あなたが帰る場所「センセんとこのな、アシさんが長いこと来られんいうて」
「例のチーフアシスタントさんですか」
うん。と、生返事がひとつ。手帳を手早く捲りながら彼は眉根を寄せる。真に焦っている訳では無いだろうけども、打てる手は迅速に打つのが担当の鉄則であり、今やるべき最優先の責務だ。
先程脱いだばかりのスーツに再び袖を通したあと、彼は私が抱いているボサツくんの頭を撫でた。それから私の頭も。
「なぁ、俺も撫でて」
「はい」
ゴーグルの形に癖付いた髪を後ろに撫でつければ、彼は少し虚な目になった。
「……最近、なんか元気あれへんなぁ思ててん。ネームもな、おもろいねんけどこう、本人の狂い方が微妙に違ういうか」
「作家の狂い方でメンタルを慮るのは大事なことです」
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