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    小ネタ置き場 麿水ちゃんしかない

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    ・星空デート(概念)してる麿水ちゃん(その2)
    ・水心子くん視点、まだくっついてない
     (前回の話から続いてますが単発でも読めます)
    ・pixivに上げている話と同じ世界線ですが読んでなくても大丈夫です
     (自覚あり×無自覚の両片想いという前提があるくらいです)

    #麿水
    maruWater

    本丸の裏手にある小高い丘の上からは、この辺りで一番綺麗な星空が見られる。
    少し前に親友から教えてもらったその場所で、水心子は雨上がりの夜空を眺めていた。

    昼間降り続いていた雨が上がり、今は雲の隙間から月と星が少しずつ見え始めている。このまま雲が散れば、今よりもっと美しい空に変わるだろう。待ち合わせをしている清麿が来る頃には、きっと丁度良い具合になっているはずだ。そうなることを期待してこの場所に呼び出したので、想定通りに行きそうで良かったと安堵する。


    水心子がこの場所を知ったのは、清麿が働き詰めだった自分を案じて息抜きにと連れてきてくれたことがきっかけだった。
    この本丸に来るより前、刀剣男士として顕現して間もない頃に見たどこかの時代の星空に対して「綺麗だ」と呟いたことを覚えていてくれたのだろう。書類仕事をしていたところに現れて、鮮やかな手際で見事に丸め込まれてそのまま引きずられてきたこの場所から見上げた夜空は、忙殺されて濁りきっていた視界が一気に開けたと感じるくらいに美しい景色だった。

    その時に、ろくに休んでいなかったことをやんわり咎められ、良い働きをするためには休息が必要であり、己を労るのも大切なことだと教えられた。
    だから今度は、水心子の方から清麿を息抜きに誘ったのだ。水心子ほどに無理はしていないが、ここ最近は多忙ですれ違うことも多かったから、顔を見てゆっくり話がしたいという気持ちもある。

    任務の帰りに水心子なりに色々と策を講じて清麿を誘ってみたところ、驚くほどあっさり了承を得られた。その時点ではまだ明るい時間だったので夜に待ち合わせをして会うことにしたのだが、水心子の方は勢い余ってかなり早く来てしまったらしい。
    同じ部屋で暮らしているから、待ち合わせてどこかに行くということが珍しいのもあり、少しばかり浮かれているのかもしれない。それが顔に出ないよう己を戒めつつ、誰かを待つ時間というのも結構楽しいものなんだなと新鮮な気持ちを覚えた。



    「あ」

    頭上の空にひとつ、星が流れる。
    なんとなく見上げていただけだったのですぐに消えてしまい、願いをかけることは出来なかった。前に清麿とここにきた時も同じように流れ星を見つけたのだが、その時も一瞬で見失ってしまったから、捕まえるのはなかなか難しいのだなと二度目の失敗を悔しく思う。

    そういえばあの時、清麿は流れる星を眺めながら何かを願ったのだろうか。
    覗き見た横顔はなぜだか妙に真面目な顔をしていたから、なにか大切な願いでもかけたのかもしれない。その心を窺うことは出来ないが、あまり自分の願いを口にしない清麿に何か叶えたいものがあるのなら、自分になにか力になれることがあればいいと思う。

    あの時も今も間に合わなかったけれど、次に流れ星が見えた時は清麿の願いが叶うことを願おうかなと、そんなことを考えた。


    人ような心を得たとはいえ、その全てを理解するにはまだまだ時間がかかる。
    だけど、花に言葉で意味を与え、夜空の星に願いをかけるという人間の行為について、論理的ではないけれど美しいものだとは思うから、少しずつでもその意義や感覚を知って行けたらいいと、水心子はそう思っている。

    人の身を得てから、たくさんのものを見てきた。花も空も人間の営みも、この世界には美しいものが多く存在している。
    だけど、水心子の中で一等綺麗なものは何かと問われれば、迷うことなく己の親友だと答えるだろう。それはもちろん外見だけの話ではなく、その心も矜持も──在り方そのものが何よりも清廉で美しいと、水心子は大真面目にそう思っている。さすがに気恥ずかしいのでそれを口にすることはないが、ふとした瞬間にうっかり見惚れてしまったことは一度や二度では済まない。




    「……お待たせ、水心子。ずいぶん早いね」
    「あ、清麿」

    声のした方を振り向くと、こちらへ駆けてくる清麿と目が合う。だいぶ早く来てしまったと思っていたが、清麿の方も待ち合わせた時間よりかなり早い。
    それだけで胸が躍った理由はよく分からないが、清麿がそこにいると周囲がぱっと明るくなったような気がして──やっぱり星みたいに眩くてきれいだなと、不意にそんなことを思った。どう考えても浮かれた思考という自覚はあるので、これも当然口には出さないが。

    「……なんだか、ご機嫌だね?」
    「え?」

    そこまで待ってはいないので大丈夫だと水心子も清麿の方に駆けていくと、唐突にそんなことを問われて何がだろうと首を傾げる。確かに機嫌の良し悪しを問われれば圧倒的に良い方に傾いてはいるが、そんなに態度に出ていただろうか。浮かれた考えはまだ口にしていないし、気は抜いていないはずだ。

    「違った?」
    「いや、違わないけど……」
    「……顔を見れば分かるよ」

    なんで?と声に出してはいないけれど、水心子の言いたいことは表情と態度だけで伝わったようで、清麿はすぐに理由を教えてくれた。ただ、その答えを聞いたところで水心子の疑問は解決しないままだ。今はそこまで気が緩んだ顔はしていなかったはずだから、何を見てそう思ったのかが分からない。

