。静かに互いの体温を感じ、二人はまたふふっと微笑み合う。そうしているうちに時は過ぎ、次の来訪者に寒室の扉を叩かれ、二人の唇はやっと離れたのだった。
◇
そうして、しっかりとした準備期間の後、曦臣と江澄の婚礼の儀は盛大かつ雅やかに行われた。中央で赤を纏う二人の幸せそうな事といったら、過去にそんな表情をした二人を見た者がいただろうか。
仙門的には藍家と江家が繋がることに最初は反対する者も多かったが、後に蟠りが残らないように、二人で不安の芽を丁寧に一つ一つ摘んだ結果、皆から心からの祝福を受けられたのだった。
「時間は掛かったが、やっとあなたと一緒になれて嬉しい。」
曦臣がそう呟けば、
「俺も嬉しい。あなたは俺を一人にしてくれるなよ。愛している、藍渙。」
江澄も曦臣に愛を囁く。そうして二人は交杯酒を交わし、盃が天地に向かって割れれば、二人は臥牀に沈んでいった。(了)