きみの話「ほら、あったけえだろ」
ナンバが振り返り言う。得意げな顔をしていた。言葉通りの暖かな陽の光の下、春風が吹き抜ける。それはいっぱいに生えている草花たちを躍らせ、彼のふわふわとした髪を揺らしていった。
街の狭い路地をいくつも通り抜け、歩いた先にある小さな空き地。周りの建物が取り壊されたのか、その場所にはさんさんと陽ざしが降りそそいでいた。ごく小さな範囲の更地には、春を迎えようとしている雑草が所狭しと生い茂っている。寂しい空き地というよりは原っぱといった印象だ。ここが、ナンバのとっておきの場所らしい。
季節は三月の中旬、ここ数日のニュースでは異人町の桜の開花予想が流れ出している。時期外れの暑いほどの陽気が続いていたが、その日の日陰はやけに肌寒かった。ぶるりと体を震わせたとき、ナンバから思い立ったような声で「いい場所がある」と告げられた。ポケットに突っ込んだ手を見かねて言ったのかもしれない。背中で案内をするように、ナンバはすいすいと路地を通り抜けていった。その後を一番は追って行く。
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