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    namidabara

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    6/5 進捗
    19日目/昨日の結ばれセッ後のピロートーク(?) 目いっぱい祝福されろ……
    追加パート抜いたら書き終わりました!!!あと追加パートどうするか考えて、推敲して、レイアウト考えて……え?長くないか?となっております。

    #尾月
    tailMoon

    尾月原稿朝を告げる鳥の声で目が覚めた。尾形は微睡みの中、熱い体温に包まれていることを知覚する。まだぼやける視界を彷徨わせて、自分の顔をじっと眺める月島に気がついた。
    「……おはようございます」
    「おはよう」
     ふ、と少しだけ口の端を緩ませて挨拶を返してくる月島の声は、僅かに枯れている。昨日啼かせすぎてしまったな、と思いながらも、尾形はするりとシーツの海を泳いで近づいた。猫のようなその仕草に、月島は少し笑う。
    月島の胸板に身を寄せながら、尾形はふとした様子で「そう言えば」と声を上げた。言葉を投げかける為に見上げてくるものだから、素肌を掠める髭と髪が擽ったい。だがそれを振り払うことは決してせず、前髪をそっとかき上げてやりながら耳を傾けた。
    「あの時、なんて言われてたんですか」
    「あの時っていつだ」
    「昨日ですよ。俺が勝負を仕掛ける前、鶴見に何か耳元で言われとったでしょう」
    月島は脳内の記憶を遡って、ああ、と思い至る。無数の祝福をこれでもかと受けていた時、にっこりと美しい笑みのまま——月島はそれが、鶴見が何か良からぬことを企んでいる時の笑みだと知っていた——耳元に唇を寄せて囁いてきたことだろう。
    「別に何でもない。お前がこっち見てるぞ、って言われただけだ」
    「……本当にそれだけです?」
    じっと、白いシーツの海の中で、二対の射干玉が月島を貫く。その言葉と視線に、拗ねたような響きが含まれていることに気が付いた。まあ確かに、お互い番が居る身にしては距離が近すぎたかもしれない。でも鶴見は家族で、父親だ。今の月島にとってはそれ以上でもそれ以下でもない、そんなことは尾形が一番分かっているだろうに。
    ふは、と笑いながらサラサラの髪を撫でる。人間になった途端嫉妬深くなるな、この男は。
    「——『お前が大好きな男が、さっきからずうっとこちらを見ているぞ。心底愛されとるなあ、見ているこっちが恥ずかしい』」
    「……?」
    「鶴見さんに言われた言葉だよ。言われた通り見てみたら、お前が物凄い形相でこっち見てるもんだから。ああ、嫉妬してるのか、可愛いなあって思って、手を振ったんだ」
    目を丸くして自分を見上げてくる男の耳が、じわりじわりと朱に色づいていくのが分かった。あ、だとか、う、だとか形にならない言葉を零した後、結局尾形は月島の胸に頭をくっつけて黙り込んだ。押し付けられた額が熱くて仕方がなくて、またその愛おしさに微かな笑みが零れだす。
     ブロロ、と朝の静けさを切り裂くエンジン音が聞こえた。重い遮光カーテンの隙間から、まだ寒々しくも凛とした冬の朝日が差し込んでくる。じわじわと明るく色づいていく世界の中で、月島はそうっと尾形に語り掛けた。
    「——裏切らないものを、ずっと探して生きてきたんだ」
     それはきっと、尾形も同じだった。裏切られて傷つけられてきたからこそ、裏切らない完璧なものを探して歩き続けてきた。そんな物はこの世に無いと分かり切っているのに、それを持っているような人たちを見ているとどうしても羨ましくて仕方なかった。やっぱり世界には裏切らないものは存在していて、自分は何か不具合でそれを与えられていないだけなんじゃないか。狡い、羨ましい、欲しい、妬ましい。そんな鬱屈とした気持ちを抱えて身体を引き摺って生きていた。
     でも結局、この世界に裏切らないものなんて存在しなくて。それならいっそのこと、全部要らないと思ったのだ。裏切られて傷つくくらいなら、信じないで傷つかずにいた方がずっとずっとマシだと思っていた。
    「でも、お前とこうして番になって。裏切らないものは、見つからなかったが。……ただ、裏切りたくないものが、見つかった」
     この身の一部は獣のままかもしれない。普通には生きられなかった。いつだって降りかかってくる運命はクソみたいなものばかりで、この身体で良かったことなどありはしなかった。それでも。
     それでも、この男だけは裏切りたくないと願った。この男が自分に与えてくる愛とか、信頼とか、祝福だとか。恐る恐る与えてくれるそれらに恥じない自分で居たい、と思った。
    「……それが俺だと、己惚れても?」
    「己惚れろ。俺が傷つけても傷つけられても傍に居たいと思うのは、お前だけだ」
     尾形の指先が、丁寧に月島の項に触れた。赤く引き攣れた傷跡には、自分の歯形がくっきりと刻まれている。これから先、この人に傷つけられるのも、この人を傷つけるのも自分だけであればいいと祈った。

