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    さなか

    @o_sanaka

    成人腐(↑20)。主に石乙で文字と絵を投稿してます。

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    さなか

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    時代劇俳優×若手俳優の芸能パロ石乙。
    前に書いた話と同設定の話で、時間軸は少し前。

    #石乙
    stoneB
    ##芸能パロ石乙

    芸能パロ石乙「乙骨くん」
     声を掛けられて振り返れば、顔見知りのスタッフだった。「お疲れさま」と言われて「お疲れさまです」と返した。
    「今から休憩入るの?だったらこれ」
     そう言ってそのスタッフが渡してきたのだ仕出し弁当だった。しかもふたつ。
    「えっと、僕はひとつで充分ですけど、もう一つは…?」
     乙骨が不思議そうにそう問えば、そのスタッフは「ああ」と頷いた。
    「石流さんの分」
    「えっ」
    「休憩一緒に入ったよね?渡しといてくれない?」
     ニコニコ笑みを浮かべながらそう言ってくるスタッフは、乙骨の心情なんて丸わかりなのだろう。乙骨は「分かりました」と言って、ふたり分の弁当を抱えた。
    「あの」
    「うん?」
    「ありがとうございます」
     乙骨がそのスタッフにそう言えば、相手はニコニコ笑って「気にしないで~」と言いながらこちらに背を向けた。
     乙骨はその背中にペコリと頭を下げると、ふたり分の弁当を一瞥して、「よし」と気合いを入れた。



     乙骨がいたのは、都内のとある撮影所である。朝からそこで室内セットを使ったドラマの撮影が行われていた。
     乙骨はそのドラマの出演者のひとりである。まだまだ駆け出しの若手俳優である自分にはピッタリの、刑事ドラマの新米刑事役だ。
     メインの役どころではないのだか、主人公の後輩役と言うこともあり、背景みたいな役割であればそこそこ出番もある。更には乙骨の初々しい演技が地味にウケて人気が出てきたので、新米刑事のメイン回をやらせてもらえることになったのだ。
    (先輩刑事である主人公の言うことを聞かずにひとりで調べ回って、犯行現場を目撃してしまいそのまま犯人に捕まっちゃうとか…まぁまぁベタな内容だけど…)
     それでもまさかこんなに出番のある回をやらせてもらえるなんて本当に嬉しい、頑張ろうと思えた。

     そしてその新米刑事を捕まえる犯人役に抜擢されたのが、普段は時代劇メインに出演している俳優の石流龍。先程まで、乙骨もその石流の役に捕まっているシーンを撮影していた。メイクで強面のヤクザとなった石流はかなり怖く、乙骨は内心本気で震え上がりながら演技をしていたが……自分にとっては大先輩の俳優だ少しでも盗めるものは盗みたいし、まだまだ撮影は続くので仲良くもなりたい。
     そんな想いを常日頃からスタッフに話していた乙骨は、その人の計らいもあって、石流の分の弁当も抱えて、控え室に向かった。石流の控え室は個室なので内心ドキドキしながらも、扉をノックした。
    「どーぞ」
     扉の向こうから石流のそんな声が聞こえたので、乙骨は意を決して「失礼します」と言って、その扉を開けた。
    「乙骨?」
     石流は控え室で衣装を着崩し寛いでいた。胸元を大きく開けた衣装なので、上着を脱いでしまうとがっしりとした肉体がよく見えて、うっかりドキリとしてしまった。
     それでもすぐに自分の目的を思い出し、持っていた仕出し弁当を見せた。
    「あの、これ…お昼です」
    「なんだ、持ってきてくれたのか?」
     石流が座っていた椅子から立ち上がって乙骨の方に向かってきた。ムキムキで憧れる肉体が近づいてきて内心わたわたしながら、乙骨は言った。
    「い、一緒に…!」
    「うん?」
    「一緒に……食べませんか?」
     乙骨が思い切ってそう言えば、石流は目をパチクリとさせたあと、笑って「いいぜ」と言った。

