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    raixxx_3am

    @raixxx_3am

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    raixxx_3am

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    RWのゲーセン事変(?)のちょっとあと、バスケの合間に貴澄くんと日和くんがおしゃべりしてるお話。恋愛要素はこの時点では特にないです。
    旭くんと郁弥くんもちょっとだけ出てくる。

    #きすひよ

    SCENE リズミカルにボールが跳ねる音に重なり合うように、キュッキュッ、と小気味よくソールが擦れる音が響き渡る。この音にも、もう随分耳慣れたものだな、だなんて感慨をいまさらのように受け止めている自分に気づいた時、ふっと笑みがこぼれる。
     屋外のコートでのプレーの開放感ももちろん気持ちいいけれど、風や陽射しの影響を受けない屋内の方が、その分だけプレーには集中できる。陽の光を直接浴びる事のない屋内プールで一年の大半を練習に明け暮れている身としては、風と光に晒されながら陸の上で思い切り身体を動かすのだって、なかなか新鮮な楽しみがあるのだけれど。

    「旭いけ、その調子!」
     激しい攻防戦の末にどうにかボールを手にした椎名くんの周りをぴったりと張り付くように、対戦相手がガードをかける。体格差はほぼ互角だが、だからこそ経験値の違いは如実に現れる。的確なタイミングで繰り出されるフェイクやテクニカルな低いドリブルを前に、水の中で鍛えたのであろう瞬発力溢れる動きや、諦めの悪さとあふれる熱意でカバーしながら一歩も怯む事なく奮闘するあたり、素人目に見ても中々見応えのある戦いになっているのが興味深い。
    「すごいよね、椎名くん。結構互角に見えるんだけど」
     経験者の目からはどう映るのだろうかと、好奇心を交えながら尋ねてみれば、うっとりと瞼を細めた得意げな笑顔に迎え入れられる。
    「うん、ほんと。さっきのレイアップシュートだって角度がちょっと厳しかったのに綺麗に入ってたもんね。追い抜かれた時のリカバリーもちゃんと出来てたし」
     対戦相手は高校三年間バスケ部に所属していた経験者だというのだから、これは中々な奮闘ぶりだ。さて、いまのところは二対一で抑え込めてはいるようだけれどここからはどう動くのだろう。あらかた、このまま鮮やかに先手を取られて終わりだろうとは思うのだけれど――まさかの逆転の可能性だってまだまだ捨てきれない。
    「ちょ、ごめん。タンマ!」
     よりによって、ボールがどうにか椎名くんの手に渡ったタイミングで、すっかり聞き慣れた一際大きな声が響き渡る。どうやら靴紐が解けてしまったらしい。
    「あぁもう、いいタイミングだったのになぁ」
     くしゃりと髪をかきあげながら、もう片方の掌は傍に置いたドリンクボトルへと手を伸ばす姿を横目に眺めていれば、どうやら視線の先にいるふたりもまた、こちらと同じく小休憩に入ることになったらしい。汗まみれになりながら笑顔で互いの奮闘を讃えあうハイタッチを交わし合う姿はいかにもスポーツマン然としていて、こうして側から見ているだけでも快い。
    「随分上手なんだね、椎名くん」
     水泳であれだけの実力を見せてくれるのだから元来運動神経はいいのだろうけれど。つい先ほど味方としてプレーをした時に感じさせてもらった時以上の鮮やかな奮闘ぶりを前に思わず感嘆の声をあげれば、傍からは得意げな声がそっとあがる。
    「ちょっと前に特訓してあげたんだよね、せっかくやるならもっとビシッとカッコよく決めれるようになりたいって言って。遠野くんすっごく上手なんだよって教えてあげたらムキになったみたい」
    「そんな……」
    「謙遜しなくたっていいのに」
     鮮やかな笑顔と共にやわらかく澄んだまなざしにじいっと見つめられると、途端にざわりと心の端がもどかしく揺れる。こういうところなんだよな、ほんとうに。こんなふうに何気なく投げかけられるなんの衒いも感じさせないまっすぐなたおやかさは、鴫野くんが常に周囲の人をごく自然に惹きつけてしまう由来のひとつなのだろうといつも思う。
