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    住めば都

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    住めば都

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    あくねこ、ベリアン夢
    本編2章の直後くらい。悪魔執事が不老だと知った主様の反応が怖くてたまらないベリアンの話

    #あくねこ夢
    cats-eyeDream
    #aknk夢
    #aknkプラス
    aknkPlus
    #ベリアン
    berean.

    楽園にはほど遠い わざと隠していたつもりでは、なかった。
     だから、主人と墓参りに出かけていたハウレスから報告を聞いたとき、ショックを受けている自分に気づいて、ベリアンは驚いたのだ。
    「ベリアンさん。先ほど主様に、俺たち悪魔執事が不老であることをお伝えしました。トリシアの墓石がかなり古いことを疑問に思われたのでしょう。いつごろ作られたものなのかと聞かれて、その流れで……」
    「そう、ですか……わかりました」
     主様は、なんと?
     そう聞きたくて、けれどベリアンはハウレスに問うことができなかった。若い執事たちのまとめ役を務めるこの青年は、腹芸の類があまり得意ではない。その彼の様子からして、不老の事実を知った主人が悪魔執事を恐れるような事態には、なっていないだろうと思うけれど。
     天使との戦いは、この先何年続くかもわからない。不老の事実は、一年や二年ならともかく長い年月をともに過ごせば、いずれ知られていたはずだ。だからベリアンとて、折を見て話すつもりでいた。
     一度に全てを伝えずにいるのは、異なる世界からやってきた主人が、驚きでパンクしてしまわないようにという配慮からだ。もちろん、やっと見つけた大切な主人を失いたくないという打算がなかったわけではない。仲間の命を守るために、主人の存在は絶対に必要だ。
     けれど、それが主人に隠し事をする不誠実への言い訳にならないこともまた、ベリアンは理解していた。話しに行かなければならない。どこまでも沈んでいきそうな心のまま、ベリアンは重い腰を上げた。
     悪魔執事の秘密の一つを、ハウレスが伝えた。それで終わりにすることもできる。実際、主人にしてみれば、誰から聞くかなど瑣末な問題に過ぎないだろう。でもベリアンにとっては、そうではない。主人に知らせないことを選んだのはベリアンだ。だからこのまま、不誠実なまま終わらせたくはなかった。