    「……勇作さんが、貴方に会いたい、と」
    水曜日のことを思いだす。初めての尾形からの誘いに嬉しそうに応じた勇作は、尾形のしどろもどろな報告にもっと嬉しそうに顔を輝かせた。そしてキラキラと瞳を潤ませて、震える声で言ったのだ。
    『おめでとうございます、兄様。もし、もしも叶うならば、私もその方にご挨拶をさせてください』
     人生で初めて、まともにこの男の瞳を見た気がした。綺麗だ、と思った。人間の目で見る勇作は、祝福の子であるということなんて関係なく、ただただ美しかった。
    「……ああ、是非。是非、会わせてくれ」
    スーツを新調しないとな、なんて真剣な顔で言うものだから、尾形は少し頬を緩ませた。
    「実はな、フィーナさんもお前に会わせろと煩いらしいんだ。今度鶴見さんのお宅にお邪魔しような」
    「げ、ラスボスの城じゃないですか」
    「あと、江渡貝も会わせろって騒いでる」
    「ああ、例の剥製屋の。……ちょっと待ってくださいよ、アンタの方のご挨拶ハードル高すぎません? 絶対歓迎されてませんよね、それ」
    お義父さんと呼ばれるにはまだ早いと言った鶴見、月島と話していると高確率で登場する上に恐らく二人の関係を厳しい目で見ている江渡貝。祝福する気満々の勇作と比べると、自分に降りかかる試練は少々ハードルが高すぎるのではないか。げえ、と顔を顰める尾形を見てくつくつと笑う。思い出すのは、この日に至るまでに月島に与えられた言葉たちだった。
    『良かった、良かったわハジメ……。絶対に挨拶させてね、私たちの愛するハジメを選んでくれてありがとうって言わなくちゃ』
    『……おめでとう、俺の愛しい子。何かあったら言うんだぞお、お父さんがメッてしてやるからな』
    『で、式はいつやるんです? ……はああ?! まさかやらないつもりですか、冗談でしょう! 僕もうタキシードのデザイン画のラフ仕上げてるんですよ、絶対にやりますからね!』
    『僕、ウエディングケーキ作る練習しようかなあ』
    がちがちに緊張しながら尾形とのことを報告した月島に投げかけられたすべての言葉に、溢れんばかりの祝福が込められていた。暖かくて優しくて、思わず泣いてしまったほどに。フィーナと鶴見に、江渡貝と前山に抱きしめられながら、馬鹿だなあ俺たちは、と思った。ずっと溢れる程与えられていたというのに、見ないフリして捨ててきたのは自分たちの方だったのだ。
    「俺も援護してやる、気張れよ」
    「……いざとなったら駆け落ちですよ」
    「そこは嘘でも勝つって言え、馬鹿」
    「俺は勝てん勝負はしない主義です」
     俺の為なら、勝てない勝負でも挑むくせに。月島はそう思いながら、その丸い頭にそっとキスを落とした。

     そこでふと、またキッチンの方から水音が聞こえることに気が付いた。相変わらずこの家には水音が絶えない。尾形の締め方が悪いんじゃないかと疑ったこともあったが、ゴリラ並みの強さの月島が締めても水が垂れるので、もう仕方がないのだと諦めている。
    「前から思ってたんが、この家本当に蛇口の締まり悪いな」
    「ああ、またですか? 気づきませんでした」
     のそり、と身を起こしてキッチンの方に胡乱な目を向ける尾形。その白い背中にくっきりと刻まれた爪痕を眺めて、月島は呟いた。
    「蛇口の締まりがいい部屋、探しに行くか」
    「————」
     ぐるっと勢いよく振り向いた尾形の両目がまん丸で、ああ可愛い、とたまらず噴き出す。かわいい、愛しい、傍に居たい。尾形と一緒に居ると、どんどん自分にはないと思っていた感情が溢れ出す。本当はアンタにもあるんですよ、そう言われて見つけ出されていくような気分だった。
    「アンタ、って、本当……。ほんっとに、俺を人間にさせるのが上手いですな」
    「それはこっちの台詞だ」
     尾形は黒瑪瑙の双眸を細めて、寝そべる月島へ思いっきり飛びついた。成人男性二人を乗せたベッドは、ギイギイと喧しく音を立てて悲鳴を上げた。ばか、いたい。月島は隠しもせずに痛がって笑って、尾形はアンタが悪いんですよ、なんて鼻息を荒くしながらその身をぎゅうぎゅうに抱きしめた。
     今日の二人のデート先は、最早決まったも同然だった。きっと良い一日になるだろう。今日も、明日も、その先も。この男と、一緒なら。


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