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    ゆるか

    書くタイプのオタク。ここは文字しかありませんよ!何でも食べる雑食だけど今はダミアニャにお熱です。

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    ゆるか

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    犬も食わない第四話。
    亀の歩みのペースで進んでますすいません。
    モブがめちゃくちゃペラペラ喋るので苦手な方はご注意下さい!ダニャちゃんイチャイチャもして欲しいけどこじこじに拗れても欲しい…。
    誤字脱字許してね。

    #SPYxFAMILY
    #ダミアニャ成長if
    damianiaGrowthIf
    #ダミアニャ
    dahmia

    犬も食わない その4「こうやってバスを待つのも今日が最後だね。」
    寄り添って座るアーニャが淋しげに笑った。放課後のイーデン校バス乗り場。隣り合って座る二人はアーニャが乗る最終バスを待っている。明日は卒業式。卒業を目前に控えた生徒達は名残惜しく、ほとんどの学生が帰らず居残り、放課後の教室は珍しく賑わっていた。この日ばかりは教員達も目を瞑ってくれるのだ。二人もその中に入り、思い出話やそれぞれのこの先の話に花を咲かせた。やがて最終下校のチャイムが鳴り、学生達はまた明日と笑顔で手を振り帰って行った。アーニャだけがスクールバスで帰るので、ダミアンはバス停まで送って来たのだ。こうしてここでアーニャを見送るのも今日が最後だ。
    「なぁ。」
    声をかけ、繋いでいた手に力を込める。それに応えてアーニャがダミアンを見上げた。
    「なぁに?」
    今夜は新月。アーニャにダミアンの心を読む力はない。重ねてきた年月の中で、既にダミアンはアーニャの秘密を知っている。初めて打ち明けられた時は流石に驚いたが、だけどダミアンを信頼し、隠さず正直に話してくれた事の方が嬉しくて、ダミアンは素直にアーニャの秘密を受け入れた。知ってしまえばどうって事はない。アーニャに知られて困る事は何もないし、アーニャ自身に惹かれたのだから生まれなんて物ははなから関係ない。ただ、そんな彼女にサプライズを仕掛けるのは至難の業で、そこだけがほんの少し困る。アーニャの秘密を知ってから、ダミアンは新月の日を把握するようになっていた。
    「明日で最後だからな。真面目な話、してもいいか。」
    「改まって何?あっ……まさか別れ話か?」
    「馬鹿野郎。それだけは天地がひっくり返ってもないってわかってるだろ。」
    ダミアンがあまりにも真面目に言うので、アーニャは吹き出した。
    「じゃあ何?」
    ダミアンはポケットから何かを取り出すと、アーニャの前にそれを差し出した。リングケースだ。アーニャは思わず息を飲んだ。
    「受け取ってくれ。」
    促され、繋いでいた手をそっと離し、アーニャはおずおずとそれを受け取った。それを開け、そこに鎮座するダイヤモンドが付いた指輪を見て、アーニャは大きく目を見開いた。落としてしまっては大変だと思い、慌ててリングケースを両手で持ち直す。
    「えっ?!これって……!」
    「本当は卒業プロムの後に渡そうかと思ってたけど、今夜は新月だからお前に気付かれずに渡せるかと思って。どうだ。驚いたか?」
    「お、驚いた。アーニャ、こんな大きなダイヤモンド見たの初めて。これ、どうしたの?」
    「わかってるだろ?口約束だけじゃなくて、本物にしたいんだ。」
    「何を?」
    「オレとお前のこの先の未来。」
    ダミアンはベンチから降り、アーニャの前に跪いた。この時の為に落ち着いてカッコ良く決められるように何度も何度も頭の中でシュミレーションしてきたのだ。だが今感じているのは、やっとここまで来たという胸が踊るような感情と、人生の上で重要な場面に立っているのだという緊張感。妙なプレッシャーに負けないように、背筋を伸ばす。ダミアンはアーニャの両手をリングケースごと包み込んだ。小さな手が微かに震えているのを感じる。今夜は新月。月明かりはない。バス乗り場の外灯が二人をスポットライトのように照らしている。その光を受けて、エメラルドグリーンの瞳が熱を持ってダミアンを見つめている。とても綺麗だ。
    「アーニャ・フォージャーさん。」
