Elpis太古の時からアルストの中心にそびえ立つ世界樹は、その日も変わることなく清廉なる翠玉色の光輪を纏っていた。千切れた雲の切れ間から煌々と輝く月は白い。それと共に満天の星が空を彩っていたある真夜中、死の名を持つ断崖へと向け進路を進めるスペルビアの巨神獣船のデッキの上には、黙したまま世界樹を見つめている少年の姿があった。
「――レックス?どうした、こんな時間に」
ぬるい微風に吹かれているその少年の名を呼んだのは、祖国の皇帝から勅命を受け彼の旅に同道していたスペルビア特別執権官、メレフ・ラハットだった。
「メレフ……?」
名を呼ばれたレックスは、声のする方へと体を振り向けた。金の瞳が空を彩る淡い光を映して僅かに煌めいた。
1929