リア充は外!!「おはよう灰原くん。今日から2月です」
二月最初の登校日。教室へ入る手前でクラスメイトが仁王立ちで待ち構えていた。
「通してくれない?」
「そう早まるなって。これを装備して、どうぞ」
「…?これ…」
手渡されたのは鬼の面と豆。間違いない。日付は多少前後しているものの節分で使うセットだった。
「教室の扉を潜る者は一切の希望を捨てよ!」
「そんな覚悟がいるの!?」
節分に!?と驚く灰原にクラスメイトは少し扉を開き中をチラ見せする。
「現にクラス1の体力持ちの佐藤があのザマです」
そこには五体投地した佐藤の姿があった。
「佐藤くーん!?」
あわてて駆け寄ると早速豆を投げられる。いつのまにか渡された面は頭に装着されていた。
「残念だったな」
「鬼は殲滅しなくちゃなぁ」
いつものメンバーがニヤニヤしながら近づいてくる。その手にある豆の数は灰原が貰った物の比ではなかった。
「みんなは福面?なんで?」
「面の配役は恋人がいる奴が鬼面、いない奴は福面。ちなみに参加したくない奴は面も豆も持ってないから巻き込むなよ」
「その優しさを僕にも向けてよ!痛!地味に痛い!」
早朝からの豆まきは朝礼で大目玉を喰らうまで続いた。
***
「ってことがあってね…」
昼休み。焦燥した灰原は売店で買った恵方巻きにかぶりつきながら愚痴をこぼした。
「大変だったんだな…」
「他人事じゃないぞー七海」
なんならお前も鬼側だったんだからなという野次に戦々恐々とする七海はちょっと可愛い。はみ出た干瓢をこぼさないように大口で噛みちぎった。
「七海はさ、今日の灰原見て何か思うことないのか?」
にやにやと灰原の口元を指差すが七海は動じない。
「下ネタはダメじゃなかったんですか?」
「それはそれ、これはこれで、で、どうなの?」
「どうと言われても…」
七海と目が合う。不安そうな表情に何か喋らなきゃとあわてて恵方巻きに齧りつくと周りから小さい悲鳴が多発した。
「…すまん、俺が悪かった。これはダメだ、痛そう」
「わかればいいんです」
嚥下した後になんのこと?と尋ねるが皆足を揃えてその場で無言で佇んでいた。