いい夫婦の日「いい夫婦の日なぁ。」
「‥‥まっちゃん?」
ふと、鼓膜を揺らしたのは、呆然と窓の外を見る友人の声だった。
11月22日。
どこでそんな日だと聞いたのか、友人の、松川智治の表情は晴れない。
よりにもよって、何故それを口にしたのか、黒川は考える。
交番の中で、仕事中、自分と松川しかいない。
そんな空間は、彼にとっては亡き妻を思い出し口にできる数少ない空間だ。それは黒川の心情を顧みない行動ではあるが、それで怒るような浅い仲ではない。
互いに経緯を知り、亡くした重みも、罪悪感も、形は違えど持っている。
だからこそ、口にできるのだ。
「さっき、一課長とあってな。
あそこの奥さんが早く帰ってこいって言うから、
急いで仕事を終わらせたいって愚痴ってた。
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