    「そういえばさ、思い出したんだけど」
    「うん、なあに」
     そっと顔を横に向けながら尋ねるこちらを前に、瞼を細めてにっこりと嬉しそうに笑いながら鴫野くんは答える。
    「ちょっと前に、ジムの帰りに宗介と凛に会ったでしょう? 元鮫柄のエースのあのふたりね。あれからちょっとしてから、宗介が珍しく連絡くれてさ、今後のことで色々と相談があるからまた世話になるとか、まあ色々あったんだけど。その中で言われたんだよね、おまえの友達にも改めてよろしくなって。あんまり話せなかったけど、今度改めて水泳で勝負しようって」
    「あぁ……」
     いささかばかりの戸惑いを隠せないこちらを前に、いつもどおりのあのやわらかに綻んだ笑みを浮かべるようにしながら、穏やかに言葉は続く。
    「友達って遠野くんのこと? って聞いたら、そういやそんな名前だったなって。なんかさ、宗介らしいよね。色々気になってたみたいだよ、出会い頭でいきなりあんなことになっちゃったしね。『おまえも相変わらずなヤツだな、遠野にあんま苦労かけんじゃねえぞ』だってさ。そんなこと宗介に言われたってねえ?」
     くすくすと笑いながら溢される声には、心からのいつくしみがひたひたと染み渡っているかのように思える。
    「なんかさ、ちょっと照れちゃったっていうか。まあそりゃあそうだよなって思うんだけどさ、改めて言われちゃうとねえ?」
    「まぁ――、」
     どことなく照れくさい気持ちを隠せないまま、すこし汗ばんだ髪をくしゃりとなぞることでその場をやり過ごす。
    「……僕も思い出したんだけど、それで」
     好奇心の色に染め上げられたまばゆく光るまなざしがじいっとこちらへと注ぎ込まれているのをひしひしと感じながら、ぽつりと言葉を洩らす。
    「あの時、山崎くんとふたりでずいぶん話し込んでたでしょう? なんの話になったのかって、差し支えのない範囲でいいから聞かせてもらってもいい?」
    「あぁ」
     不躾にも取られかねない質問を前に、嬉しそうにうっとりと瞼を細めながら言葉が返される。
    「宗介ね、肩の手術のためにこっちにきてたんだけど成功したんだってさ。お医者さんからも、もう泳いで大丈夫だって言ってもらったんだって。次のシーズンには間に合わせるって、すごく張り切ってて」
    「へぇ、」
     それは朗報と呼べばいいのか、悲報と呼ぶべきなのか。なんにせよ、あの鯨津の、そして鮫柄で見事に返り咲いたエースが水泳界に帰ってくるというのならますますの波乱が起きることは間違いない。
    「ただ、いままで通りの泳ぎ方だとどうしても肩への負担が大きくなるから、フォームの改善は必要になってくるだろうって言われてるんだって。その辺はお医者さんやリハビリの先生だけじゃなくて、真琴なんかにも追々相談した方がって話になってるみたい」
    「あぁ――たしかに山崎くんの泳ぎ方なら、肩から腕全体にかなり力の入ったストロークが持ち味だからね」
     生まれ持った素質と当人の弛まぬ鍛錬によって磨き上げたのであろう体躯から繰り出される力強い泳ぎは、見ているこちらを圧倒させるような迫力に溢れていた。あのままの泳ぎを見られなくなってしまうのかもしれない、というのなら正直にいえば残念ではあるけれど、彼ならきっと驚くような新しいスタイルを手に入れるに違いない。
    「約束したんだって、凛と。待ってるから絶対戻ってこいって。凛ってむかしっからロマンチストなんだよね、ほんとうに」
     うっとりと瞼を細めるようにしながら溢される言葉には、慈しみとしか呼べないものがひたひたとおだやかに溶かされているのが手に取るように伝わる。
    「幼馴染なんだっけ」
    「そう、小学校のね。中学からは凛はオーストラリアで、僕は岩鳶に引っ越しちゃって。――って言っても自転車でも行き来できる距離だからさ、しょっちゅう会いに行ってたんだよ。宗介のやつ、僕が行くたびに『また来たのか?』って言うんだけどさぁ。素直じゃないんだよね、来てくれて嬉しいって言えばいいだけなのに」
     不満げな言葉とは裏腹の穏やかな口ぶりに、こちらまで不思議と心が温められるような心地を味わう。
