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    かみすき

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    かみすき

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    トマ蛍
    壁ドンを知りたい蛍ちゃん

    #トマ蛍
    thomalumi
    ##トマ蛍

    ≪トマ蛍≫壁ドンをしてもらう話近頃の稲妻では、空前の小説ブームが起きているのだという。冒険譚から推理小説までジャンルは様々だが、とりわけ恋愛小説の人気が高い。その影響から、少女の間では「壁ドン」なるものが流行っているらしい。男の子が女の子を壁際まで追いこんで、壁に腕をついて囲い込むこと。綾華から勧められて読んだ本にも描かれていたそれは、どうやら胸キュン必至の一撃らしく、好きな男の子から壁ドンをされることが乙女の共通の憧れのようだった。先週出たばかりの新刊の帯にも「壁ドンで胸キュン!」との文字が踊っているのを見た。
    隣でお茶をすすっているトーマに話を振ってみれば、トーマも壁ドンを知っているという。

    「ただ、読んでみても、その『壁ドンで胸キュン』の感覚がわからなくて」
    「たぶん、好きな人に迫られるのがいい、ってことなんだろう? まあ感じ方は人それぞれだから」

    庭の掃除を終えて縁側で二人休憩する今は、ゆっくり会話できる貴重な時間だった。

    「うーん……登場人物の男の子は私の好きな人じゃないからってこと? じゃあ、トーマがやってみてよ」
    「なんだって?」

    だって、体験してみたいじゃないか、壁ドンで胸キュンとやらを。綾華があれほど目を輝かせて語るような心躍る気持ちを味わってみたい。
    ああいけない、このままじゃドン、するための壁がないじゃないか。湯呑は離れたところに置いて、そばにあった柱までずりずりと移動してもたれ掛かる。……よし。壁ではないが、目的を達成するためには十分だ。

    「いやいや、そんなキリッとした顔をされてもやらないよ……?」
    「なんで!?」
    「なんでって言われてもなあ」

    どうして。私だってみんなと一緒に、きゅんきゅんするね、なんて話をしたいのに。きゅんきゅんの感覚がわからなくちゃしょうがない。

    「そんなかわいい顔してもダメだよ」
    「どんな顔?」
    「むうって顔」

    その、むうって顔、を再現したのであろうトーマが一番かわいいと思うの。
    ため息をつきながらもまだ諦める様子のない私に、トーマは困ったように眉を下げてお茶菓子を頬張る。今日はラズベリー水まんじゅうを用意したのに、あんなに大きいものを一口で食べちゃった。わあ、と見つめていれば、視線に気づいたトーマが食べないならオレが食べちゃうよ、だなんて言う。
    これか。これを使えばいいのか。まだ手をつけていなかった私の水まんじゅうを、そろそろとトーマに差し出す。

    「冗談だよ、これは君の分だろ。 ……待て、貰ってもやらないからな?」
    「バレたか」
    「……すごい情熱だね、本当に」

    お茶を口に含んだトーマは、さすがに照れくさいだろう、 と小さく呟いた。これは本当に困らせているかもしれない。あまりしつこく食い下がっても仕方がないし、諦めるしかないのか、私の壁ドンで胸キュン。
    手元に戻ってきた水まんじゅうをもきゅもきゅ咀嚼していると、よほど落ち込んだ顔でもしていたのか。

    「わかった、やるから! だからそんな悲しそうな顔しないで」
    「ほんと!?」
    「やる……けど、笑わないでくれよ」

    笑わないよ! 食べかけのお皿を遠くに避ければ、とても真剣な表情のトーマが距離を詰めて腰掛ける。期待を込めてトーマを見つめれば、揺れる新緑の瞳にぼんやりと自分のシルエットが見えた。緊張しているらしいトーマは腕を伸ばしては引っ込める。焦らすじゃないか。つられて身体を固くしていると、ついにトーマの指先がふわりと髪を撫でて、柱に届いた。
    これが、壁ドン。

    これくらいの距離、今さら珍しいことでもないはずなのに。耳元に寄せられた腕が世界の音を遠ざける。洗濯石鹸と混じったやさしいトーマの匂い。陽の光が遮られて影が差すトーマの顔。どうして、こんなにどきどきしちゃうの! どこも触れていないのに、全身を緩く捕らえられたように動けない、目を逸らせない。味わったことのないどうしようもない感情を押し込めるのに必死だった。ほたる、と静かに呼ばれれば、やわらかい息が鼻先を掠める。こんなにどきどきするだなんて、小説には書いてなかった!きゅん、どころじゃないよ!