    改めて名前を呼ぶと、アーニャの体が驚いたように跳ねた。
    「は、はい。」
    「ボクと結婚してくれませんか?」
    アーニャが瞬きもせずにダミアンを見つめている。そのエメラルドの瞳にじわりと涙の膜が張った。
    「……ア、アーニャ、庶民の子だけど。」
    「関係ない。」
    「それどころか元々孤児で。」
    「今はフォージャー家の娘だろ?」
    「トニトも五つも持ってるし。」
    「ステラはその倍待ってるじゃねーか。」
    「そ、それに、人の心、読めちゃうし……」
    「常人が持っていない個性を持ってるなんて、さすがオレの選んだ女だ。」
    「でも……でも……ダミアンのおうちは……」
    「オレ、イエス以外聞くつもりねーんだけど。」
    「うっ……」
    アーニャは唇を噛んで俯いてしまった。結婚となると個人間の問題ではなくなってしまう。どうしても家同士の関わりも深くなる。長い付き合いでアーニャは気にしていないだろうと思っていたが、やはりデズモンドという家名を前に気が引けてしまうのだろうか。だけどダミアンはアーニャ以外選ぶつもりはない。それはいつも側で心の声を聞いているアーニャが一番良くわかっているだろう。
    「アーニャはオレと一緒にいたくねーのか?」
    「……一緒にいたい。でも、アーニャでいいの?」
    自信なさげな瞳がダミアンを見つめた。
    「お前がいいんだ。」
    アーニャが泣きそうな顔で唇を噛んだ。その唇が小さく震えている。
    「後悔しない?」
    「このオレが後悔なんてすると思うか?」
    ダミアンは不敵に笑うと、アーニャからリングケースを受け取り、指輪を取り上げた。アーニャの左手を取り、薬指に指輪を嵌める。選びに選び抜いた指輪だけあり、やはりアーニャに良く似合う。
    「お、ぴったり。」
    アーニャの左手を取ったまま、ダミアンは笑みを浮かべた。アーニャはじっと指輪を見つめている。アーニャの中でじわじわと広がる喜びの感情がダミアンにも伝わってくるようだった。
    「もう一度言うぞ。アーニャ、オレと結婚してくれるか?」
    「やだ!」
    ダミアンは驚いた。まさか拒絶の言葉を聞くとは思いもよらなかったのだ。アーニャはつんと唇を尖らせて、可愛くダミアンを睨み付けた。
    「はぁ?!お前、この期に及んで……」
    「さっきの言い方でもう一回言って!アーニャ・フォージャーさん、ボクと結婚してくれませんか?ってやつ!」
    ダミアンは呆気に取られた。だが、すぐに擽ったい気持ちが込み上げる。元よりアーニャがイエスというまで何度でもプロポーズするつもりだったのだ。いくらでもアーニャが欲しがる言葉を聞かせてやりたい。
    「仕方ねーな。」
    笑みを零し、大きく息を吐き出す。一度目を瞑り気持ちを切り替え、改めてアーニャと向き合う。アーニャは頬を染め、幸せそうな笑みを浮かべてダミアンを見つめていた。
    「アーニャ・フォージャーさん、ボクと結婚してくれませんか?」
    「いいよ!結婚してあげる!」
    大きく頷き、アーニャがダミアンの胸に飛び込んできた。
    「うわっ……!」
    勢いを殺せず、アーニャを抱えたままその場に尻餅をつく。
    「全く!あぶねー女だな!」
    「何だよ、嬉しいくせに。ダミアンももっとはしゃいでいいんだぞ!」
    アーニャはダミアンの膝に座り込み、明るい声を上げた。言葉の通りはしゃいでいる様子が可愛い。華奢な腰に手を添え、吸い寄せられるようにアーニャの唇に唇を寄せる。掠め取るようにキスをすると、アーニャが驚いた顔でダミアンを見つめた。
    「お前みたいな危なっかしい女、一生目が離せねーよ。」
    零れ落ちそうなエメラルドの瞳がダミアンの言葉に柔らかな弧を描いた。少し格好付かないが、地べたに座り込んだまま二人は互いを抱き締め合った。

    翌日、卒業の日だというのにイーデンはアーニャの左手薬指に輝く指輪の話で持ちきりだった。ついにダミアン・デズモンドとアーニャ・フォージャーが婚約したのだ。そのニュースは、あっという間に学内中に知れ渡り、校内は祝福ムードに包まれた。イーデンのキングとまで呼ばれたデズモンド家の御曹司と、多数のトニトを保有しながらインペリアル・スカラーまで上り詰めた庶民の女の子が結ばれるドラマのようなシンデレラ・ストーリーは、二人が卒業したその後もイーデンでの語り種となったのだ。