     二階にある主人の部屋を訪ねたベリアンは、いつもと変わらぬ穏やかな声で入室を促された。
    「失礼します」
     主人が変わらぬ態度で接してくれるなら、執事たる自分もそれに倣わなければならない。思いとは裏腹に、ベリアンの表情も声も、とてもいつもどおりとはいえないぎこちなさだ。当然、主人はベリアンの異変を察して、困ったように眉尻を下げる。
    「どうしたの、ベリアン? なにか困ったことでもあった?」
     驚くほどに、主人はいつもどおりだった。悪魔執事が普通の人間とは異なると知ってなお、変わらずに優しさと親しみを向けてくれる。
     私は……本当に浅ましく、愚かだ。自嘲して、ベリアンは懺悔するように言った。
    「主様、申し訳ありませんでした……」
     隠していたつもりはなかった。けれど明確な意図をもって伝える真実を選別しているうち――伝えることが、徐々に怖くなっていった。
     主人となった彼女の傍が、あまりにも心地よかったから。道具ではなく人として扱われることも、自分の仕事へ感謝を向けられることも。嬉しかった。幸せだった。絶望を糧に、途方もない時間を天使を狩るため生き続けてきたベリアンに、生きる喜びをもたらしてくれた。そんな主人のことが大切で、愛おしかった。
     だからこそ。悪魔執事が徒人ではないことを知った主人から、恐怖や侮蔑の目を向けるのではないかと考えて、ベリアンは怖くて堪らなくなったのだ。
     必ず守るから信じてほしい、と。主人へ繰り返し言って聞かせていたベリアン自身が、主人を信じきれずにいた。こんな滑稽な喜劇は他にないだろう。
     ベリアンの告解に、主人は真剣に耳を傾けてくれた。
    「いいよ。謝らなくていい」
     やがて主人が返したのは赦しの言葉だった。どんな言葉も甘んじて受けるつもりでいたベリアンは、信じられない気持ちで主人を見つめる。彼女は目を伏せて、言葉を探しているようだった。
    「……実を言うとね。不老のことは、薄々気づいてはいたんだよね」
    「そう、なのですか?」
    「うん。ベリアンとルカス、あとミヤジも。ときどき言うことがおじいちゃんみたいなんだもの。あとは、テディさんが言ってた伝説の憲兵の話とか……ふふ、ハウレスって嘘がつけないよねえ」
     そう言って、可笑しそうにくつくつと声を立てた主人は、不意に目を細めた。笑顔のつもりでそうしたのか、あるいは悲しみを隠そうとしたのか、ベリアンにはわからなかった。
    「ベリアンの気持ち……わかる、とまで言っちゃうと言い過ぎになるけど、想像することはできるよ。たぶん、怖かったんでしょう? 普通の人間じゃないって知ったら、私が皆を拒絶するんじゃないか、って。だから……謝らなきゃいけないのは、私のほう」
     そう言うと、主人は椅子から立ち上がった。扉の前に立ち尽くしていたベリアンの傍へやってきて、小さな両手で包むように、彼の頬へと触れた。
    「信じさせてあげられなくて、ごめんね」
     囁くように告げられた声は、涙で震えていた。瞬きと同時に瞳から雫が落ち、蝋燭の明かりを弾いてきらめいた。
     あまりのことに、ベリアンは押し黙ることしかできなかった。嗚呼という嘆息さえ出なかった。
     世界でいっとう大切な人に、たった一人自分たちの味方でいてくれるこの人に、なんて酷いことを言わせてしまったのか。そう思うだけで、胸が張り裂けそうだ。
    「私……私、頑張るよ。もっと皆に、信じてもらえるように。デビルズパレスの主として、相応しい人になれるように。だから……だからさ」
     まだもう少し……ここにいても、いいかなあ。
     主人はぽろぽろと涙を零しながら希う。ベリアンは胸がいっぱいで、返す言葉を上手く紡げなかった。代わりに、頬に添えられたままの手に己の手を重ね、縋るように握りしめる。
     もう少しなどと、悲しいことを言わないでほしい。デビルズパレスの主人は彼女だ。ベリアンが主人でいてほしいと願うのは彼女だけ。この方以上に仕えたいと思える人間など、存在しないに違いないとさえ思っているのに。
     声に出せなかったのは、理解していたからかもしれない。末永く、主様のお傍に、と。願うことを許されてしまったら、ベリアンはきっと、大切な人から故郷を奪ってこの世界に縛りつけてしまう。
     自分は、なによりも大切なこの人に、酷いことしかできないと、ベリアンは思う。関係なかったはずの世界の運命に巻き込み、死と隣合わせの戦場に立たせ、貴族たちの横暴や人々の悪意に晒している。まさに、悪魔のごとき所業だ。
     主人は執事たちのことを優しいと言ってくれるけれど、本当に優しいのは彼女のほうなのだ。主人が受け入れ、許してくれたものの大きさに比べてしまうと、ベリアンたちが執事として仕え、尽くすことで返せるものなど、微々たるものでしかない。
     それでも、ベリアンはもう、主人のいない生活を考えられなかった。今となっては、彼女と出会う以前のデビルズパレスを、思い起こすことさえ難しい。
     声にできない願いを注ぎ込むように、ベリアンはそのまましばらく主人の手を握りしめていた。
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    住めば都

    DONEあくねこ、ルカス夢。
    いつもドキドキさせられて悔しい主様が、意趣返しのつもりで「ルカスは冗談ばっかり」と返したら、実は全部本気の本心だったと暴露される話。