    「平気なふりがしたかったんじゃないの? 鴫野くんにだって新しい生活があるんだし、あんまり心配かけるわけにはいかないって思ったんじゃないかな」
     目をかけてもらえることは嬉しい、それでも――あまり過度に寄りかかってしまえば、重荷に思われて途端に遠ざけられてしまうかもしれない、だなんて不安はどうしても付き纏うものだし。
    「水臭いよね、寂しいのはこっちだって一緒なのにね?」
     いつも賑やかなようすからは裏腹に思えるような言葉に、なぜだかどきりと胸の奥がかすかにざわめく。
    「でもさ、遠野くんにくらべたら全然だよね? 日本とアメリカじゃあ言葉も文化もまるっきり違うんだしさ。旭のお父さんも転勤族だったもんだから、高校の卒業までに二回も転校しなきゃいけなくなっちゃって――大変だったけど、その分あちこちに友達が出来たんだからって思えば悪いことじゃないって言うんだけどさ」
    「椎名くんらしいね」
     遠くないうちに別れがくることは明らかなのだから、と、あらかじめ心に蓋をして深い関係性を持たないことばかりを選んできたこちらとは大違いだ。
    「まぁでも、結局は悪いことでもなかったのかなって思ってるんだよね。僕が岩鳶に引っ越さないとハルや真琴や旭や郁弥たちみんなにも知り合えなくて、中学一年の間だけにはなっちゃったけど、ハルたちと宗介と、両方のチームを応援することだって出来たんだしね。旭はね、高校の時のチームの仲間といまでも連絡取り合ってるんだって。同じ学年の子達は地元に残った子が大半みたいだけど、後輩の何人かは鷹大のチームに入れるようにって頑張ってるところなんだって。ますます強力なチームにしてみせる、霜狼には負けないってところを見せつけてやるからっていまからすごく張り切ってて」
    「こっちだってそう簡単に負けるわけないのに、随分自信過剰みたいだね」
     わざとらしく強気に答えて見せれば、満足げな笑顔がそっとそれを受け入れてくれる。
    「困っちゃうんだけどね、応援したいチームがどんどん増えて――でも、選抜に選ばれればみんなでリレーが泳げることだってあるかもしれないんだよね?」
     これだけ強力なライバルが増えれば、ますますの混戦となることは間違いなしなのだけれど、それでも。
    「また見るんでしょ、郁弥と同じ景色」
    「……憶えてくれてたんだ」
     ばつの悪さからそっと口をつぐめば、得意げな笑顔がまっすぐにそれを包み込んでくれる。
    「あたりまえでしょ、僕だってたの――」
    「貴澄ー! 遠野ー! 暇なら俺らと勝負しよーぜ!」
     やわらかに紡がれていく言葉を遮るような一際明るい大きな声をあげながら、椎名くんと彼の対戦相手がこちらへと歩み寄る。
    「つうかおまえら随分盛り上がってたっぽいじゃん、俺の天才プレーの話題で持ちきりだったとか? 見てたろ、俺の見事なレイアップシュート!」
    「成瀬くんにロッカーモーショーンで抜かれて唖然としてるとこならね。動画でも撮っておけば良かったなぁ。あの時の旭の顔、傑作だったもんなぁ」
    「おいこら貴澄、なんでそんなとこだけちゃっかり見てんだよ! てか遠野も笑ってないでなんか言うことあるよなぁ!?」
    「なかなか頑張ってたんじゃないの? かなり手加減してもらったおかげだとは思うけどね」
    「テメェほんっとマジに遠野だよなぁ」
     にこやかに笑いかけるようにしながら答えれば、いつのまにか決まりきった、お馴染みの文句が返される。
    「旭それしょっちゅう言ってる気がするんだけど、どう言う意味なの?」
    「どーもーこーもねえだろ! なぁ?」
     同意を求めるような目配せと大声をいなすように笑顔で応えれば、くすくすとさざなみのような笑い声が響き渡る。
     鏡なんて見なくたってわかる、きっと、ちゃんと笑えてるはずだ――いまなら。
    「いいから、勝負するんでしょ? まあ、椎名くんになら負ける気はしないけどね」
    「おう、言ったなぁ?」
     相変わらずの負けん気の強さに、なぜだかこちらが勇気づけられるような不思議な心地を味わう。
     ――どうしてだろう。この場所がこんなにも心地良いのは。




