泣くときくらいは大声で泣き喚けばいいのだ。そうすればあの時だって間に合ったのに。
小さな子供という生き物はゾッとするほど気配がない。ましてやこの到底まともでない子供はさらに増して生きている気配が薄かった。それなりに経験を積んだ傭兵である自分ですらこうなのだ、訪ねてきた人間が何度幽霊と間違えたかわからないというのに、本人はといえば別段気にすることもなくニコニコと本日出会った物事を口いっぱいに夕食を頬張りながら話している。喋るのか食べるのかどちらかにしろなどという行儀の良いことを言う人間はこの家にはいなかったので、エンカクはせっせとその小さな口元を拭いてやりながら自分の食事を同時に済ませた。そしてひと通りやることを終わらせて、おやすみなさいと小さな手を振って隣にある自分の寝室へと消えたのがほんの数時間前のこと。その次に見たのは、エンカクのベッドの足元で静かに泣く彼の姿だった。
「ごめんなさい、起こしてしまった」
謝るのはそこではないし、謝ってほしいわけでもない。ほとりほとりとその眦から落ちる雫のひとつひとつすらエンカクには見分けられるというのに、いつまでたってもその頭の中身には手が届かない。だから今のエンカクに届く分だけ、毛布をめくってその小さな体を引き寄せる。
「風邪をひくから、今度からは勝手に入って来い」
「…………あい」
ぐすんと小さな鼻声のまま、それでもその声が耳に届くだけ遥かにマシだった。ぐりぐりと顔面をすりつけられているシャツはまあ明日洗えばいい。すっかりと冷え切ってしまっている身体に、またすぐに熱を出すかもしれんなと常備薬の残りを思い出しながら、エンカクは自分の熱を分け与えるようにぎゅっと抱きしめてやったのだった。