ようやく静かに本を読める。廊下を端まで横切って、見つけた椅子はこれ以上ない特等席だった。これならわずかな明かりでも事足りる。わずらわしいだけだった夜が、月光の下に不意に華やぐ。
手元に灯した安堵の火は、しかしわずかに揺れていただけで、向かってくる足音に吹き消された。ガープは苛立ちも隠さずに、もう一度息を吐く。見計らったようなタイミングは、後をつけていたからこそだろう。
「ここまで酒を頼んだ覚えはないが」
「困りますなあ、会場に居ていただかないと。こちらとしても警備になりません」
「それは、……すまなかった」
嫌味を盛った言い方も、彼にしてみれば当然だったかもしれない。一人抜け出してきたのは自分だ。貴族の肩書きがある以上、一歩型をはみ出せば、勝手な振る舞いにしかならない。
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