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    かみすき

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    トマ蛍が出会ってからずいぶん経った頃の話

    ※トーマのデートイベネタバレっぽい

    #トマ蛍
    thomalumi
    ##トマ蛍

    《トマ蛍》拝啓、数年前の君と 物の片付けとはどうしてこうも進まないのだろうか。久しく読んでいなかった本があればページを捲り、アルバムを取り出しては思い出に浸り。そのうち目的を思い出して端に寄せるけれど、次の山に移ればまた同じように手が止まる。
     誘惑を振り切って手をかけた引き出しには、いっぱいに詰まっているこれまでに貰った手紙たち。トーマはその中に鍵付きの箱を見つけたところで、もう今日の片付けは諦めるべきかもしれないと思った。
     大人の手で捻れば簡単に壊せそうな錠は、誰かに見られたくないとかそういうのではなくて、ただ大切にしておきたくて、なんとなくの。これを開けるための鍵はあまりにも小さかったせいでとうの昔に失くしてしまった。それきりしまい込んでいた箱は、爪で鍵穴を回せば簡単に開いた。
     無理やり詰め込まれていた手紙がわずかな蓋の隙間から溢れかえる。どうやって仕舞っていたのかわからない程の手紙は、一体何年分の思い出だろう。たったひとりとのやりとりにしてはかなりの量ではないだろうか。
     箱をひっくり返し、一番古い手紙を手に取った。
     封筒の中央に記された「トーマ様」の文字と、裏には小さく「蛍」と刻まれている。その丸っこい字は一般に綺麗だと褒められるものではないかもしれないが、風に揺られる花のように穏やかな、柔らかい声で言葉を紡ぐ蛍そのもののようで、トーマは大好きだった。ころころと笑う姿にもよく似ていた。
     勝手に緩んでいた頬を引き締め、だらしない顔を誰にも見られていなかったことを確かめてから手紙を開けば、共に記憶も蘇ってくる。
     まだそう仲良くなかった頃の当たり障りのない内容から始まって、今度の手紙は、鍋遊びはしばらく勘弁だと遠回しにそう訴えているものだった。蛍が何を引き当てたのかはもう忘れてしまったが、とんでもなく渋い顔で水を飲み干している姿はよく覚えている。
     次へ次へ、読み進めていけば少しずつ砕けた口調が混じってきた。トーマが教えた編み物で作ったマフラーが完成したとか、町にいる犬猫と仲良くなったとか。
     そのあとしばらく期間が空いているらしいのは、ああ、毎日会っていた頃だろうか。手紙のやりとりもいらない程に見つめ合って、愛を囁き合って。この頃の、思いが通じ合ったばかりの、他の何もかもが目に入らないくらいにふわふわ浮かれきった幸せな気持ちを思い出し、またにたりと口角が上がった。

    「何をにやにやしてるの」
    「っうぇ! あ、だー……蛍」

     手紙の最後の、まさに付き合いたてのカップルらしい「大好き」の文字をなぞって浸っている背中は、部屋を覗いていた蛍にばっちり見られたようだ。もちろん、部屋を片付けると宣言したはずが盛大に手紙を広げて散らかしていることも、それらが蛍からのものであることも、ばっちりと。

    「ふうん?」
    「いや、あの……つい」

     照れやら恥ずかしさやら、気まずさを誤魔化すように鼻の頭を掻く。今ではなかなか聞けなくなった好きの言葉を噛み締めていたことがバレる前にと、慌てて封筒に押し込めた。近づいてくる蛍に見つかる前に、手紙の山へ紛れ込ませて。

    「懐かしいね、こんなもの取ってあるなんて」

     完璧に隠蔽したつもりだったのだ、数年前に受け取った蛍からの愛を反芻していたことは。また久しぶりに好きと聞きたいだなんて、そんな可憐な乙女のような悩みはトーマには似合わないから。
     だから、隣に座り込んだ蛍が拾い上げた手紙が隠したばかりのそれだったことに酷く動揺してしまった。
     蛍のその手をあっと掴んでから後悔したってもう遅い、当然蛍の追求が始まる。目を逸らして何も答えずにいれば興味も薄れるだろうかと、忍耐力勝負に持ち込む、はずだった。

    「好きだよ、トーマ」

     うんともすんとも言わなかったのに、手紙を開いたわけでもないのに、どうして。
     考えを見抜かれた恥ずかしさと、それを隠そうとしていた居た堪れなさと。求めていたものが与えられたことが嬉しいのも手伝って、優しい笑みを前に全身の血が沸騰したかのように熱くなる。違ったかという問いに必死で首を振って、蛍をきつく抱き締めた。
     たくさんの手紙の中に刻まれた日々を思い出す。異国で交友を広げる蛍が遠い存在になってしまったようで不安だった気持ちも、なかなか会えずに寂しさで女々しく枕を濡らした夜も、その全部が「好き」の一言で吹き飛んだあの時。
     そして今日も、わがままかと封じた思いが、蛍の言葉でそっと温められる。紙に乗っても空気に乗っても、トーマの心の深くまで沁みてくる温度は今も昔も変わらなかった。
     腕の中で狭いと訴えていた蛍がこちらを見上げ、ゆったり瞬く蜂蜜色とは反対にトーマを急かした。

    「トーマは?」

     こてんと傾けられたその表情が甘ったるくて、胸が張り裂けそうな程に鼓動した。照れくささもないくらいに浮かれてしまうようなこの感じ、久しぶりだ。
     あの頃のような懐かしいどきどきと、ずっと変わらない温かさと、この先も大きくなり続けるであろう愛と。目の前にあるひとつひとつを離さないように抱き寄せて。

    「オレは……愛してるよ、蛍」
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