     ――『きょうの写真と動画あげておくね。前のやつであげ忘れたのもまとめて入れてあるからね』

     バスケサークルのグループトークに添付されたアルバムを開けば、たちまちに本日の思い出が鮮やかに蘇る。
     適時メンバーを入れ替えながらの2on2や3on3で対決のようすに、合間の練習風景や休憩中のお喋りの場面まで――いつのまに撮られていたのだろうか、気迫を感じさせる表情から、すこしもカメラを気にするそぶりのない気の抜けた姿までが余すことなく切り取られていて、気恥ずかしい気持ちだってすこしばかりはあれど、あながちまんざらでもないような、不思議な心地にさせられてしまう。
     フォームの確認のための記録映像を撮られることなら慣れているけれど、こうして水泳以外の場面で写真を撮られるのなんていつ以来だろう。もしかしなくたって、両親に送るために、と夏也くんに撮ってもらった大学の入学式以来かもしれない。
     たまにはこういう写真だって送ったほうがいいんだろうか。新しい友達もできて楽しくやってるよ、だなんて言えばすこしは安心してくれるだろうし。ほんの少しだけ頭の片隅を過ぎった懸案事項を前に、いやいやいや、と大袈裟に頭を振って受け流す。

     それにしたって中々よく撮れてる。こういうのってセンスが表れるものだよな。
     ドリブルのコツやシュートフォームについて鴫野くんから教わっているところ、椎名くんとのボールの奪い合いの場面、シュートの決まる決定的な瞬間――スマホを縦に構えたまま撮影された1分ほどのごく短い動画には、椎名くんからリバウンドを取り返す場面が収められている。

     ――『遠野くんってセンスいいよね、未経験だったなんて信じられないなぁ。水泳から転向したくなったらいつでもいいチーム紹介するからね』
     ――『遠野くんは水泳で日本代表になるんだからそんな誘い文句かけちゃダメだよ、バチがあたっちゃう』
     おそらくお世辞が9割の褒め言葉を牽制するような鴫野くんのメッセージに、『俺だってカッコいい瞬間いっぱいあったろ~~~??? 俺の天才プレーはどうした!?』だなんて、椎名くんからの不服そうなメッセージと涙を流して悔しがるパンダのスタンプが続く。

