ゼロ!の声と共にスマホやデジカメが光源だった通りにイルミネーションが点灯し歓声が上がる。カップルだったりグループだったり家族だったり写真を撮るのが好きだったり、色々な人たちが楽しんでいるのだろう。始まったばかりとはいえ冬の夜の公園は平時は暗く静かなものだがしばらくはキッチンカーやイベントで盛り上がることだろう。今年も色々あったけれど最後は楽しい思い出で締めくくりたい。
「オマエもそう思うよなあ?」
同じタイミングでコアを握り潰され散っていく悪霊に問うが返事もなく消えた。元々期待などしていない。悪霊がマトモな思考回路を維持しているとは思えないし、そもそも他人の年末に興味はないからだ。
「終わった?」
暗闇から姿を見せた暁人は札を持っているお陰で仄かに輝いて見える。
目を細めてKKは応じるように手を上げた。煙草を吸いたいが園内は火気厳禁だ。見透かしたように暁人は笑みを浮かべ、眉を下げる。
「こっちも片付いたけどやっぱり西口にもいるって」
「だろうな」
クリスマス、忘年会、年末。これから始まる師走は良いこともあれば悪いこともあり、悪いことがあればマレビトは生まれる。
「明るい場所には幸福が溢れ暗い場所では怨念が蔓延るってな」
しかしKKの口調はそう悲観的ではない。夏まででもエドとデイルの愉快な二人が調査についてきたが今隣で弓の調子を確かめる青年と比べるまでもない。
「オレにとっては悪い年末でもねえな」
「クリスマスにパーティーするからね」
そうじゃねえよとは言わない。暁人はわかっているのかいないのか赤くなった指先に息を吐きかける。
「大掃除をして除夜の鐘を聞いて初詣に行くと浄化されるんだろ?」
それまでの辛抱だよと弓を仕舞う。すっかり歴戦の弓使いだ。少なくともKKよりはよっぽど向いている。
しかし弓道とは違い不規則に動き、あるいは真っ直ぐこちらを目指してくる標的を確実に仕留めるには精密なエイムが必要で、普通の手袋はできないと言う。
確かに弓道用の手袋があったはずだ。クリスマスプレゼントと思い浮かぶがそれは普通に備品として買い与えるべきではないのかと思い直す。
相棒との初めてのクリスマス、恋人との久しぶりのクリスマス。
「KK、行こうよ」
「ああ」
我ながら受かれているなと自嘲して巨大な眩しい樅ノ木に背を向ける。
今はまだKKには早いけれども、もう少し経てば暁人と二人でマーケットとやらに出掛けるのもいいだろう。それで欲のあまりない青年の欲しいものを探し出してクリスマスに手渡す。
浄化されるのは己の方だ。
「霊視しろ、暁人」
「うん……ビルの影に三体、上に二体かな」
「地上は範囲外にもいるだろうからオレが派手にやって誘き寄せる」
「わかった。上を制圧して援護する」
「今日中に終らせるぞ」
スマホで時計を見た暁人が頷いてワイヤーを天に伸ばす。
戦闘はあっさり終わった。まったく頼もしい相棒だ。
「キッチンカー撤収しちゃったね」
「今日はコンビニで我慢してくれ」
KKが外で一服している間に暁人が食料を調達するいつものコースだ。
ピザマンが食べたいなと呟く暁人に好きにしろと決してぞんざいではなく労るように頭を撫でて、するとKKの指先も冷たいからコーヒー買うねなどと可愛らしいことを言い出す。
「そこは手を繋ごうとかじゃないのか?」
「僕の手も冷たいし」
尖らせた唇も冷えているのだろう。
誰もいないアジトに帰るまでの時間を計算して、KKはこれからの締めの一月に想いを馳せた。