    オフホワイトのモーニングコートに袖を通し、鏡の前に立つ。この日の為にあつらえた細身の美しいシルエットの花婿衣装はダミアンに良く似合っていた。耳元で光るのは最愛の人の瞳の色に良く似たエメラルドのピアスだ。胸にはダミアンの心を表したような凛とした白薔薇で作られたブートニアが挿してある。 
    「良くお似合いです。」
    スタイリストが感嘆の溜息を漏らす。当たり前だ、と思いながら、ダミアンは鏡の中の自分を見つめた。隣に立つ花嫁の姿を想像し、頬を緩ませる。イーデン卒業の前日、ダミアンは正式にアーニャにプロポーズした。それまでだってプロポーズの予告のような事は散々していたのだが、改めて正式に求婚したのだ。答えはイエスだろうと思いながらも、「結婚してくれませんか?」という一言を告げる時はやはり緊張した。万が一にもノーと言われたらどうしよう。そんな事を言われても聞くつもりもなかったが、最終的に頬を染めたアーニャが頷いてくれた時には天にも昇る気持ちだった。その幸せな瞬間を思い出す。可愛いアーニャが妻となり家族となるのだ。この幸せはきっと永遠に続くのだろう。アーニャと交際を始めてから幸福値は上がり続ける一方なのだ。喧嘩をする事もあるが、そんな事は些細な事。自分の中ではずっと前から先に謝った方が勝ちだと決まっている。とにかく幸せだ。幸せ過ぎて怖いくらいだ。そして今日、二人は神に永遠の愛を誓うのだ。

    ドアをノックする音が聞こえ、ダミアンはそちらに顔を向けた。こんな時に誰だろう。気分が良いので誰からの祝福も受けてやろうじゃないか。入室を促す返事をすると、懐かしい人物が顔を覗かせた。アダムとセシリアだ。
    「ダミアン、今日はおめでとう!」
    アダムが笑顔で祝福の言葉を述べた。その隣でセシリアは複雑そうな顔でダミアンを見つめている。セシリアに会うのはそういえばあのハーフターム以来だとダミアンは思った。確かあの後留学すると言って、国を出ていたはずだ。そこから帰国したとは聞かないから、まだ留学中なのだろう。
    「アダム、ありがとう。セシリアも。わざわざ留学先から来てくれたのか?」
    「ダミアン……。ええ、そうなの。お兄様にもお父様にも帰って来いって言われて。本当は体調も悪いし欠席しようかと思ったんだけど……。」
    アダムが咳払いをして妹の言葉を遮った。
    「セシリア。」
    セシリアは気不味げに俯いてしまった。その首元にあの時強引に買わされたネックレスが輝いている。セシリアが発端でアーニャと仲違いしてしまったハーフターム。セシリアの告白を断り、アーニャと仲直りをして初めてキスをしたのもあの時だ。ダミアンは浮かれていたが、そういえばセシリアはあの翌日泣き腫らした顔で帰って行った。アダムが「セシリアの事はオレに任せて気にしないでくれ。我儘な妹ですまない。」と言っていたのでダミアンはすっかり気にしていなかったのだ。つくづくアーニャ以外の異性に興味がない自分に感心してしまった。だがセシリアの中のわだかまりはまだ残っていそうだ。とは言えお互い大人になったのだ。晴れの日を妨害するような事はしないだろう。そう思うのは、やはり彼女はダミアンの中で妹のような近しい存在だからだ。
    「そうか。わざわざ悪いな。体調が悪いようなら途中で席を外してくれてもいいからな。」
    ダミアンは大事な妹分に精一杯気遣ってみせた。セシリアは上目でダミアンを見つめている。物言いたげな瞳が居心地が悪い。だがダミアンが結婚してしまえば、さすがにセシリアも初恋を諦めるだろう。
    「大丈夫だよな、セシリア。」  
    アダムは妹の肩に手を乗せた。
    「……ええ。」
    暗い表情を宿したまま、セシリアは小さく頷いた。

