「おらもサイヤ人だったらなぁ。そしたら悟空さに置いていかれたりしねぇんだべか」
ふと思いついたということをそのまま呟きにたというチチのそれに、思いのほか悟空は考え込んでしまう。 彼女はこちらに背中を向けてシンクで食器を洗っている。たった今終わった悟空の「夜食」の後片付けである。
ぼろぼろの胴着とその割には傷ひとつない身体で仙豆を使ったことは察せられている。
何か大きなことがあったんだろうなと感じてはいるがもはや強く聞き出すことをチチはしてこない。悟飯がまだ少年だったころは闘いの場に自分も行くと言って必死に宥めたこともあった。
「もうあきらめただよ」
そう言って笑うチチにほっとすると悟空だが、同時に申し訳なさも強く感じている。
しかしながら悟空に対する愛情はそのまま不動のものなので、もし自分がもっと別のものであったらという気持ちを抱いて冒頭の言葉になったのだろう。
チチがサイヤ人だったら。同じ種族として在れた悦びを感じそうになったが、いつかフリーザに吐きかけた『だから、滅んだ』の言葉が脳裏にはしり悟空は総毛立つ。
チチは己に力があれば闘いの場でも隣にいられるのではないかと思っているようだが、悟空はチチを決して弱いとは思っていない。悟空が何よりも避けなければと本能的にあるのは、チチに生命の危機が訪れる可能性についてである。
数名の生き残りはいるが、サイヤ人はほぼ全滅している。
もし、チチがサイヤ人として生を受けていたとしたら、おそらくその中に含まれていただろう。
そう想像しただけで脊髄から嫌悪感にも怒りにも似た感情で超化しそうになった。
「悟空さ、なんもねぇのにウチで不良になるのはやめてけれ」
呆れたチチの声に返事はせず、悟空はチチの腰に腕を回して背後からぎゅっと抱き着いている。
泡のついたスポンジと食器を手にしているためそれを咎めることができないチチは苦笑して溜息をひとつつくと、くっつき虫と化した夫はそのままに再び洗い物に集中するのだった。