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    甘味。/konpeito

    800文字チャレンジだったりssを投げる場所

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    甘味。/konpeito

    TRAININGないものねだり、欲しがるばかりアシュクル
    本日の800文字
    欲しいと駄々を捏ねたところで手に入らないものはある。
     母に似た細い体躯。中性的な顔立ち。大剣を振るうには似つかわしくないそれに幾度も苦しめられた。父や兄、道場の門下生の彼らが身の丈ほどもある大剣を容易く扱うその姿に何度憧れただろう。何度、挫けただろう。
     それでもヴァンダールでは傍流である双剣術にしがみついたのは、ヴァンダール家の一員でありたいという意地だった。
    「あー。先に聞いておくが、なにがどうしてそうなった?」
     馴染みのある声で意識が引き上げられた。ソファに座ったまま声のほうに顔を向ける。
     アッシュだ。出先から戻ったらしい。コートスタンドに上着をかけた彼は不思議な顔をしていた。困っているのか、心配しているのか、むず痒そうな顔だ。
    「アッシュか。おかえり」
     外気で冷えた両手が頬に添えられた。口付けの予感についつい力んで唇を引き締める。唇を触れ合わせる、ただそれだけの行為で頭のなかを真っ白にされた。
    「ただいま。ふはっ。お前、本当いつになったら慣れんだよ。んで、どうした。それ、俺のシャツだろ?」
     クルトの座るソファに並んで腰を下ろしたアッシュが、肩に寄りかからせるように抱き 1000

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    TRAINING武器交換続きクロリン
    モブ視点/交わるふたつの絆
    「なぜだ、なぜだ。なぜだ!」
     監視カメラから目を逸らせないまま机を叩く。部下の肩がびくりと跳ねたが、そんな瑣末なことを気にかけている余裕などなかった。
    「四班、五班。ともにBルート、クロウ・アームブラストを潰せ。七班八班はAだ。リィン・シュバルツァーをそれ以上先へ進めるな。いいな、ふたりを絶対合流させるんじゃない。分かったな」
     無線を切り、ふたたび机を叩き、奥歯を噛みしめる。目の前で起こっている現実を受け入れられなかった。
     データ上では双刃剣と二丁拳銃しか扱っていなかった男は慣れた手付きで太刀を操り、太刀一辺倒だったはずの男は拳銃二丁を鮮やかに使いこなしてみせている。まるで、お互いの戦い方を熟知しているような練度に背筋が凍った。
    「最終手段に出る。アレを動かせ」
     向かうは合流地点。
     大型人形兵器を従え、一掃するしかない。もう、彼らを止められるものはこれしかなかった。



    「どうしてこんなことに。私の計画は完璧だったはずだ。ふたり揃うと厄介だからと分断してやった。武器も奪った。なのになぜだ。なぜ止まらない。どうして倒れない」
     静寂のなかに悲痛な声だけが響いた。
     従えてい 1229

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    TRAINING寝るまでは略本日の800文字チャレンジ「教官、今日はずいぶんおしゃれなシャツ着てますね?」無意識彼シャツクロリンARCUSが着信を知らせる。目覚ましのアラームではないそれに出るため、背中に張りついたままのクロウをどうにか押し退けたリィンはやっとの思いで通信に応答した。
     床に落ちた下着や服を拾い、身につけていく。シャツを羽織った肩口にARCUSを挟んで、話を聞きながらスラックスにベルトを通した。
    「ああ。分かりました。ええ。ええ。……そうですね、二十分後に合流でどうでしょうか。こちらは構いません」
     靴を履くためベッドに腰掛けるとクロウの手が伸びてくる。まだ通話の続いているARCUSが支えられ、急いでシャツのボタンを留めた。クロウの耳元に小声で礼を述べて彼の手からARCUSを受け取る。
    「ええ、……ええ。そうしてくれると助かります。ええ、それじゃあまたあとで」
     通信を終わらせてそのまま懐にしまった。
    「仕事か。自由行動日だろ。今日」
     欠伸を隠さないクロウは、カーテンからこぼれる朝日の下に蠱惑的な裸体を晒していた。思わず足元に絡まっていたシーツを彼の上にかける。
    「呼び出しだ。クロウは寝てていいぞ。久々にこっちに来てるんだ。たまには休め」
     ベルトに帯刀し、革手袋を嵌めて最後にコートを羽織る。 803

