「十時には帰します」
パタン。そんな音をたてて閉まった扉の前で私は棒立ちになっていた。意識が浮上して一人ではないことを思い出し、彼に声を掛ける。正しくは同意を求めようとしたのだけれど。
「なんだか…」
先に切り出したのはまだ扉を見つめている彼のほうだった。
「娘を彼氏に預ける気分ていうのかな…鋼は男なのに、変だけど」
「…気持ちはわかるわ」
自分と考えていたことが予々同じで、私は同意した。
見送った同級生達は友人であるけれど、鋼くんが荒船くんを慕っていて、二人が師弟関係だということもおかしな見え方の要因なのだと思う。荒船くんも慕われように応える振る舞いをするので、それが一層紛らわしさに拍車をかけている。
「私達も夕飯にしましょう」
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