    部屋を出ると、セシリアは足早に歩き出した。それに続くアダムはセシリアに追い付くと、厳しい顔で妹を見下ろした。
    「セシリア。いい加減ダミアンの幸せを認めてやれ。」
    「嫌よ。お兄様は私がダミアンの事大好きだって知ってるくせに。酷いわ。」
    「セシリア!」
    アダムはセシリアの肩を掴んで立ち止まらせた。
    「お前があまりにもダミアンに執着するから外の世界を見せる為に留学を勧めたのはオレだけど、今日お前をここまで連れて来たのは、いつまでもダミアンを諦めきれないお前に現実を見せてダミアンへの想いを断ち切らせる為だ。お前が拗ねてもゴネても、絶対にダミアンはお前を選ばない。いい加減わかっているだろう?」
    セシリアは青褪めて震え出した。
    「酷い……」
    「お前が執着すればする程ダミアンはお前から離れて行くだけだぞ。」
    「そんなのわからないじゃない。ダミアンがあの子と結婚するのは庶民の子が物珍しいからよ。大体育ちが違い過ぎるもの。一緒になればきっとずれが生じるわ。うまくいくはずないんだから。いずれダミアンだって目が覚めるはず。そして気付くのよ。誰がダミアンに一番相応しいか。」
    セシリアの言葉にアダムは溜息を吐いた。少しは成長したかと思ったが、中身は全く成長していない。拗らせた想いは簡単には消えていなかったのだ。セシリアからしてみれば、離れていても大好きだった人が数年を経て更に眩しく成長していたのだから、簡単に想いを断ち切れと言われても無理なのだ。
    「あんなに素敵になったダミアンをどうやって諦めろって言うのよ。私の中でダミアン以上の男性はいないのよ。」
    「セシリア、もっと一族の娘である自覚を持て。お前にだって縁談の話はたくさん来てるんだ。どれも良い話ばかりだぞ。良い機会だから他の男に目を向けてみろ。」
    「一族の娘の自覚ですって?私を政略結婚の駒にする気なのね。絶対嫌よ。お断り。一族の為だと言うなら、ダミアンをあの女と別れさせて!そして私とダミアンと結婚させて!それができないなら放っておいてちょうだい!」
    つんと顔を背けたセシリアを前に、アダムは額を押さえ、キリキリと痛む胃を摩った。









    「アーニャさん、とても綺麗です。」
    涙で潤むヨルの視線の先には愛娘の晴れ姿があった。豪華な刺繍が施されたドレスに身を包み、アーニャは眩い笑顔を浮かべた。その姿はまるで童話の中から抜け出してきたプリンセスのようだ。
    「ありがとう、はは。」
    綺麗に結い上げられた髪の上に品良く乗せられたプラチナのティアラ。耳元を彩るイヤリングには惜しげもなくダイヤが散りばめられている。最高級のパールのネックレスが華奢な鎖骨の上で柔らかな光を放ち、その下で控えめに光るのはいつの日か最愛の人から貰ったネックレスだ。三日月の形をしたペンダントトップには彼の目の色と同じ色のイエローダイヤが輝いている。
    「馬子にも衣装だな。」
    赤い目をしたユーリがヨルの隣でぐすっと鼻を鳴らす。
    「その月の形のネックレス、今日くらい外したらどうだ?」
    「ダメ。これは御守りなの。」
    ダミアンから初めて貰ったプレゼントは、いつしかアーニャにとって御守り代わりになっていた。ユーリは「そんなもんか。」と言うと、姉と姪を並ばせてカメラを構えた。シャッターを切りながら、息をするように姉を讃える言葉を吐き続ける。
    「さぁ姉さん、笑って。綺麗だよ。すごく綺麗だ。美の女神とは姉さんの事だ。今日の参列者はきっと花嫁を差し置いて姉さんに夢中になるよ。むっ、それは困る。そんな事はこのボクがさせないぞ。姉さんの事はボクが守るから安心してね姉さん。おいチワワ娘。お前も姉さんの次に綺麗だぞ。」
    取って付けたようにアーニャの事も褒めるので、母と娘は目を見合わせて笑った。
    「おじ、その写真アーニャにもちょうだいね。」
    「仕方がない。姉さんの麗しさを忘れない為にも嫁入り道具に入れていけ。」
    「おじとも写真撮りたいなぁ。」
    「チッ、本当に仕方のないやつだ。今日は特別だぞ。さぁ姉さん、ロッティに邪魔される前に三人で写真を撮ろう。」
    ユーリはブライダルアテンダーにカメラを渡し、いそいそとアーニャの隣に並んだ。ヨルとユーリに挟まれて、アーニャは笑顔でカメラを見つめた。そこにロイドが入って来ると、ユーリが途端に吠え出した。いつもの光景に母と娘は再び顔を見合わせて笑った。アーニャを眩しそうな瞳で見つめるロイドを睨みながら、ユーリがぶつぶつと文句を言う。それでもアーニャの希望で四人並んで写真を撮った。フォージャー家の娘として嫁げる幸せに、アーニャは胸がいっぱいだった。








