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    raixxx_3am

    @raixxx_3am

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    12月新刊の試し読み。ある朝起きたら貴澄くんに猫耳が生えてきていてあらあまあまあそれは大変ね、ってだけのお話。
    (2024/11/13)

    #きすひよ

    仔猫のフーガ カーテンの隙間からこぼれるやわらかく温かな光が、重くふさがった瞼の上を微かによぎる。
     ああ、もうそんな時間か。ちいさく息を吐き、ぴったりとくっついた瞼をはがすようにしながら、ぼんやりと滲んだ視界の上を滑り落ちていく光の粒をぼうっと眺める。
    見慣れた部屋の見慣れた天井――傍らには、すっかり肌に馴染んだ大切な相手のぬくもり。ひどくありふれた幸福のありかに、それでも、心からの感嘆のため息を洩らしたい気持ちになりながら、ゆっくりと身じろぎをして、ベッドの片側を埋めてくれる相手の姿を確かめる。

    (よかった、ちゃんといてくれる。)

     どうやらきょうは先に目を覚ますことに成功したらしい。昨日から幾分か疲れているようすだったし、無理もないのだろうけれど。
    寝起きの状態がお世辞にも〝良い〟とは言えないのは常茶飯事で、そのようすをからわれたりなだめられたりするのだって存外悪い気分ではないのだけれど――こうしてたまの〝反撃〟の機会を得られると、なんだかそれだけでひどく得意げな気分になってしまう。
     ほうぼうに跳ねたくしゃくしゃの髪、うっすらと血管が透けて見えるようなほんのりと色づいた瞼、切れ長の瞳を縁取る長い睫毛、すぅすぅと息を吐くやわらかな唇―きっとごく限られた相手にしか見せるはずもない無防備な姿がこんなにも当たり前のように差し出されていることの喜びは、なんどこうして朝を迎えたっていまだに色褪せることなんてないままだ。

    (……おはよう、きすみ)

     かさかさに張り付いた喉の奥でだけそうこぼしながら、そっと手を差し伸ばして、しばしばそうするようにやわらかな髪をかきまぜ、すこし火照ったようすの耳のふちをそっとなぞりあげ、形の綺麗な頭に触れる。少し長めでやわらかな癖っ毛の髪は指をすり抜ける度にふかふかと心地よくて、こうして手を伸ばす度に、離れがたい気持ちがぐんぐんと深まる。

    (猫みたいだよな、ほんとうに)

     美しい毛並みに触れながら、もう何度目なのかわからなくなった夢想が頭の片隅をよぎるのを感じる。
     すらりと長くてしなやかな手足、すっかりと心を許したようすでこちらへと摺り寄せられる身体から伝うおだやなぬくもり、まばゆい煌めきに満ちあふれた切れ長の宝石みたいな瞳、指先を優しくすり抜けていくふかふかの上質な毛並み――そう、まさしくこんなふうに頭頂部にふわふわの三角形の耳があれば申し分なしで――指先に触れたやわらかな感触をうっとりと確かめるように触れていれば、途端に、半覚醒のまどろみのふちから揺り起こされるような心地を味わう。三角形の……猫の耳?
     ひどく驚きながらまじまじと目をこらせば、やわらかな髪の隙間にたしかに〝それ〟は存在する。髪の色と同じ色で、こぶりだけれどぴょこんとその存在感をアピールするふわふわの小さな猫の耳だ。
     いやそんな、どうして。何かのいたずらのつもりだろうか、それにしたっていやによく出来ているように見えるのだけれど。
     ほんのりとあたたかな体温を感じさせる〝それ〟の周囲の髪の毛をかき分けるようにしても、ピンらしきものは見あたらない。まだ寝ぼけているのだろうか、それともこれは夢? 戸惑いを隠せないまま、重い瞬きを数度こぼせば、散々の〝いたずら〟に気づいた恋人がふるふると腕の中で震える。
    「……ひよ? おきたの」
     くぐもってかさついた声で呼びかけられると、それだけで胸の奥がやわらかに甘く締め付けられるような心地を味わう。
    「おはよう。ごめんね、おこしてない? よく寝れた?」
    くしゃくしゃにたわんだシーツの波の上で足を絡めながらぎゅうぎゅう抱き寄せられる――すっかりおなじみの一連のやりとりにまるで、乾いたスポンジがぐんぐんと水を吸い込むような心地を味わう。
     ほかの誰とも味わえない、誰ひとり満たしてなんてくれない―じっと注がれるまなざしの澄んだやわらかな光に、息苦しいほどのあまやかな愛おしさが募る。
    「わかる? 僕のこと」
     瞼を細めてにいっと優しく笑いかけながら、ふに、とあたたかな指先で頬に優しく触れられる。いつもと同じだ、夢なんかじゃあるはずもない。いつしか僅かに震えていた指を差しのばしながら、おそるおそると僕は答える。
    「きすみ、その――耳」
    「みみ?」
    ぱちぱち、と重い瞼をしばたかせながら投げかけられる問いかけを前に、慎重なようすで話を切り出す。
    「あるでしょ、耳が――大丈夫なの、それで?」
     答えながら、頭のてっぺんでふるふると微かに揺れる三角の耳に触れる。
    「えっと……?」
     不可思議そうな返答を前に、心の内が静かにざわめく。どうやら自分ではわからないらしい、そりゃあそうか。それならひとまずは見て確かめてもらうのが一番、とは言え、すぐ側に鏡はないのでこういう時には――、
    「ごめん、ちょっと」
     ヘッドボードへとたぐり寄せるように手を伸ばし、眼鏡とスマートフォンを手にする。洗面所に連れて行くのが一番かとは思うのだけれど、ひとまずは。
    「あのね、貴澄。ちょっと落ちついて聞いてほしくって―その、君の、ことで。すごく大切なことなんだけど。まずはその、これを」
    「うん……?」
     寝間着のまま半身を起こした姿が見えるようにと、インカメラにしたスマートフォンの画面を目の前へと掲げて見せる。なんだかどっきりでも仕掛けているようで、決していい気分ではないのだけれど―仕方あるまい、こればっかりは非常事態なのだから。