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    TRAINING本日の800文字チャレンジ/Promise of reunion
    クロリン武器交換/11.30加筆
    「くっ!」
    「しまった……!」
     ほぼ同時にリィンは太刀を、クロウは二丁拳銃を弾き飛ばされた。互いの武器が相手の手元に向かって床を滑っていく。滑ってきたそれを手にとった瞬間、ふたりのあいだに見えない壁が現れた。
     声は向こう側に届いても触れたところですり抜けず、リィンの無手の型でも歯が立たない。
    「クロウ、借りるぞ」
     見えない壁の向こう側にいる彼が拳銃を構える。この程度で壊れてくれるなら幸いと、壊れた場合に飛んできた破片を被らないよう数歩下がった。
    「おー。遠慮なくやってくれ」
     タンッ、タンッ、タンッ。
     銃弾が軽快なリズムで放たれるも、それらが一発とて壁を貫通することはなかった。
    「だよなー。こっちも試すか?」
     念のため、手元にあったリィンの刀を振るって斬るような動作をしてみせる。壁の向こう側で真剣な顔をした彼が頭を振っていた。
    「近距離での銃撃に傷ひとつついていない。太刀でも厳しいと思う。それぞれ先に進める通路がある。どこかで合流できる場所があるはずだ」
    「まっ、そうなるよな。そんじゃ、俺の相棒はそれまで預けておくわ」
    「分かった。クロウも、くれぐれも大事に扱ってくれ。――絶 942

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    TRAINING本日の800文字チャレンジ「願いを灯りに代えて」
    Ⅳ最終相克前。ミシュラムにて/付き合っていないクロリン
    「もしも黄昏を終わらせて、それでも生き残っちまったら。――お前ならどうする」
     ミシュラムでの最後の一夜、リィンとともに酒の入ったグラスを傾けているときだった。話すならばこれが最後の機会だろうと彼へ水を向ける。
    「クロウ、」
     咎められても撤回するつもりはなかった。
     顔を顰めるリィンの言いたいことくらい、クロウは分かっている。互いに生き残ることの難しさなんてとっくに理解していた。なんせ、クロウはすでに死んでいる身だ。彼の眷属として、かろうじてこの世に留まっているだけの存在。リィンもまた、相克の果てに待ち受けるものを知ってしまった今、先を考えるのは難しいだろう。
     それでも、彼には未来の話をしてほしかった。
     迷子みたいな顔をした彼はしばらく押し黙って、酒で唇を湿らせるとようやく口をひらいた。
    「クロウと、酒が飲みたい」
     静かに願いを吐き出すリィンは、目を細めている。まるで夜空に瞬く小さな星を探しているようだった。
    「クロウ、と、酒が飲みたいんだ。また、ふたりで。こうやって、酒が……飲みたい」
     彼の握ったグラスのなかで琥珀がきらりと波立つ。
    「だめ、なのかなあ」
    「いいんじゃねえか 790

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    TRAINING800文字チャレンジ!俺の相棒が世界一かわいい/クロリン
    寝るまでは本日の法則
    ちょうどクラブハウス内にあるシャワールームで汗を流し終えたところだった。
    「クロウ! よかった、まだ帰っていなくて」
     ここまで走ってきた様子のリィンが息を切らせて駆け寄ってくる。クロウは濡れた髪を拭きながらリィンの息が整うのを待った。
    「どうした、そんな慌てて。なんか用でもあったか」
    「ミュゼ、から聞いて。クロウが、来てるって」
     リィンの言葉でようやく合点がいった。どうやら先ほどまで訓練に付き合っていた彼の生徒から連絡がいったのだろう。それにしても、常日頃から鍛錬を怠らない彼にしては珍しい姿だ。つい、しげしげと眺めてしまう。
    「ミュゼの遠距離狙撃訓練、スタークの射撃訓練、アッシュとクルトには実戦訓練。ユウナには接近戦と射撃を混ぜた実戦訓練。それからアルティナには現場の状況解析のアドバイス。おかしいな。いつからクロウはここの教官になったんだ」
     呼吸が落ち着いたらしいリィンの激しい詰問にへらりと笑った。
    「いやー、ねだられると断れなくてなあ。教え甲斐があってなかなか楽しかったぞ」
     リィンの生徒とは過去に幾度も共闘していたこともあり、かたや相棒の生徒、かたや教官の相棒としてそれなりに 828

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    TRAINING本日の800文字チャレンジ
    クロリン/いとしいとしい/リ失踪もの
    リィンにとって、幸せとは脆く儚いものだった。平穏とは、常に脅かされるものだった。
    「ごめん、クロウ……」
     昨夜、互いの熱を分け合ったクロウの頬を指の背で撫でた。深い眠りに誘う魔女の秘薬を飲ませた彼は、どんな夢を見ているのだろうか。
     気持ちよさそうに寝息を立てるその唇をなぞり、口付けた。一度では足りず、クロウの感触を刻むようにもう一度口付ける。
    「ごめん……」
     震える声で懺悔し、ふたりで競うように脱がし合い、ベッドの周りに散りばめた衣服を拾い上げて身なりを整える。シャワーは浴びなかった。まだ、クロウに触れられた感覚を流したくはない。薄い腹のなかに吐き出された彼の欲でさえ、このまま己の血肉になればいいと願った。
     そうしてリィンは軋む身体を引きずり、クロウの前から姿を消した。
     さよならは言えなかった。たとえ相手が寝ていたとしても、終わりの言葉は使えない。
     ――そろそろ付き合わないか、俺たち。
     馴染みのバーでいつものようにふたりで飲んでいたときだった。お互いいい歳なんだしと続けたクロウは、静かにロックグラスのなかの琥珀を眺めている。先月のことだ。嬉しかった。でも、それ以上に怖かっ 745