    教会の扉が開き、参列者の視線が一斉にそちらを向く。花嫁の姿を目にした途端、辺りから感嘆の溜息が漏れる。アーニャは父の腕を取り、長いバージンロードを歩いた。祭壇で待つ夫となるダミアンは、花嫁の姿を目に写した途端、その瞳を一瞬で綻ばせた。眩しい光を見つめるような瞳はアーニャだけを写している。
    (……凄く綺麗だ。)
    アーニャの頭の中に、ダミアンの心の声が届いた。
    (綺麗だアーニャ。いつだって綺麗で可愛いけど、今日は遥かにそれを超えて来てやがる。オレの恋人、実は天使……いや、女神だったのか?この美しさは美の女神だって裸足で逃げ出すぞ。いや待て。恋人じゃなくて今日から晴れてオレの妻だった。妻……妻か。死ぬ程最高な響きだ。やっと戸籍ごとオレのものになるんだな。クソ、こんな綺麗な姿、他の奴らに見せたくねーな。いや、見せびらかしたい気持ちは勿論あるが、やっぱり勿体ねぇ……。愛してるよアーニャ。もう一生離さないから覚悟しろよ。アーニャ、聞こえてるか?聞こえてるんだろ?オレのアーニャ。)
    ダミアンから惜しげもなく向けられる愛の言葉に、アーニャは熱くなった顔を俯けた。
    (照れやがって。可愛いな。)
    再び声が聞こえ、睨むような上目でダミアンを見る。ダミアンは愛しさを滲ませた蜂蜜色の瞳でアーニャを見つめていた。この広い教会の中で、アーニャただ一人を。
    (好きだよ、アーニャ。誰よりも愛してる。オレの妻になってくれてありがとう。一生守るから、この先何があっても二人でずっと一緒にいような。)
    溢れるように言葉が頭の中に届く。アーニャはダミアンを見つめ、微笑みを浮かべて小さく頷いた。隣にいる父の頭の中では出会ってから今までのアーニャの姿が走馬灯の様に流れている。クールな表情を貼り付けてはいるが、心の中は人並みの親としての感傷を抱いているようだった。幸せだ、とアーニャは思った。始まりは偽物の家族ではあったけど、いつしかそれは本物の家族になり、父の任務の為に入学した学校ではあったけど、そこで最愛の人や唯一無二の親友にも出会う事ができた。幼い頃は淋しい思いもしたけれど、今の自分は幸せだと胸を張って言える。だが、その幸せに水を差すような敵意がアーニャに向けられている事に気が付いた。新郎側の参列者の中から、強い視線を感じる。横目でそれを確認しようとしたが、視界が厚いベールに覆われていてわからなかった。
    (本当はあの場所にいるのは私のはずだったのに……。ダミアンもダミアンよ。誇り高いデズモンドの家にどこの馬の骨かもわからないような人を入れるなんて。)
    頭の中に届いた言葉にアーニャは混乱した。『本当はあの場所にいるのは私のはずだったのに』とはどういう事だ?もしかしてダミアンが浮気をしていたのか?いや、そんな筈はない。ダミアンはテレパスであるアーニャの目を掻い潜って浮気ができるような器用な人でもないし、盲目的にアーニャを愛している為アーニャ以外の女に目を向ける筈がない。自意識過剰だとかいう前に、これは紛れもない事実なのだ。ダミアンが一途で誠実で独占欲が強い男だという事は周知の事実なのだ。一体誰がこんな事を思っているのだろう。ようやく迎えた晴れの日だというのに、美しい湖面に小石が投げ込まれたように、幸せな感情に緩やかに波紋が広がる。ロイドの手からダミアンへとアーニャの手が渡される時、ロイドが一言「娘を頼む。」とダミアンに告げた。ダミアンは真摯な表情で「はい。」と返事をした。アーニャの目の前で男同士が固く握手を交わしている。その光景を見ながら、アーニャは気を取り直した。人生で一度きりの大切な瞬間。たくさんの人達が二人を祝福する為に集まってくれている。それなのに、わけのわからない心の声に惑わされてくよくよしてどうする。気を取り直し、ダミアンの手を取り祭壇に向かう。その背に、憎悪とも悪意とも取れない感情が覆い被さってきた。聞こえてくるのはさっきと同じ女性の声だ。心の声をシャットダウンして、式に集中する。厳かな空気の中、誓いを言葉を交わし、指輪を交換する。だが、誓いのキスを交わす為ダミアンがアーニャのベールに手をかけた瞬間、再び悲鳴のような声がアーニャの頭の中に投げ付けられた。
    (やめて!私の前でキスなんてしないで!)
    ハッと息を飲んだアーニャを見つめ、ダミアンが『どうした?』と心の中で話しかけてきた。何でもない、と目で訴える。ダミアンは気を取り直したようにアーニャの顎に手をかけた。
    (アーニャ、オレの事だけ見てろよ。オレの声だけ聞いてろ。)
    ダミアンの心の声が聞こえる。傲慢にも聞こえる声だが、安心できる。だが、この結婚を面白く思わない人物がいるのだとアーニャは思い知った。しかもそれはデズモンドの親族の中に。唇が重なると、逃げ出すようなヒールの靴音が聞こえた。その音は辺りから湧き起こった拍手の音に打ち消された。教会の扉が開き、その隙間から一筋の光が差し込んだその瞬間、光の向こうから刺すような視線を感じた。
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    ゆるか

