カノン~横浜の初夏「横浜は坂が多いとは聞いていましたが、まさかこれほどとは」
5月の連休も終わり、日差しはまだそこまで強くもなく、そして空気も乾いてはいないが必要以上の湿っぽさを含んでもいない風を受けながら御門浮葉はそう呟く。
少し後ろを歩いている朝日奈唯は、思いの外早く歩く浮葉に遅れまいと息を切らせながら彼についていく。
それにしても。
今日、横浜の街を一緒に歩こうと誘い出したのは自分ではあるが、前を歩く浮葉の足取りが想像よりも軽い感じがするのは気のせいだろうか。
「浮葉さんって、外出がお嫌いかと思っていました」
思わずそんな言葉が口から出てしまう。
「意外ですか?」
後ろをチラリと振り向きながらそう問いかける。
その瞳はかつて一緒に演奏した際、おそらく無意識にしたであろう流し目を彷彿とさせる。
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