    「……そうなの?」
    「うん、結構分かりやすいと思うな」

    顔の半分は襟で隠れているはずなのに、清麿は当たり前のようにそんなことを言う。確かに、これは今回に限った話ではなく、この手のことを問われたときに清麿が水心子の感情を見誤ったことはない。そこまで大袈裟に表情を変えているつもりはないので、いつものことながら清麿の観察眼は鋭すぎるなと舌を巻く。

    「目が」
    「……目?」
    「きらきらしていたから。星みたいに」

    清麿にしては珍しい表現をするのだなと少しばかり驚いたが、曰く、水心子は好きなものや興味のあるものの前だと本当に目が輝くらしい。だから、そういう時は機嫌が良いという判断になると教えてくれた。

    「そうなのか……」
    「あはは、時々しか出ていないから大丈夫だよ」

    日頃からそんなに感情が漏れ出ているのかと水心子が難しい顔をすると、それを察した清麿が心配しなくていいよと笑う。こういう時のフォローすら素早いから、やはり清麿はすごいなと改めて思う。

    (本当に、よく見ているんだな……)

    試しに水心子も清麿の表情を窺ってみると、そのまま目が合って柔い笑顔を向けられる。目を合わせるだけでこんな顔をされるのだから、いちいち心臓に悪い。思わず固まってしまいそうになったが、なんとか耐えてその顔を改めてよく観察してみる。

    (あ、)

    そこで、清麿にも結構分かりやすいところがあるなと思い付いた。
    清麿は、笑い方でなんとなく考えていることが分かるような気がする。──今のは含むものがないから、特に何も企んでいないやつだ。つまり、清麿も機嫌がいいのだろう。

    「清麿の方こそ、上機嫌だ」
    「うん。だって、水心子からのお誘いだからね」

    ここであまりにも素直に肯定されると、どう返すべきか分からなくなる。しかも、ご丁寧にその理由まで真正面から説明してくれたので余計に。自分の力で清麿の機嫌を上向きにできたのならそれは嬉しいことだとは思うのだが、こうも全面的に受け入れられるとさすがに照れくさい。

    「…………その、休息は大事だと前に教えて貰ったから」
    「その気持ちが一番嬉しいよ。……ありがとう、水心子」
    「……うん」

    清麿の言葉に、ああ良かったと水心子はこっそり胸を撫で下ろす。照れくさくはあるが、自分なりに考えて実行したことが相手のためになっているのなら、それはこちらの方が嬉しくなるものだ。
    清麿はいつもこうして気持ちを伝えてくれるから、その度に水心子の方が喜ぶことになっているような気がする。今回も、自分の意図を正面から伝えたわけではないのに、この言葉を聞くに清麿には全てお見通しらしい。

    「……月が綺麗だから、清麿と一緒に見たかったんだ」
    「…………そっか」

    色々と言い訳をつけて誘ってはみたが、結局水心子の考えていることは清麿には筒抜けのようだ。だから、こうなったらもう全部言おうと密かに抱えていた本音の方も口にした。そうしたら、今度は照れたような顔で清麿が微笑むから、水心子も何故かつられて仄かに赤くなった顔を晒す羽目になってしまった。ついでに、心臓が何だか変な音を上げたような気がする。


    雲がほとんどなくなった空には、細い月と小さな星々が視界の全てで輝いている。
    見上げた空の景色に視線を奪われていたら、隣の清麿が小さな溜め息を零したので視線を移す。目を合わせると、随分と楽しそうな顔でこちらを見ていた。

    「……綺麗だね」
    「そうだろう。雨上がりだから、絶対綺麗な空になると思ったんだ」
    「それもそうだけど、今のは水心子の話」
    「………………んん?」

    なにを言っているんだ、という気持ちが顔に出たという自覚はある。自分が清麿に言うのは事実だから良いと思うが、逆に清麿から──夜空すら霞むほど綺麗な男にそんなことを言われては、立つ瀬がないではないか。

    清麿は時々、突拍子もなくこういうことを言ってくる。水心子はその度に心臓が変な動きをして動揺させられるから、分かってやっているなら随分といい性格をしているなと思う。
    だが、改めてその顔をこっそり観察してみると、冗談で言っている体ではない。だから、こうも楽しそうに言われてしまっては馬鹿を言うなと嗜めることもできない。どうすればいいんだと聞きたいが、聞いたところで多分答えてはもらえないだろう。



    「……ねえ水心子。僕たち、星を見に来たんじゃないのかな?」
    「……うん」

    しばらくお互いの顔を見つめたまま黙りこんで時が止まっていたが、先に笑いを堪えきれなくなったのは清麿の方だった。水心子も、何をしているんだろうなと耐えきれずに笑ってしまう。互いの姿なんて毎日見ているというのに、こんなところに来てまで飽きずに見ていられるのだからおかしな話だ。


    (ああ、でも)

    夜はまだ長いのだから、もう少しだけ。
    自分の心にそう言い訳をして、水心子は一度は向き直った真上の星空から再び目を逸らして清麿の方を見る。外套の裾が風に靡いて翻り、その涼やかな風貌がますます冴え渡る。その姿から目を離せずにいると、清麿ももう一度こちらを向いたから図らずも再び目が合ってしまった。

    その瞬間、胸に走った衝撃は一体なんだったのだろう。今の水心子には、まだその衝動の輪郭は掴めなかった。
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