愛の為ならなんだって/尾月俺、あんたが好きですよ。
月島さん。
愛してるんです。
尾形百之助には似合わぬ真っ直ぐな言葉だと思った。
次いつ来ますか?と窺うのと同じ声音で、仄日に似た寂しげな発音で言った。
墓地で愛を伝えるのか。
魂の容物だった、朽ちた生前を思い起こすだけの滅びの場所で──否、だから、愛なのか。
「あいしてます。」
尾形百之助にとって月島基という男は、ちらりと振り返る程度の存在なのだろう。
時間が経てば忘れる。
忘れられる。
死人も、同じだ。
「すきなんです。」
御影石に掘られた父親の名前が濡れている。
洗ったばかりの石は陽光を受けて嬉しそうにも見える。
気の所為だろうか。
「聞いてますか、月島さん。」
「ああ、聞いてるよ。」
「じゃあ、こっち向いてくださいよ。」
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