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    michiru_wr110

    @michiru_wr110

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    michiru_wr110

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    brmy
    槻衣都
    槻本さんと、小さな箱の中に閉じ込めた花火。自覚した想いについて。

    #槻衣都
    #brmy男女CP

    止まらぬハレーション(つきいと+誓) LIMEの通知音と共に、目にも鮮やかな写真が届けられる。
     スマホ画面にちらりと明滅した光と、店内代行へ赴いているはずの彼女の名前。気づいてしまった以上は集中できそうになく、俺は表計算ソフトと格闘する手を止めて、メッセージに既読をつけることにしたのだ。

    弥代衣都:比較的綺麗に撮れたので、一番にお見せしたくなりました。

     見事な大輪だ。打ち上げはじめから花開くまでの動きが鮮明に、まぶたの裏に浮かぶような一枚だ。鮮やかな黄金色をメインとしながら、ところどころに赤や緑の差し色があって目にも楽しい。針でなぞられたように細やかな光は実に繊細で、画面越しにこぼれ落ちるのではないかとすら錯覚させられる。
    「弥代さんは、写真撮影もお上手だ」
     スマホで花火を撮影するのは難しいと聞くが、まるでそれを感じさせない。

     おこげがあくび混じりにみゃあ、と一言鳴き、俺を一瞥すると窓の側へと歩き出す。
     そういえば。と、思い出した。この辺りでも今日、小規模ながら花火が上がるはずだったと。

     スマホを手にした俺は階上へと上がり、ベランダに出る。いつもどおり首都圏らしく、あまり澄み切っていない空だ。陽が沈んでから数時間たった現在は、生温くも穏やかな風が頬を撫でていく。
     遮るものが少ない方向へと当たりをつけて、スマホを構えれば。程なくして遠くから、ひゅるるると銀笛の小気味よい音が鳴り響いた。
     単発の撮影で何度か画面をタップして、連写モードを二~三回程度。保険として動画撮影もする。
     区切りのよいタイミングで一通り確認してみたが、その半数以上は到底使い物にならない出来栄えだ。規模の小ささを差し引いたとしても、光が弱く花火の形として認識できない。辛うじて花火らしい写真を見繕えたが、それも光が滲んでぼんやりとしている。弥代さんが送ってくださった写真のような、繊細な、細やかな光が表現できていない。
    (まあ、予想はしていたが……)
     何だか自分に失望したかのような心地だ。どうせならばお返しにと思ったが、そう上手くはいかない。

    「無難にお礼と感想だけ伝えるか……」
    「おや」

     独り言ちたところ、丁度ベランダに顔を出した一人の影。
    「誓さん」
     翻訳の仕事に区切りがついたのだろう。誓さんは興味深そうに俺のスマホ画面を覗き込み、にっこりと口角を上げた。
    「これはこれは……大河の撮る花火は興味深い」
    「どこがだ。綺麗に撮りたかったが、ちっとも上手くいかなかったのに」
    「そうでしょうか」
     誓さんは再度、俺のスマホに閉じ込めた花火を、まじまじと見つめて言う。
    「ハレーション、ですね」
    「……ハレーション」
     間抜けに繰り返した言葉はどこか聞き馴染みがあるような気がしたけれど、具体的にどこで知り得たフレーズかは思い出せそうにない。
    「暗闇で花火やライトアップした景色などを撮影する際、こうして光が滲む現象です。レンズにうっかり触れた直後に撮影するとこうなります」
    「そうなのか」
    「スマホ撮影において、よくある現象でもありますね。ですが」
     細い目の眦を緩やかに下げて、尚も誓さんは続ける。
    「光の滲んだ写真というのも味わい深く、実に乙なものです。撮影した人物のあたたかな想いもまた、じんわりと滲むようで」
     私は好きですよ。誓さんはそう言い残すと、ふふ、と愉快そうに笑いながら離れていった。

     こうして写真を撮り始めたいきさつを、頭の中で丁寧になぞる。
     弥代さんが送ってくれた、繊細でうつくしい花火の写真。おそらく……否、間違いなく、お忙しい合間を縫って共有してくださった貴重な一枚。写真にはどこか、彼女の誠実さと思いやりが汲み取れるようで。
     うつくしさに胸を打たれたのだ。花火はもちろん、彼女の、心根のうつくしさに。

     だから俺は、同じものを返したいと。そう願ったのかもしれない。

     手元には、光が滲む不格好な花火(ハレーション)。 先ほどまでとは別の意味で、送る勇気がなくなってしまった写真。
     写真だけではなく心までも、今の俺は持て余しているようだ。
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    michiru_wr110

