東京の曇り空は重たかった。
梅雨入り前の湿気った空気がまとわりつき、朝セットしたはずの襟足が僅かに跳ねはじめている。
そろそろ髪の毛を切らないといけない。
鏡を覗き込み伸びた襟足の毛を手のひらで軽く抑えてみたが手を離すとすぐにまた跳ね上がる。
髪の毛が伸びてしまうと大人びたスーツを着た姿と跳ねた襟足の幼い顔立ちのアンバランスさが際立つ。
ガキのような顔。
「あー、これJASSやってた頃の髪型か」
妙に芋臭い自身の姿に苦笑いを浮かべる。
フラッシュバックのように記憶が蘇り視線が無意識に押し入れにいく。
そこにはもう何も入っていないけれど。
少しの間感傷に浸ろうと溜息をついた時、プライベート用のスマホが短く震えた。
「ダイ」
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