帰り道咲子と磯貝は、咲子の家の最寄りのスーパーで一緒に買い物をしていた。
今日は醤油などの調味料の類いも安かったので、なかなかの大荷物だ。それをエコバッグ2つにお互い手分けして手際よくそれぞれ詰めていく。
カゴからバッグへと商品を詰め終わった時、磯貝が咲子に手を差し伸べた。
「ん」
「…?」
咲子は差し出された手と磯貝の顔を交互に見つめた後、首を傾げながら自分の手を置いた。
途端に磯貝が大きく噴き出す。
「いや…そっちのバッグも持とうと思ったんだけど…」
そう言いながらあらぬ方向を向いて肩を震わせて笑う磯貝に、
「あ!そういうことでしたか、すみません…!」
咲子は顔を赤くしながら慌ててエコバッグを彼へ手渡した。
磯貝な受け取ったエコバッグをそれぞれ片手ずつに軽々と持つ。
「じゃあ、私カゴ返してきますね」
――そもそも磯貝は外でくっついたりなどするのが好きではないのだ、何を勘違いしてしまったのか…
と咲子は恥ずかしい気持ちいっぱいになりながら、空になった買い物カゴを所定の位置にトボトボと返しに行った。
「……」
そんな彼女の寂しそうな後ろ姿に磯貝は眉を顰めた。
そして少し思案したような表情を浮かべ、サッカー台に荷物を置き直す。
咲子がカゴを戻して後ろを振り返ると磯貝がサッカー台に置き直したバッグの中のものを一部入れ替えしているのが目に入った。
たくさん入れたから中のものが寄れてしまったのだろうか、と咲子は首を傾げて磯貝に声をかける。
「磯貝さん、何かありました?」
「いや、ちょっと…うん、こんなものかな…」
磯貝は1人納得したように頷いて、バッグのチャックを締める。
「――よし、お待たせ。行こうか?」
「はい!」
磯貝と咲子はスーパーの出口に向かった。
春になったとはいえ、19時になれば日も落ちてまだまだ肌寒い。
「日中は暖かいのに、朝晩はまだまだ冷えますね」
「そうだね。――池田さん、こっち持ってくれる?」
磯貝がエコバッグを一つ咲子に差し出した。
咲子がそれを受け取る。エコバッグの中身は思った以上に軽くて、咲子は少し驚いてしまった。
そんな咲子に磯貝は再度手を差し出す。
「じゃあ……はい」
「……?」
今度は何も持っていない。
咲子は先ほどと同じように、差し出された手と磯貝の顔を見比べて首を傾げる。
そんな彼女に磯貝は目を斜め下に逸らして呟いた。
「手…良かったら」
「……はい!」
咲子が磯貝の手に自分のそれを乗せると、磯貝は少し安心したような表情を一瞬だけ浮かべた。
そしてそのまま指を絡め、少し早歩きで前に進み始めた。
咲子も少し早歩きの歩調で、その斜め後ろを付いていく。
磯貝の顔は見えないが耳が少し赤くなっていた。
握り締められている手はポカポカと温かい。
咲子は柔らかく微笑んで、何も言わずに握り締められた手の力を少しだけ込めたのだった。