夜が去り、暁が東の空に現れる。けれどそれは時計がそういう時刻と数字で示しているだけで、実際に朝のはじまりを目にすることは叶わない。人理の砦にあるこの部屋には窓がなく、それ以前にこの地はいつも吹雪のなかにある。
ケイローンは目覚めた身体を起こすでもなくベッドに横たわっていた。のっぺりと白い天井を、見るともなしに目に映す。まだ何かをするには早い時間。まばたく瞼は少し重い。英霊には眠りが不要であることと、眠りに落ちるのが心地よいことはどちらも正しく両立する。もう少しだけ、と寝心地のよい姿勢を探して身動げば、布団のなかであたたかいものと触れ合った。
よく知る形。やわらかさ。ぼんやりとした頭でケイローンは手を這わせる。もっちりと弾力のあるこの感じ。指先でふにふにとつつくのもいいけれど、手のひらでぐっと掴むのが癖になるようなこの感触。知っている、けれど睡魔がその正体をぼやけさせる。
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