    「えぇ―!?」

     途端に響きわたるのは、穏やかな朝には決してふさわしくはないはずの、悲鳴にも似た叫び声だった。



    「……ごめんね、やっぱりどこにも出てこないや。何でなんだろうね」
    「いいよそんなの、日和が悪いわけじゃないでしょう?」
     どうにもふがいない気持ちになりながら答えるこちらへと、ソファに腰をおろしてくつろぐ本人からはあっけらかんと明るい返答が返される。
     ちょっとした受け答えや感情の動きに合わせるように三角形の耳がひょこひょこと動くのを見る限り、どうやらただの飾りというわけではないらしい。
    「何でなんだろうね、別に何か変なものでも食べたとかそういう覚えだってないのにな。予防注射とかそういうのだってしてないしね」
     この一週間ほどの間に通常とは異なる行動は特にはなければ、いまのところは耳以外の異変も見あたらないらしい。
    「痛くはないの? むずむずするとかは?」
    「そういうのもないんだよね、なんか馴染んでるっていうか」
     見た目にも確かに、違和感なんてものは大凡ないのだけれど――あらがいようのない誘惑に駆られるのを感じながら、形をなぞるようにとそっと指先で真新しい〝耳〟に触れる。
     薄くてやわらかな手触りも、うっすらと血管の透けて見えるところも、猫の耳とどう見てもそっくりおなじだ。とは言え、人間の耳のほうだって変わらずあるのだから、いったい全体どういう理屈なのだろうか。スマートフォンのレンズや鏡には写るのに、ひとたび写真や動画に写そうとすればたちまちに姿を消してしまうあたりもどうにも不可解だ。
    「病院ってどこに行けばいいんだろうね。耳のことってなると耳鼻咽喉科? それとも皮膚科だったりするのかな」
     もしかすれば、精神的な物に起因する可能性もあるけれど。
    「どうしようか……誰かほかの人にも見てもらう? 椎名くんあたりならどう? 彼なら信頼出来るでしょ」
     誰か第三者がいてくれたほうが安心出来るだなんてこともあるかもしれない。もしかすれば、自分たちふたりにだけ見えている幻覚なのかもしれないだなんて可能性も探れるし――やわやわと指全体で包み込み、揉みしだくような手つきで綺麗な毛並みの耳に触れながら尋ねれば、ひどくあやふやにぐずついた戸惑いの色を帯びた声色での返答が返される。
    「いいよ、日和だけでいい」
     答えながら、僅かに震えた指先がいかにも心許なげに寝間着の裾をぎゅっと握りしめる。
    「そんなこと言うけど、夕方には帰らないとダメでしょ? 何なら僕が家まで送っていこうか? ひとりで説明するのも不安でしょ?」
     なんとは無しに〝察して〟くれているだろうと有耶無耶にしていた自分たちの関係についても、いっそこの機会に話したほうがいいのかもしれない。僕がついていながらおかしなことに巻き込んでしまってごめんなさいとか、なんとか言って。
    「悪いよそんなの、日和のせいじゃないのに」
     いつになく気弱な口ぶりで答えられると、庇護欲としか呼べないものがむくむくとわき上がるのを抑えきれなくなってしまう。手放しに褒められた感情とは言えないのだろうけれど、こればっかりは仕方あるまい。きょうばかりは非常事態なわけだし。
    「そういってくれるのはありがたいんだけど……」
     ぴくぴく、と小刻みに震える耳にそっと指先で触れながら、本当に〝心当たり〟がなかったのかを今一度思い返してみる。
