カカオ70パーセント好きだ。愛してる。俺は貴女の物だ。
囁かれる言葉は濃く甘く、耳からとろりと忍び込み体の中に溶けていく。それらが内に体積していった後に、自分の体はどうなるのだろうか。すり鉢の中で攪拌される香辛料や、ビーカーの中でかき混ぜられる溶液を汐見は連想する。
「ガキの頃は『なんで俺にチョコくれるんだ』って聞いたら、『アキラくんの事が好きだからだよ』って言ってたよな」
革張りのソファに深々と腰掛けた部屋の主は、マグカップを傾けながら、懐かしいとも恨めしいともつかない声で言った。銀色の艶のある髪は、散髪して日が経っていないのか鋭角的に揃えられていて、クールな印象を助長させている。あくまで外見上は、の話だ。
「だけど、ゼミ生にも他の教師連中にも渡してた」
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