    PROGRESSとある考古学者の話の番外編です。
    そういえば以前相互さん宛にちょこっと書いたのを思い出しました。よろしければお口直しにどうぞ。(お口直しになるかな…?)
    ダミアニャ成長if。
    とある考古学者の話・番外編 ある日の考古学者の話 二一時三〇分バーリント駅。到着した汽車から一人の男が降り立った。その男はセル巻き眼鏡を外し、上着のポケットに忍ばせると、行儀良く締められたネクタイを緩め、ワイシャツの第一ボタンを外した。後ろに撫でつけた髪をくしゃりと乱し、大きく息を吐き出す。時計を確認し、スーツケースを引っ張りながら改札に向かい歩き出す。オスタニア大学助教授であるダミアン・デズモンドは学会に出席する為に地方に赴いていた。そのまま現地の発掘調査に参加し、本日ようやく帰って来たところである。
    (もうニ週間もアーニャに会ってない……)
     毎日仕事に忙殺されていた為、電話も四日前にかけたのが最後だ。せめて一目会えないだろうか。今から訪ねればまだ起きているだろう。駅前でタクシーを拾い向かえば、二十分程でアーニャが住むアパートに着く。ダミアンはタクシーを捕まえる為、ロータリーに出た。そこに停車している一台のリムジンを見て、小さく舌打ちした。後部座席の窓が音もなく開き、顔を出したのはダミアンの兄であるデミトリアスだった。
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    ゆるか

    PROGRESS趣味全開で書いたパロみたいな話です。
    某考古学者の映画が大大大好きでそんな感じの話が書きたかった(о´∀`о)
    歴史好きが高じて考古学者になったダミアンの話。
    ダミアニャ成長if。年齢は20代後半辺り。ダミアンがガンファイトしたりスパイのような事をしたり何でもします。使ってる武器は趣味です笑って許してね。
    ふわっとした話なので深く考えず読んでくださったら嬉しいです。じわじわ書いていきます。
    とある考古学者の話 1 夜の闇を切り裂くように遠くから汽笛の音が聞こえた。南欧某国、オスタニアとの国境沿いの街。山間部に続く森の中をオフロード車が数台走り抜けている。追う方はこの国で幅を利かせるマフィア、逃げる方はこの国で遺跡調査を行っていた考古学者だ。オスタニア大学の考古学助教授であるダミアン・デズモンドは、山間部の遺跡から見つけ出したロザリオを手に国に帰る所だった。このロザリオは恩師であるジーク・シャーロット名誉教授が長年追い求めていた物だった。昨年不慮の事故で亡くなったシャーロット教授の遺言により、この研究をダミアンが引き継いでいたのだ。博士が残した膨大な資料を読み解き、そのロザリオをようやく手に入れる事ができた。だが同じくロザリオを狙っていた兄弟子であるライナー・エバンズ博士が、通じていたマフィアと共に追って来たのだ。エバンズは研究費を稼ぐ為、遺跡で発掘した遺物をマフィアに横流ししていた責でシャーロット教授に破門にされ、大学を追われた人物だった。エバンズは長年手伝っていたロザリオの研究をダミアンに引き継がれ、逆恨みしているのだ。ダミアンは助手として連れて来たアーニャを伴い、悪路を走り抜けていた。
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