     たしか昨日は――お互いにすれ違い続きで、顔を合わせることすら半月以上ぶりで。いつもみたいに駅前で待ち合わせをした時から、あからさまに疲れたようすでいたのが気がかりだった。
     スーパーで買い物につき合ってもらった後はアパートまで近況報告をしながら帰って、一緒に準備をした夕食の後はしきりに片づけると言ってくれるのをどうにかなだめて止めてみせて、お風呂の後は髪を乾かした後で念入りにマッサージをしてあげて、一緒に映画を見ている途中でうとうとと船をこぎ出したのに気づいたからベッドで眠るようにと促せばひどく無念そうな顔をされて、なんだか無性に胸が痛んで。
    「疲れてるんでしょう? 無理しないでいいよ」
    「やだ、もったいない」
     猫みたいに身をこすりつけて甘えてきながら告げられる舌っ足らずの言葉に、ぎゅっと胸の端を掴まれるような愛おしさを感じずにいられなかった。
    「減っちゃうでしょ、ひよといる時間」
    「減らないよ」
     子どもをなだめるような心地で、ふわふわとやわらかな洗い晒しの髪をなぞる。不思議だ、甘えられているのはこちらのほうなのに、どうしてこんなにも赦されているみたいな気持ちになるんだろう。
    「僕だってしっかり休んで元気になった貴澄に会いたいからさ。きょうはこのまま一緒に寝よう? それでまた明日いっしょにたくさん過ごそうよ? それでいいでしょう?」
    「……うん」
     ぐずぐずにもつれた言葉を洩らすあたたかな吐息が、そっと肩口に落とされれば、まるで心ごと温かに湿らされるかのような心地を味わう。

     うん、やっぱり心当たりらしきことはこれといって見あたらない。普段よりも幾分か甘えたがりに見えたくらいで。やっぱり精神的な何かが原因なんだろうか。何かうまく言葉にできない不満やストレスがじんましんみたいに形になって現れたとか?
     ひどく不安げに震えるまなざしをじいっとのぞき込むようにしながら、ぽつりと心ばかりの穏やかな口ぶりで僕は答える。
    「いいから、着替えて朝ご飯にしよう? おなかすいたでしょう? せっかく早起きしたんだし、きょうは貴澄のやりたいことたくさんしよう?」
     なにかある? したいこと。にっこりと笑いかけながら尋ねれば、おずおずと気弱な口ぶりでの言葉が洩らされる。
    「洗濯もの干すの、一緒にする」
     それはまぁ――なんというか、いつもつき合ってもらっていることなのだけれど。とはいえ、それが素直な〝願い〟だというのならそれはそれで。
    「うん、いいよ。それで?」
     促すように問い尋ねるこちらを前に、かわいらしい〝おねだり〟は続く。
    「公園も行きたい、いつものとこ。それと、昨日の映画の続きもね。あと、ゲームもしたいな。こないだ教えてもらったの」
    「いいよ、全部しよう?」
     外に出かけるには――帽子でもかぶってさえいれば問題はないだろう。
    「じゃあさ、ひとまずは着替えて支度しようか? シャワー使うんならタオル出してくるけど、どうする?」
    「いいよ、ありがとう」
     いつもよりも心なしか気弱な口振りの返答を前に、ぽんぽんと形のよい頭を撫でることで応えてみせる。
     解決策はさっぱりわからないけれど――ひとまずはこのかわいい猫の思うままに過ごそう。そうしていれば、なにかしら糸口だって見えてくるのかもしれないのだから。
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    raixxx_3am

