燎原「――流石『炎の輝公子』殿ですな。いやはや、見事なお手並みでございました。ハーダシャルにおられる皇帝陛下にも良いご報告が出来ましょう」
スペルビア帝国軍、第一親衛軍団第二大隊隊長であるその中年の男は、自らの席の対面に立っている若い娘を見ながらそう讃える言葉を口にした。
「いえ、これもカグツチや皆の協力あってのこと。私一人で得た勝利ではありません」
『炎の輝公子』と呼ばれた娘――メレフは眼前の男に淡々と返答する。第二大隊隊長の眉が僅かにひそめられた事には気づいたが彼女はそれを無視し、代わりに司令室の机上に広げられたグーラ領の地図を一瞥した。
「……報告は以上です。それでは失礼します」
メレフは一礼し、身を翻した。側に控えていたブレイド、カグツチもまたそれに続く。物々しく無機質な鋼鉄の扉を開き、『炎の輝公子』とその従者である帝国の宝珠は司令室を後にした。
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