    交渉係を務めて長い男が、自分の思いに振り回されて本音を隠せず、苦し紛れに冗談だよって見え見えの誤魔化し方しかできないのめちゃくちゃ萌えるなと思うなどしました
    いっそ全部、冗談にしてしまえたら 目の覚めるような美人ではない。愛嬌があるわけでも、聴衆を沸かせる話術を持つわけでもない。
     至って普通。どこにでもいそうな、地味で目立たないタイプ。――それが私だ。
     おおよそ三十年かけて築き上げた自己認識は、異世界で出会ったイケメン執事たちに「主様」と呼ばれ大切にされたところで、簡単に揺らぐようなものではない。
    「フフ、主様といられる時間は、本当に幸せです♪ この時間が、永遠に続けばいいのになあ……」
    「はいはい。全く……ルカスったら、冗談ばっかり言うんだから」
     上機嫌に微笑む担当執事を、私は半眼で睨みつけた。
     ルカスとアモンは、口説くようなセリフをよく言ってくる。恋愛経験の少ない私はそのたび顔を赤くしてドギマギしてしまうのだが、彼らの思惑どおりに翻弄されるのを、最近は悔しいと感じるようになっていた。
    1884

    住めば都

    DOODLEあくねこ。ナックとハンバーグの話。友情出演、ロノとテディ。
    執事たちの話題に上がるだけですが、美味しいもの大好き自称食いしん坊の女性主様がいます。
    後日、お礼を伝えられた主様は「私が食べたかっただけだから」と苦笑したそうです。

    お肉が苦手なナックに豆腐ハンバーグとか大根ステーキとか食べさせてあげたい気持ちで書きました。
    美味しいは正義 今日に夕食のメニューは、ハンバーグだ。
     食堂に向かう道すがらで会ったテディが、鼻歌混じりで嬉しそうに言うのを聞いて、ナックは落胆の気持ちを曖昧な笑顔で濁した。
     ナックは肉全般が苦手だ。メインが肉料理の日は食べられるものが少なく、空腹のまま夜を過ごすことも多い。
     だが、ハンバーグを心から楽しみにしているらしい同僚に、それを伝えることは憚られた。食事は日々の楽しみだ。テディには心置きなく、好物を味わってほしい。
     食事の時間は一応決まっているが、執事たちは全員揃って食事を取るわけではない。一階や地下の執事たちはそろって食べることが多いようだが。
     決められた時間内に厨房へ顔を出し、調理担当に、食事に来たことを告げる。そうして、温かい料理を配膳してもらうのだ。
    2130

    住めば都

    MEMO2023クリスマスの思い出を見た感想。
    とりあえずロノ、フェネス、アモン、ミヤジ、ユーハン、ハナマルの話をしている
    執事たちが抱く主様への思いについて現時点で、あるじさまへの感情が一番純粋なのはロノかなという気がした。
    クリスマスツリーの天辺の星に主様をたとえて、でもそこにいるのは自分だけじゃなくて、屋敷のみんなも一緒でさ。
    主様と執事のみんながいるデビルズパレスを愛してるんだなあということがとてもよく伝わってきて、メインストのあれこれを考えると心が痛い。ロノの感情と愛情が純粋でつらい(つらい)

    なぜロノの贈り物にこんなに純粋さを感じているかというと。
    手元に残るものを贈っている面々は、そもそも根底に「自分の贈ったものを大切に持っていてほしい」という思いがあるはずで、贈った時点である意味主様からの見返りを求めているのと同じだと思うんですよね。
    ただ、消え物にするか否かは思いの重さだけでなくて、執事たちの自分への自信のなさとか、相手に求めることへの拒否感とか、なにに重きを置くかの価値観とか、いろいろあると思うので、消え物を選んだ執事がみんなロノほど純粋な気持ちではいないんだろうなと思っている。
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    住めば都

    DONE #aknk版深夜の創作一本勝負 よりお題をお借りしています。
    「おかえり」ユーハン夢。
    予定の時間を過ぎても帰ってこない主様を待ち続けるユーハンの話。