     ――『今度1on1で勝負してあげるよ、フリーの100でもいいけどね』
     ――『言ったなぁ!? 男に二言はねえからな!』

     負けず嫌いなんだよな、本当に。
     こっちだってその点では人のことをとやかく言えた義理はないけれど、こうも直情的かつわかりやすいタイプの性格の人間は周囲にはあまりいなかったから中々新鮮だ。いつでも真っ直ぐな熱い性格で、裏表なんてちっともなくて、剥き出しの闘争心を露わにしてみせる。常に自分にも他者にも飾り気なんて少しもない本心で向き合ってくれていることが伝わる健やかな明るさは眩しさと心地よさの両方を手渡してくれる。
     あれだけ挑発的な態度ばかりを取って、いまだってさほどその様相を崩してなんていないこちらのことをありのままに受け入れてくれているのだから、つくづく人がいいと言うのか、なんというのか。
     そういえば、郁弥ともこんな調子で中学の頃からずうっと口喧嘩の小競り合いのし通しなんだっけ? そういった類のコミュニケーションには慣れっこだなんてことなのだろうか。

     ――『写真送ってくれてありがとう、良かったら今度ワンハンドシュートのこつを教えてほしいな。椎名くんのいない時にでもね』

     メッセージを送信してすぐ、アルバムの中から幾枚かの椎名くんの活躍する場面をいくつかこちらの端末に保存し、郁弥とのやり取りの続くトークルームを開く。

     ――『鴫野くんのバスケサークルにお邪魔してきたよ、きょうは椎名くんも一緒』

     せっかくなら、と鮮やかにシュートを決めた場面やドリブルで追い抜く場面――椎名くんの見せ場になるようなベストショットを選び抜いた画像を送れば、タイミングがちょうど良かったのか、すぐさま既読がつくのとほぼ同時に、新しいメッセージが吹き出しに乗って運ばれてくる。

     ――『いいけど、なんで旭の写真ばっかりなの』
     ――『動画もあるけど見る?』
     ――『答えになってないんだけど』
     ――『見たいかなあと思って』

     苦笑いがありありと浮かぶようだな、なんて思いながら、添付した写真をダブルタップでズームしながらぼうっと眺める。カメラマンの腕がいいだなんてことは差し置いても、いい写真だよね。陸の上での躍動感のある動きも、うっすら汗ばんだ額や真剣そのものなまなざしも、普段なら中々お目にかかれないものなのだから。

     ――『郁弥も今度おいでよ。椎名くんも鴫野くんも寂しがってたし』
     ――『日和はいいの』
     ――『僕とはおなじチームでしょ、いまさら何?』

     文面だけでもありありと伝わるいじけた子どもみたいな口ぶりに、思わず笑い出しそうになるのをぐっと堪える。
     それにしたっていまさらな話だけれど、本当に不思議だ。郁弥抜きでの思い出がこんなふうにどんどん増えていくだなんて。送られてきた写真の中、驚くほどにごく自然に笑っている自分の姿を眺めながら、思わずふっと溢れそうになるため息をしずかに飲み込む。
     郁弥もくればいいのに、その時にまた写真でも撮ってもらおうよ。記録に残らない思い出がこうして手渡してもらえるのって、思ったよりもずっと嬉しいよ。いつしか口元が緩んでくるのを感じながら、続くメッセージを打ち込んでいく。

     ――『次はいつなのか聞いといてあげるからさ、良かったら練習のない日にでも特訓しようよ。一緒に椎名くんのこと倒したくない?』

     さて、返事はどうなることやら。ひとまずは、と画面を暗転させて、程よくぬるくなったコーヒーにそっと口をつける。

     ねえ、陸の上で『同じ景色』を追いかけるのだって案外楽しいんじゃない?