    DONEbrmy
    弥代衣都(+皇坂+由鶴)
    捏造しかない・弥代衣都の中に眠る、過去と現在について
    image song:遠雷/Do As Infinity

    『きょう、ばいばいで。また、ママにあえるの、いつ?』
    軽やかに纏わる言霊(弥代衣都・過去捏造) 女は視線でめつけるように傘の骨をなぞり、露先から空を仰いだ。今日という日が訪れなければどれほど良かっただったろうか、と恨みがましさを込めて願ったのに。想いとは裏腹に順調に日を重ね、当たり前のような面をして今日という日を迎えてしまった。

     無機質な黒色の日傘と、切り分けられた青空。都会のように電線で空を区切ることも、抜けたように広がる空を遮るものもない。しかし前方には、隙間なく埋め尽くされた入道雲が存在感を主張している。

     女の両手は塞がっていた。
     片方の手には日傘。そしてもう片方の手には、小さな手の温もり。
     歳相応にお転婆な少女は女の腰にも満たない背丈で、時折女の手を強く引きながら田舎特有のあぜ道を元気に駆けようとする。手を離せば、一本道をためらいなく全力疾走するであろう、活発な少女。しかし女は最後の瞬間まで、この手を離すつもりはない。手を離せば最後、何もしらない無垢な少女はあっという間に目的地へとたどり着いてしまうに違いない。
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    michiru_wr110

    DONEanzr
    夏メイ(のつもり)(少し暗い)
    2023年3月20日、お彼岸の日の話。

    あの世とこの世が最も近づくというこの日にすら、青年は父の言葉を聞くことはできない。

    ※一部捏造・モブ有
    あの世とこの世の狭間に(夏メイ) 三月二十日、月曜日。日曜日と祝日の合間、申し訳程度に設けられた平日に仕事以外の予定があるのは幸運なことかもしれない。

     朝方の電車はがらんとしていて、下りの電車であることを差し引いても明らかに人が少ない。片手に真っ黒なトートバッグ、もう片手に菊の花束を携えた青年は無人の車両に一時間程度揺られた後、ある駅名に反応した青年は重い腰を上げた。目的の場所は、最寄り駅の改札を抜けて十分ほどを歩いた先にある。
     古き良き街並みに続く商店街の道。青年は年に数回ほど、決まって喪服を身にまとってこの地を訪れる。きびきびとした足取りの青年は、漆黒の装いに反した色素の薄い髪と肌の色を持ち、夜明けの空を彷彿とさせる澄んだ瞳は真っすぐ前だけを見据えていた。青年はこの日も背筋を伸ばし、やや早足で商店街のアーケードを通り抜けていく。さび付いたシャッターを開ける人々は腰を曲げながら、訳ありげな青年をひっそりと見送るのが恒例だ。商店街の老いた住民たちは誰ひとりとして青年に声をかけないが、誰もが孫を見守るかのような、温かな視線を向けている。
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    michiru_wr110

    PASTanzr 初出2023.7.
    夏メイ
    イメソンは東京j...の初期曲。

    《七夕を迎える本日、都内は局所的に激しい豪雨に見舞われますがすぐに通り過ぎ、夜は織姫と彦星との再会に相応しい星空を観測できるでしょう》
    青く冷える七夕の暮れに(夏メイ) 新宿は豪雨。あなた何処へやら――イントロなしで歌いはじめる声が脳裏に蘇ってくる。いつの日かカラオケで夏井さんが歌った、昔のヒット曲のひとつだ。元々は女性ボーカルで、かなり癖のある声色が特徴らしい原曲。操作パネルであらかじめキーを変えて、あたかも自分のために書き下ろしされたかのように歌い上げてしまう夏井さんの声は、魔法のように渇きはじめた心に沁み渡っていく。

    《七夕を迎える本日、都内は局所的に激しい豪雨に見舞われますがすぐに通り過ぎ、夜は織姫と彦星との再会に相応しい星空を観測できるでしょう》

     情緒あふれる解説が無機質なラジオの音に乗せて、飾り気のない部屋に響く。私は自室の窓から外を見やった。俄かに薄暗く、厚みのある雲が折り重なっていく空模様。日中には抜けるような青空の下、新宿御苑の片隅で夏の日差しを感じたばかりだというのに。この時期の天候はどうにも移り気で変わり身がはやい。
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