     石流の座っていたテーブルの隣に乙骨も座り、お弁当の蓋を開けた。今日は主演俳優が差し入れてくれた焼き肉弁当で、石流も「お」と言う顔でペロリと唇を舐めた。
    「美味そうだな」
    「そうですね」
     肉の脂身が苦手な乙骨は、それが少ないことを確認してホッとした。そしてふたり手を合わせて「いただきます」と言ってお弁当を食べ進めた。
     石流と仲良くなりたいと思いながらも、何を話そうと考えていなかったので、お弁当をもぐもぐ食べながら考えていれば。
    「そういえば、オマエのデビュー作見たぜ」
    「む、ぐ…!?」
     思わず口に入れていたキャベツの千切りを喉に詰まらせそうになった。慌ててペットボトルのお茶で流し込んで、はぁはぁと息を切らしながら、石流を見た。
    「へ…?」
    「甥っ子がいるんだけどよ、その子が大好きで、ついでに弟の嫁もハマっちまったとかで、BD-BOX持ってたから借りて見たんだ」
    「まじですか……」
     乙骨のデビュー作は所謂特撮ヒーローもので、役者未経験の大抜擢だった。とはいえ乙骨本人は過密なスケジュールに付いていくのがやっとで、濃密ながらあっという間の一年だったのを覚えている。
     しかし、正直めちゃくちゃ恥ずかしい。
    「演技初挑戦だったんだって?それでも難しい役をしっかり演じててすげぇなと思ったよ」
    「う……ありがとうございます」
     それでも憧れの俳優にそう褒めてもらえるのはとても嬉しい。気恥ずかしいのはそうだけれど。
    「僕も石流さんの出てる時代劇見てましたよ、おばあちゃんが好きでよくテレビ付けていたので」
    「おお、そうなのかよ」
    「はい、だから石流さんが、こわいだけじゃないってことも、分かっています」
     乙骨が石流に真っ直ぐ視線を向けてそう言えば、石流はパチクリと瞬きをして、それからクスリと苦笑した。
    「まぁ確かに、今回の役柄では、オマエに怖い目に遭わせてばっかりだからな」
    「でもそういう役ですから」
     乙骨もぐっと表情を引き締める。
    「午前中は、僕もビビっちゃってましたけど、午後はしっかり渡り合えるようにします。だから石流さんも遠慮せずに僕の役を追い詰めて下さいね」
     トンと胸元を叩いてそう言えば、石流が「へぇ」と言って笑いながら乙骨の顔を覗き込んできた。
    「んじゃまぁ、午後も遠慮なく、オマエを苛めてやるよ」
     その瞳の鋭さに、ゾクリと背筋を震わせながらも、乙骨は午後の撮影も楽しみになっていた。


     そうして午後の撮影も終わり、新米刑事のメイン回がオンエアになった。石流の演じるヤクザに捕まり追い詰められていく様子に、ファンの子たちの感想は石流の役に批判的な内容ばかりだった。
    (まぁ当然の反応だよなぁ)
     そう言いながらも、石流自身への批判まで流れてしまっていたのがどうにも気になってしまったので、乙骨はそうだと思って、放送終了後にインスタグラムに、撮影後に石流と撮ったオフショットを投稿した。それは、乙骨と石流が、仲良さげに写っている。
    『小さい頃から見てきた俳優さんと共演できてとても嬉しかったです!今度会ったときは絶対に捕まえてやります』
     そんな役柄の言葉も添えて更新すれば、ファンの子たちからの反応がぞくぞくと寄せられて、大半がドラマと違ってめちゃくちゃ仲良し!という内容だった。
     それに何処となくホッとして、内心余計なお世話だったかなぁと思いつつ、やっぱり自分の憧れの人を悪く言われるのは寂しいからねと、苦笑した。


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