     こんなふうに言えば、郁弥はどんな顔をするんだろう。
     不思議な高揚感に駆られるのを感じながら、そっと瞼を閉じて、短い夢を思い描く。
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    raixxx_3am

    DOODLEこれ(https://poipiku.com/5919829/9722395.html)の後日談だけど読んでなくても別に大丈夫。「無理に話さなくっていい」はやさしさなのと裏腹に言葉を封じてしまっている側面もあるよなぁとぐるぐる思ったので書きました。
    ふたりともちゃんと話し合ったり、弱さや迷いを打ち明けあえるいい子なんだと思うきっとおそらくたぶんという夢を見ています
    (2024/2/11)
    repose「遠野くんあのね、ちょっと……いい?」
     夕食の片づけを終えたタイミングを見計らうように、背中越しにつつ、と袖を引っ張られる。ふたりで過ごす時間にしばしば為される、すこし子どもじみて他愛もないスキンシップのひとつ――それでもその声色には、いつもとは異なったいびつな色が宿されている。
    「うん、どうかした?」
     努めて穏やかに。そう言い聞かせながら振り返れば、おおかた予想したとおりのどこかくぐもったくすんだ色を宿したまなざしがじいっとこちらを捉えてくれている。
    「あのね、ちょっと遠野くんに話したいことがあって……落ち着いてからのほうがいいよなって思ってたから。それで」
     もの言いたげに揺れるまなざしの奥で、こちらを映し出した影があわく滲む。いつもよりもほんの少し幼くて頼りなげで、それでいてひどく優しい――こうしてふたりだけで過ごす時間が増えてから初めて知ることになったその色に、もう何度目なのかわからないほどのやわらかにくすんだ感情をかき立てられる。
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    raixxx_3am

    DOODLE貴澄くんにスペアキーを預けるお話。(付き合ってるきすひよ)
    Beehive ポケットの中ではもうずうっと、ことり、と固くて冷たい金属製の〝それ〟が出番を待ち構えたままでいる。
     まぁまぁ、そう焦らないでよ――なだめるような心地になりながらポケットづたいになぞりあげ、ぬるい息を吐く――何度目かのルーティーンを終えたところで、あらかじめ用意しておいたせりふを頭の中で思い起こすようにする。
     物事にはしかるべきタイミングだなんてものが何よりも重要――いや、時には勢いに任せることだって求められることだけれど。
     迎え入れてすぐ、はなんだか違う。いっそのこと帰り際にでも、とも思ったけれど、なんだかそれもよくない気がする。有無を言わさず、みたいな感じがするし。
     昼食の片づけを終えて、録画していたドキュメンタリー番組(絵画修復士と俳優が海外の美術館のバックヤードに潜入する、だなんて特集番組で、予想以上に見応えのあるものだった)を並んで見た後――ぬるくなったコーヒーを淹れなおしてすこし一息ついて、おそらくは近況報告だとか、次の休みにはまたどこかにいこうか、なんだかんだでこうして家でふたりきりで過ごすのも悪くないのだけれど、なんて話になって――うん、やっぱり〝いま〟がいい。
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    raixxx_3am

    DONEすごくいまさらな日和くんのお誕生日ネタ。ふたりで公園に寄り道して一緒に帰るお話。恋愛未満、×ではなく+の距離感。貴澄くんのバスケ部での戦績などいろいろ捏造があります。(2023/05/05)
    帰り道の途中 不慣れでいたはずのものを、いつの間にか当たり前のように穏やかに受け止められるようになっていたことに気づく瞬間がいくつもある。
     いつだってごく自然にこちらへと飛び込んで来るまぶしいほどにまばゆく光輝くまなざしだとか、名前を呼んでくれる時の、すこし鼻にかかった穏やかでやわらかい響きをたたえた声だとか。
    「ねえ、遠野くん。もうすぐだよね、遠野くんの誕生日って」
     いつものように、くるくるとよく動くあざやかな光を宿した瞳でじいっとこちらを捉えるように見つめながら、やわらかに耳朶をくすぐるようなささやき声が落とされる。
     身長のほぼ変わらない鴫野くんとはこうして隣を歩いていても歩幅を合わせる必要がないだなんてことや、ごく自然に目の高さが合うからこそ、いつもまっすぐにあたたかなまなざしが届いて、その度にどこか照れくさいような気持ちになるだなんてことも、ふたりで過ごす時間ができてからすぐに気づいた、いままでにはなかった小さな変化のひとつだ。
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