    DONEブックサンタ企画で書いたお話、恋愛未満。
    日和くんにとっての愛情や好意は相手に「都合のいい役割」をこなすことで得られる成果報酬のようなものとして捉えていたからこそ、貴澄くんが「当たり前のもの」として差し出してくれる好意に戸惑いながらも少しずつ心を開いていけるようになったんじゃないかと思っています。
    (2024.12.22)
     幼い頃からずっと、クリスマスの訪れを手放しで喜ぶことが出来ないままだった。
     片付けるのが面倒だから、と申し訳程度に出された卓上サイズのクリマスツリーは高学年に上がる頃には出番すら無くなっていたし、サンタさんからのプレゼントは如何にも大人が選んだお行儀の良さそうな本、と相場が決まっていて、〝本当に欲しいもの〟を貰えたことは一度もなかった。
     ただでさえ慌ただしい年末の貴重な時間を割いてまで、他の子どもたちと同じように、一年に一度の特別な日を演出してくれたことへの感謝が少しもないわけではない。
     仕事帰りにデパートで買ってきてくれたとってきのご馳走、お砂糖細工のサンタさんが乗ったぴかぴかのクリスマスケーキ、「いい子にして早く寝ないとサンタさんが来てくれないわよ」だなんてお決まりの文句とともに追いやられた子供部屋でベットサイドの明かりを頼りに読んだ本――ふわふわのベッドにはふかふかのあたたかな毛布、寂しい時にはいつだって寄り添ってくれた大きなしろくまのぬいぐるみ、本棚の中には、部屋の中に居ながら世界中のあちこちへの旅に連れ出してくれる沢山の本たち――申し分なんてないほど何もかもに恵まれたこの暮らしこそが何よりものかけがえのない〝贈り物〟で、愛情の証だなんてもので、それらを疑うつもりはすこしもなくて、それでも――ほんとうに欲しいものはいつだってお金でなんて買えないもので、けれども、それらをありのままに口にするのはいつでも躊躇われるばかりだった。
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    raixxx_3am

    DOODLEきすひよ。いちゃいちゃしてほしかっただけ。相変わらず受けと攻めが不確定。欲望を明け渡しあうことよりも緩やかで優しいスキンシップでお互いを満たしあうことを大切にしているうちにゆっくりその先に進むこともあるんじゃないのかな、ふたりにはそんな関係でいてほしいなという気持ちで生産工場は稼働しています。
    (2024/07/19)
    butterfly kiss「あのね、遠野くん。ちょっとだけ聞いておきたくて」
     ふぅ、とひどく慎重に息を吐き、プレゼントの包みをそうっとほどくようなたおやかさで言葉が続く。
    「遠野くんはさ、僕にしてほしいことってあったりする? その、そういう時に」
     行儀良く膝の上に置いた指をもどかしげに絡ませるようにしながらぽつり、と吐き出されるおだやかな言葉に、息苦しいほどのあまやかな気配が立ちのぼる。こちらをまっすぐに見据えるかのようなまなざしはいつも通りにひどく穏やかで温かいのに、その奥には確かな〝予感〟を帯びた色が隠されているのがありありと伝わるから、いびつに揺らいだ心は音も立てずにぐらりと心地よく軋む。
    「あぁ……えっと、その」
     答えに窮したまま、手元のクッションをぎゅっと掴めば、気遣うようなやさしいまなざしがこちらへと注がれる。
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    raixxx_3am

    DOODLEひよちゃんは幼少期のコミュニケーションが足りていないことと「察する」能力の高さから本音を押し殺すのが常になってしまったんだろうし、郁弥くんとは真逆のタイプな貴澄くんに心地よさを感じる反面、甘えすぎていないか不安になるんじゃないかな、ふたりには沢山お話をしてお互いの気持ちを確かめ合って欲しいな、と思うあまりに話ばっかしてんな僕の小説。
    (2024/05/12)
    君のこと なんて曇りのひとつもない、おだやかな優しい顔で笑う人なんだろう。たぶんそれが、はじめて彼の存在を胸に焼き付けられたその瞬間からいままで、変わらずにあり続ける想いだった。


