十「午後九時、知恵を絞れ」 自室のノートパソコンを操作し、ビデオ会議のツールを立ち上げる。トークへの招待は、指令文の下に書かれた通りの時刻に届いていた。その招待に応じると、数秒の後に画面が切り替わった──画面いっぱいに、悲しげな顔の青年が映っている。
「こんにちは、番犬くん。いえ、今はもう『こんばんは』の時間でしょうか」
太い眉を下げ、やけに悲しそうな顔をしているこの青年は、ホームズの名を継ぐ稀代の名探偵、エルロック・ショルメである。俺は、何も言わずに画面を見つめた。
「君がこのビデオを見ているということは、僕は甘美なるミルクティーとスコーンをもって、お嬢さんに丸め込まれてしまったのでしょう。ツケをチャラにとはさすがに言えなかったのです。自営業の経営の難しさは、僕も重々分かって……」
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