黄金色の陽射し自体はまだ強さを感じるが、浴びる風はひんやりとしている。都会にいるブルマなどはつい先日まで夏だったのにとこぼしているのを聞いていたが、農業をやっているチチからしてみれば確かに夏の名残は強かったが、畑の作物は秋のそれが実っているし、なによりパオズ山自体の恵みが秋のそれだ。
市場に卸す野菜達の色濃さにも心躍るが、山の恵みを頂いて調理することも楽しい。味見をしたときの予想以上に感じる旨みに、しみじみと幸せを感じる。
食べる専門にはなるが悟空もまた秋を堪能する人で、「美味い」を味わうために川から鮭を採ってくる。大量に採ってくるのは禁止しているため、一日一匹ずつ持って帰ってこられるそれをシンプルに焼いてみたり、シチューに入れてみたりする。
おかずの一品として毎日秋鮭が並ぶのは贅沢なことだなと思いつつ、チチは自分で採取したキノコを布巾で拭いていた。今日はこのキノコも使って秋鮭のホイル蒸しを作ろうと思う。
鮭を手に帰ってきた悟空の眼が輝く光景がありありと浮かぶ。子供達もおいしいという一品だが、大人だからこそ分かる深い味わいを共有できるのは少しだけチチも嬉しい。
「まぁ、子供達用にたんと唐揚げも作るんだけどな」
今日のメインのおかずとしてはそちらの方が強いだろうが、きっと悟空とチチが先に手を付けるのはホイル焼きの方だ。最初の一口が同じ、ただそれだけだけど、家族としての中に夫婦としての「同じ」がチチには嬉しいのだ。
そしてその夜、箸できれいな紅色の鮭の身をほぐし口の中に運んだ夫婦がお互いに見やって微笑む姿があった。