    「あの……もう限界だ!」

    そう言いながら崩れ落ちてきたトーマの重さで、やっと指先が動かせるようになった。力の抜けた身体をトーマの胸に預けたが、一層強くなったトーマの匂いにどきりとする。二人してうぅ、ぐぅ、と意味のない声を出していれば、少しずつ冷静になってきた。

    「ト、トーマ……あの、ありがとう」
    「……うん」
    「……すごくどきどきしたよ。トーマも、したの?」
    「…………うん」

    乗せられたままだった腕が、返事のたびにぎゅうと抱きしめてくる。かわいいな。抱きしめ返せば、金色の頭がぐりぐりと肩口に押し付けられた。かわいい!

    「満足したかい?」
    「うん、とっても」

    顔が見たい。引きはがそうとするけれど、ぎちぎちと抱きしめられれば私の力ではさすがに勝てない。まだ照れているのを隠したいんだろうけれど、真っ赤なままの耳が見えている。本当にかわいい。堪えきれなかった声がむふふ、と漏れてしまった。

    「トーマ」
    「……」
    「もう、拗ねないでよ」
    「……拗ねてないよ」
    「顔が見たいな」

    とんとんと背中を軽く叩けば、乱れた髪のすき間からそろりと若草の色が覗いた。

    「そんなににこにこしなくても」
    「トーマと目が合うと勝手ににこにこしちゃうの」

    だって幸せすぎるから。このふわふわな気持ちはどうやって伝えればいいだろう。ぐしゃぐしゃの前髪に、キスをひとつ。トーマの首に鼻を擦りつけた。

    「とっても幸せだよ、トーマ」
    「もう、本当に――――もう!」

    またきつく抱きしめられたかと思えば、その腕で床に転がされる。横で同じように転がったトーマ。やっとちゃんと顔を見せてくれた。頭の下に回された腕にすり寄りながらも、自分の口角が上がっていくのがわかる。それと同じだけ、トーマの口角も上がっていく。ああ、最高だ!
    目の前のトーマに飛びつけば、ぎゅうと抱きしめられた。もう、動けないよ。きゃあ、と笑いながら宙に浮いた足をじたばた動かせば、それも長い脚で抑え込まれる。抵抗すればするほど、ますます脚が絡まる。肩で笑ってるの見えてるよ!
    ふたりでげらげら笑いながら転がっていれば、トーマが脚を柱にぶつけた。痛がる様子ですら、愛しくて愛しくて仕方がない。起き上がろうとするのを錘みたいにしがみついて阻止したかったのに、私ごと持ち上げられてしまった。悔しい。

    「ほら、お茶を淹れ直してくるから離してくれるかい?」
    「やーだ」
    「うん? 今日はわがままモードかい?」
    「そうだよ」

    だから、もう一回壁ドンして!
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    天生麻菜

    PROGRESS自分への尻だたきに。
    5月の叡智で出す綾人蛍のお話。
    綾人さんに許嫁の話がでて、裏に潜まれた策略を蛍ちゃんに許嫁のフリをしてもらい探すことになるが…といったお話。本編は3部構成。本になる時は今まで書いた前後のお話の再録とその後のお話2つを書き下ろし予定です。
    監禁の話でもあるので苦手な方はご注意ください。
    2以降はR-18の内容を含むのでフォロ限にさせて頂きます。
    idola1(綾人蛍)equal


     パキン、と固い金属音が室内に響く。
    音を立てて壊れた銀の輪は、無機質に、重力に逆らうことなく床へと転がり落ちた。
     それは、枷だ。自らの首に嵌められていたそれは、逃げられないようにとこの優しく歪な鳥籠に閉じ込めるために付けられていた。突然壊されたそれを、少女は呆然と眺めることしかできない。目の前に立つ淡い水色の髪を持つ男性は静かに愛刀を携えていたが、宙へ手放すと刀は虚空へ光となって消える。
     銀の輪は彼によって破壊された。彼に、付けられたのに。
    「……これで、貴方は自由です」
     彼女を見つめる瑠璃色の瞳には葛藤と執着と、隠し切れない情が見えている気がして。
     この人の瞳は、こんなにも感情がわかりやすかっただろうか、と呆然とした思考のまま少女は思う。
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