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    直弥@

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    直弥@

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    昔のネタ出し
    これもこの話の中の一つだったのを思いだして
    使うかわからんがメモ代わり

    #長編
    long

    長編 参 中原はその部屋に転がり込むように身を滑らせた。
     流石に数の多さは眼を見張るものがあり、一息つかせてもらいたいものだと小さく息を吐く。
     そこは研究室のひとつなのだろう。
     複雑な計算式が流れ続けるモニターに、乱雑に並べれているファイルの数々。走り書きが書き込まれた書類や、ホワイトボードを見ても中原にはとんと解らぬ。解らぬが何ら問題はなく、必要なのはここは部屋であり、誰も居ないという確実な情報だった。
     最も、そんな休憩が許されることはなく中原が閉じたはずの扉が乱暴に開かれる。
    「ノックの一つもできねえのか?躾がなってねえな」
     そんな軽口が聞こえたのかどうなのかは不明であるが、続いて響いたのはノック代わりの銃弾だ。
     乱雑に乱射されるそれらがコンピューターをモニターを棚にしまわれているファイルを破壊していくのを、他人事の様に見ていた中原は自分へと向かって居たそれらをそのままお返しする。狭い入り口を陣取って居た数名がそれで倒れるも、その背後にも勿論、人はいるわけで。
     残りは何人か、と確認しようとした瞬間、突然の土砂降りに中原の視界は烟った。
     最も、室内で雨が降るはずもなく跳弾した弾があったのであろうスプリンクラーが発動したのだ。室内でずぶ濡れ、というのも避けたい中原は咄嗟に天井へと張り付く。それでも突然のことに完全に濡れるのを避けられたわけではない。まして、激しい水しぶきは天井に貼りつているはずの中原にも少なくはあるが確実にあたって居た。
     スプリンクラーの発動に仕切り直しでもするつもりなのだろうか、銃弾は止んでいる。それでも外に出れば手ぐすね引いて待っているのだろう。
     さてどうしたものか。
     中原がそんなことを考えた時に、その異変は訪れた。
     濡れた肌の感覚がおかしい。
    「あ?」
    不思議に思って手を動かそうとして感覚が抜けて動きが鈍っていることに気付いて中原は目を見開いた。
    「麻痺性の毒かよ!」
     悪態の一つも吐いても許されるだろう。中原と毒はそれはもう、相性が悪すぎる。
     徐々に抜けていく体の感覚をどうすることもできずに、重力操作のみで体を支えていた。それすらできなくなれば、中原は部屋の床にへばり着くことになる。そんな無様を今は晒すわけにはいかなかった。
     どうにか活路を見出すべく、思考を忙しなく働かせ、そんな自分を落ち着かせるように未だ動く腕で帽子に触れようとしてそこにないことを思い出す。何処かで落としてきたわけではない。
     ここに来る前に中原が最も愛した女の元へ置いてきたのだ。
     赤い、華のような美しい女だ。
     秋に咲く炎をのような華を思わせる一途な思いを今なお抱えている女。
     その艶やかな姿を思いだし、しかし、直ぐに喉の奥で笑みを零した。
     耳に残っているのは「決して許さぬ」と宛然と笑う声。その殺気に彩れた微笑。
     あれは手折られれば枯れる美しいだけの華ではない。
     むしろ、名の通り情が恐いが故に山を血で赤く染め抜く様になった鬼だ。そして、中原が知る限りでこの世に存在する中で極上の女。
     そんな女を怒らせて許さないと言われたのはちょっとした男冥利に尽きるというもの。それを思えばこんなところで愚図っているわけにはいくまい。
     未だ麻痺は全身には及んでおらず、中原には重力という武器もある。いつしか閉じていた瞼を開き、水飛沫で烟る視界を睨めつけた。
     そんな瞬間。
     唐突にスプリンクラーの動きが止まり視界が晴れる。驚いたのは中原だけではなかったようで、部屋の中を伺い覗き込む姿が入り口に見えた。
     中原の口端が好戦的に持ち上がる。状況が把握できたのはこちらが先。それは、先制を制する最高の条件だ。
     晴れた視界の中、一つの机に狙いを定めて中原は降りる。麻痺性の毒のせいで着地は多少無様になったがそれはもうこの際どうでもいい。
     着地と同時に机に置かれて居たペン立てを鷲掴むと、こちらに銃口を向ける前に大小様々なペンを投げつけた。
    「銃撃戦てのは当たんなきゃ意味ねえんだよ」
     吐き出すように告げれば、相手も仕切り直しを選んだのか一旦引いた様子。
     それを見届けて流石に気が抜けて脱力と共に大きな息を吐くのと同時に、着地したままだった机の上に身を横たえる。この机にも毒がまかれているのだから早々に立ち去るが吉なのだろうが、その前に確認すべきことがあるのだ。
     そうしていくつか呼吸をしていれば銃撃戦をのがれた電話機が音を立てる。中原はそれをなんのためらいもなく取り、開口一番に悪態を吐いた。
    「遅えんだよ!糞太宰!」
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