    翌朝、ほかの執事からもユーハンがずっと待ってたと話を聞いて、主様は某ワンちゃんを思い浮かべたとかいないとか。
    待てと言うならいつまでも 主人の帰宅時刻五分前になったのを確認し、ユーハンは出迎えのため本邸の玄関へ向かった。
     今朝、主人は「帰宅はいつもどおりだと思う」と告げ出掛けていった。彼女が「いつもどおり」というときは、十分から二十分くらいの誤差はあるものの、だいたいこのくらいの時間に帰ってくる。
     ユーハンは姿勢よく立ったまま、主人の帰宅を待った。だが、十分経っても、二十分経っても、彼女が戻ってくる気配はない。尤も、不思議な指環の力で二つの世界を行き来する彼女の帰還は、予兆も気配もなく、突然であるのが常なのだけれど。
     そのうち帰ってくるだろうと思っていたユーハンだったが、予定の時間から一時間が経って、さすがに不安を感じた。
     事件や事故に巻き込まれたのではないか。突然の病気や怪我で、身動きが取れなくなっているのかもしれない。彼女を狙う不届きな輩に襲われて、恐ろしい目に遭っていたとしたら。
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    住めば都

    DONEあくねこ、ハウレス夢
    本編2章の直後くらいに、セラフィムの騙った主様の処刑を夢に見るハウレスの話。

    始めたばっかりですが、生きてるだけで褒めてくれるあくねこくんにズブズブです。
    本編は3章1部まで、イベストは全て読了、未所持カードばっかりだし執事たちのレベルもまだまだなので解釈が甘いところも多いかと思いますが、薄目でご覧いただければと思います( ˇωˇ )
    悪夢のしりぞけ方 ハウレスはエスポワールの街中に佇んで、呆然と雑踏を眺めていた。
     多くの商店が軒を列ねる大通りは、日頃から多くの人で賑わっている。幅広の通りはいつものように人でごった返していたが、いつもと違い、皆が同じほうを目指して歩いているのが奇妙だった。
     なにかあるのだろうか。興味を引かれたハウレスは、足を踏み出して雑踏の中へ入った。途端に、周囲の興奮したような囁き声に取り囲まれる。
    「火あぶりだってさ」
    「当然の方法だよ。なにしろ奴は人類の敵なんだから」
    「天使と通じてたなんて、とんでもない悪女だな」
    「許せないよ。死んで当然だ」
     虫の羽音のような、不快なさざめきが寄せては返す。悪意と恐怖、それから独善的な正義。それらを煮つめて凝らせたような感情が、人々の声や表情に塗りたくられていた。
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    住めば都

    DONE #aknk版深夜の創作一本勝負 よりお題をお借りしました
    「逃げてもいいんだよ」バスティン夢
    ※秋のホーム会話のネタバレを一部含みます
    向こうでいろいろあった主様が、バスティンと馬に乗っているうちに元気を取り戻す話

    主様といるときか、動物を相手しているときだけ、柔らかい空気を纏うバスティンに夢を見ています。彼は穏やかな表情の奥に激重感情を隠してるのがずるいですよね……
    安息の地を探して 天高く、馬肥ゆる秋。
     近頃の馬たちは元気いっぱいで、よく食べ、よく走り、よく眠る。前後の話の流れは忘れたが、先日バスティンは主人にそんな話をした。
     彼女がいたく興味を引かれた様子だったので、ならばとバスティンは提案したのだ。次の休日に、馬たちの様子を見に来るか、と。
     それを聞いて、元より動物好きの主人は目を輝かせた。馬たちのストレスにならないのなら、触ったり乗ったりしてみたい。そう話す彼女はすでに楽しそうで、無表情が常のバスティンまで、つられて笑みを浮かべてしまうくらいだった。
     だというのに――これは一体、どうしたことだろう。
    「……主様」
    「あ……うん。ごめん、ちょっとボーっとしてた。せっかく時間を取ってくれてるのに、ごめんね。今度はちゃんと聞いてるから、もう一回説明してもらえる?」
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