んでこっちはとりあえずセックスして事後のお話です。間のエロい所は今度書こーって思ってたんですけど今別のん書き始めちゃったから多分もう書かないかなー。
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それで、と話を切り出した五条悟は人並外れた長身を長々とベッドに横たえている。しなる背中はすっかり火照りも冷めているけれどもまだ髪は汗で湿って束になりうなじに絡んでいる。そんなしどけない姿で、気怠さ隠し切れない頬で笑顔を作り、
「僕からの大事な話なんだけど」
と切り出すから、七海は少し機嫌を損ねた。
「まだまだ余裕そうじゃないですか。相変わらずウソツキですね」
「待ってギブギブ」
のしかかると大袈裟に手足をばたつかせて、まるきり子供のプロレスみたいだから七海はため息をつくしかない。
「まったく、こんなんだと思わなかったよ。どこで修行してきたんだデンマーク人め」
どこのマトに刺そうとしてるのか不明な悪態をつき、それでも肌に貼りつく髪を跳ね除け首筋を晒し寝返りを打つ様はやけに色気がある。
「ちょっと面倒を見てほしい子がいるんだ」
「お断りします」
五条は眠たげに細めていた目をぱちりと開いた。口も、笑いの形に開いた。それから
「……えー、なんで?」
と少し戯けて甘えた声を出したものの七海はにべもない。つんと澄ました無表情のまま、背を向けて寝転ぶ。
「尊敬する先輩がこうまで頭を下げてるのに?」
「尊敬などしていません」
「なぁ、頼むよ。僕の目的は知っているだろう?」
「協力はできません。私とアナタとでは思想も実力も違う。誰しもがアナタのように生きられるとは思わないでいただきたい」
五条は少し黙った。七海は、背中から来る視線や感情についてはうるさいくらいに感じていたが、無視を決め込んだ。
「……いっとき、僕の手が回らない時だけでいいんだけどさ」
「……随分ご執心ですね」
「おっ、嫉妬?」
「違います」
七海はハッキリと否定した。これまでの流れを幾分どころかかなり腹に据えかねているのだ。五条は聡いのでさっさと察して
「じゃあ、セックスしてすぐに別の人間の話をするな、とか?」
と揶揄い混じりに指摘してきた。
「それは少しあります」
七海は背中を向けたまま大真面目にハキハキと肯定した。
五条はおそらく冗談半分で口にしたのだろうし、無視か否定を予想していただろう。すぐ後ろで、身を起こす気配がした。意外だったのだろう。だけれども七海はもう腹を括ったのだ。ついさっきに、大事な話を、ずっと前から好きだったことを告げてしまった後なのだ。今更じたばたごまかす必要など、もうないのだ。
「……ヤった後にオネガ〜イってのが、言うこと聞かせるためにセックスさせたみたいだから?」
「それはかなりあります。アナタにはもう少し空気を読んだりタイミングを見計らったり、要するに他者に対しての思いやりというものを発揮していただきたい。それから、もちろんそれだけではありません」
「じゃあ、後は……何だろ、うーん」
とぼけた様子で首をひねるがなかなか次が出てこないので、七海は背を向けるのをやめ、ごろりと寝返り、半身を起こした五条の顔を見上げた。とぼしい明かりの中、ぼんやり浮かび上がる朧月のように雅やかにも華やかな、息を飲むほどに秀麗な容姿を恣意的にくしゃくしゃに崩した表情で、うーんと首を捻っている。
「……思想が違うので目的のための協力はできません。私は協力者にはなりませんよ。ただし、恋人からの頼みごとならば聞かないでもありません」
五条はぱっと顔を輝かせた。そして
「つまり僕が七海とお付き合いをはじめて、ねぇ七海〜って可愛くおねだりしたら聞いてくれるってわけ?」
と調子よく捲し立てた。
「前半は概ねその通りですが後半はまだ及第点に達していませんね」
「……七海ちょっと調子に乗ってない? 僕に何を望んでるのか知らないけど、僕を操作しようとするんじゃないよ」
軽口の応酬が続くのがいつもの、ただし今夜の七海は五条の手を取った。ついさきほどは絡め合った指を、今は四本まとめて握った。目の輪郭をわずかに丸くして見下ろしてくる顔、高専の頃からちっとも変わらないように見えるその顔に、手をそわせた。
「私もそれなりに色々なものをなくしてきて、自分の可能性を一つずつ見失って、大小あらゆる絶望を積み重ねてきました。そしてそろそろいい年になりまして、ようやっと、最強とお付き合いする覚悟が固まってきたところです。私は、五条さん、今夜は逃げずに大事な話を真面目に話しました。五条さんも、頑張ってください」
七海が見守る中、五条はあからさまな膨れツラをしたり、口を尖らせたり、今にも悪態がこぼれそうな品のない顔をしたりと、一通り百面相をした後、おずおずと、含羞によって朱を差した目は逸らしたまま、
「……真面目な話ってなんだよ。僕は最初から真面目に話してるじゃないか。七海の手を借りたいって。他のやつじゃダメなんだよ、これは僕にとって大事なことだから、信用できるやつじゃないと。だからわざわざ会いにきたのに……ああもういい、ちょっと寝るから、七海は僕が起きるまでに次のデートプランを考えておくように。いいね?」
ごろりと不貞寝、今度は五条が背中を向けて、体を丸めて、目を閉じて、ここで眠るというので七海は、
「はい、よいプレゼンをいたしますよ」
と両腕でその体をそっと包んだ。素肌と素肌が触れ合うだけでも心地よく、呼吸でゆるやかに揺れるベッドの上でゆらゆら、こんなに温かいと殊更余計に、死にたくない死なせたくないと空恐ろしくなる。