左の胸に咲く花:司レオ 鮮やかな蘇芳色をなびかせる彼は、どうしても「それ」と対称的だと思った。
♪
「レオさん、どうぞ」
落ち着いた声と共に差し出されたのは、透明な包装と控えめなリボンに彩られた一輪の薔薇。
歳下のその男は、両手で丁重に支えるそれを、相も変わらずそっと手渡す。
平日のアンサンブルスクエアでは、せかせかと動き回る人の流れが尽きることはない。それでも、レッスン室が立ち並ぶこの廊下は、時間が早いせいなのか、ひっそりとした静寂に包まれている。
何気なく呼び止められたかと思えば、スマートな所作で渡されたそれを、受け取らない理由がレオには無かった。
包装のフィルムから覗き込んだその花弁は、一枚一枚がどれも瑞々しく美しい。司のことだから、きっと相応にきちんとした店舗で購入した生花に違いない。「ありがとな!」と微笑みながら、レオはいつも、少しだけ不思議に思っている。何故なら、差し出されるその薔薇はいつだって、彼の燃えるような情熱とは相対するような、深く静かな青色をしていたから。
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