    「あのね、鴫野くん。聞きたいことがあるんだけど……すこしだけ」
    「ん、なあに?」
     二人掛けのごくこじんまりとしたソファのもう片側――いつしか定位置となった場所に腰を下ろした相手からは、ぱちぱち、とゆっくりのまばたきをこぼしながら、まばゆい光を放つような、あたたかなまなざしがまっすぐにこちらへと注がれる。
     些か慎重すぎたろうか――いや、大切なことを話すのには、最低限の礼儀作法は欠かせないことなはずだし。そっと胸に手を当て、ささやかな決意を込めるかのように僕は話を切り出す。
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    帰り道の途中 不慣れでいたはずのものを、いつの間にか当たり前のように穏やかに受け止められるようになっていたことに気づく瞬間がいくつもある。
     いつだってごく自然にこちらへと飛び込んで来るまぶしいほどにまばゆく光輝くまなざしだとか、名前を呼んでくれる時の、すこし鼻にかかった穏やかでやわらかい響きをたたえた声だとか。
    「ねえ、遠野くん。もうすぐだよね、遠野くんの誕生日って」
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    11803

    raixxx_3am

    DONEブックサンタ企画で書いたお話、恋愛未満。
    日和くんにとっての愛情や好意は相手に「都合のいい役割」をこなすことで得られる成果報酬のようなものとして捉えていたからこそ、貴澄くんが「当たり前のもの」として差し出してくれる好意に戸惑いながらも少しずつ心を開いていけるようになったんじゃないかと思っています。
    (2024.12.22)
     幼い頃からずっと、クリスマスの訪れを手放しで喜ぶことが出来ないままだった。
     片付けるのが面倒だから、と申し訳程度に出された卓上サイズのクリマスツリーは高学年に上がる頃には出番すら無くなっていたし、サンタさんからのプレゼントは如何にも大人が選んだお行儀の良さそうな本、と相場が決まっていて、〝本当に欲しいもの〟を貰えたことは一度もなかった。
     ただでさえ慌ただしい年末の貴重な時間を割いてまで、他の子どもたちと同じように、一年に一度の特別な日を演出してくれたことへの感謝が少しもないわけではない。
     仕事帰りにデパートで買ってきてくれたとってきのご馳走、お砂糖細工のサンタさんが乗ったぴかぴかのクリスマスケーキ、「いい子にして早く寝ないとサンタさんが来てくれないわよ」だなんてお決まりの文句とともに追いやられた子供部屋でベットサイドの明かりを頼りに読んだ本――ふわふわのベッドにはふかふかのあたたかな毛布、寂しい時にはいつだって寄り添ってくれた大きなしろくまのぬいぐるみ、本棚の中には、部屋の中に居ながら世界中のあちこちへの旅に連れ出してくれる沢山の本たち――申し分なんてないほど何もかもに恵まれたこの暮らしこそが何よりものかけがえのない〝贈り物〟で、愛情の証だなんてもので、それらを疑うつもりはすこしもなくて、それでも――ほんとうに欲しいものはいつだってお金でなんて買えないもので、けれども、それらをありのままに口にするのはいつでも躊躇われるばかりだった。
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    raixxx_3am

    DOODLEDF8話エンディング後の個人的な妄想というか願望。あの後は貴澄くんがみんなの元へ一緒に案内してくれたことで打ち解けられたんじゃないかなぁと。正直あんなかかわり方になってしまったら罪悪感と気まずさで相当ぎくしゃくするだろうし、そんな中で水泳とは直接かかわりあいのない貴澄くんが人懐っこい笑顔で話しかけてくれることが日和くんにとっては随分と救いになったんじゃないかなと思っています。
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     くるくるとよく動くまばゆく光り輝く瞳はじいっとこちらを捉えながら、興味深げにそう投げかけてくる。
     大丈夫、〝ほんとう〟のことを尋ねられてるわけじゃないことくらいはわかりきっているから――至極平静なふうを装いながら、お得意の愛想笑い混じりに僕は答える。
    「中学のころだよ。アメリカに居た時に、同じチームで泳ぐことになって、それで」
    「へえ、そうなんだぁ」
     途端に、対峙する相手の瞳にはぱぁっと瞬くような鮮やかで優しい光が灯される。
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    「いや、僕は両親の仕事の都合でアメリカに行くことになっただけで。それで――」
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