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    TRAINING本日の800文字チャレンジ/ロマンティックが聴こえる
    リの心の声が聞こえるク/クロリン
    ――好きだ。
    「えっ」
     つよい声だった。頭をがつんと殴られたような衝撃に思わずそこをさする。目の前にいる相棒、リィンが心配なのか眉を下げてこちらを見上げていた。
     背後や周囲に人はいない。ここはリィンの部屋だ。
    「どうしたんだクロウ」
    「あー、いや。なんでもねえ」
     安心させるためにへらりと笑ってみせれば、今度は眉間にぐぐっと皺が寄った。
    ――心配だ。どうしたんだろう。言えないのかな。クロウ、クロウ、クロウ。
     また、頭のなかに声が響く。よくよく聞けばリィンの声だった。表情からそんなことを言いそうな顔はしているが、彼の口は一リジュも動いていない。
    「んー……」
     指で己の顎を撫で、今の状況を分析する。そのうえで、いくつか試してみることにした。
    「リィン、」
     わざと耳朶を舌で嬲り、情事を連想させるような甘い声で囁く。
    「ぅ、……あ……」
    ――び、びっくりした、びっくりした。クロウ、の声。夜の声。
     夜、というのはセックスを指すのだろうか。リィンらしい慎ましい表現に頬が緩んだ。耳への愛撫を続けながら彼の身体を弄っていく。
    ――キス、したい、のに。どうしよう、恥ずかしい。言えない。キス、 857

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    TRAINING本日の800文字チャレンジ
    クロ+リン。旅立ちの日
    「リィンくん、本当に教官辞めちゃうの」
     もう何度目だろう。
     会う人会う人に同じ質問をされていたリィン・シュバルツァーは、ええそうなんですとこちらも同じ答えをトワに返した。三十三歳を迎えた今年、リィンはこのトールズ士官学院の教官を辞める。
     ひと通り、身の回り荷物を分別していく。捨てるもの。捨てないもの。捨てないもののなかから仲間に譲るもの、譲らないもの。譲らないもののなかから最後に、リィンが持っていくものを厳選した。
     持っていくものは、クロウから返してもらった五〇ミラ、家族の写真。それを何泊かの着替えとともに鞄に納める。仲間に譲り渡すものは全て、小包みに手紙を添えて送った。
     最後になる生徒たちの卒業式を終えて来期からの後任に引き継ぎを済ませたあと、リーヴス駅に向かう。行き先は決めていなかった。
    「おいおい、俺を置いていくつもりかよ」
    「クロウ……」
     駅構内に入るとすでに見知った顔がひとつあった。思わず他にも来ているのだろうかと探すが、あいにく俺ひとりだと笑われた。
    「さて、行きますか。死に場所探しの最期の旅へ」
    「ああ。そうだな」
     ふたり揃って列車に乗り込む。その後、ふたり 844

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    TRAINING本日の800文字チャレンジ
    遊撃士となったアシュクル珍道中口噛み酒編
    村の神事に人手が足りず困っている。
     遊撃士として日々依頼をこなしているアッシュは、今回も街道沿いで目撃されたという魔獣討伐を終えて近郊の村を訪れていた。そんな、たまたま訪れたその村で行なわれるという神事で困っていると村長から聞いてしまった同行者は、持ち前の真面目さを発揮していた。
     聞かなければよかったと頭を抱えているアッシュの隣りで、クルトはことの重大さに気が付いていないのか普段と全く様子が変わらない。
    「確認ですが、この村では豊穣の祭りとして口噛み酒を奉納すると。そしてそれを作るのは未婚の処女に限る、そうですね」
    「どうも既婚者が奉納した年は成りが悪かったらしく、代々そういう決まりになっております」
     村長の言葉になるほどと頷くクルトが眉尻を下げた。
     聞いたからにはなんとかしてあげたいのだろう。アッシュ自身も困り事を見過ごせないたちではあるが、できることとできないことの分別くらいはついている。仕方がないので、キリのいいところで助け舟を出してやろうと壁から背中を浮かせたときだった。
    「はあ。自分とアッシュは確かに未婚です。しかし、男、なのですが」
    「大丈夫です。巫女装束を着て務め 819

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    TRAINING寝るまでは本日の法則で800文字
    誕生日の前日譚。クロリン、ク視点
    同居一年目は、釣り好きなリィンのために新作の釣り竿を。二年目にはクロウが彼の服をトータルコーディネートした。三年目にはふたりで温泉地巡りをして、四年目は、手作りの豪華な夕食をプレゼント。そして五年目の今年、いよいよリィンの誕生日が来週に迫っているにも関わらず、クロウはまだなにをプレゼントするか悩んでいた。
    「欲しい、もの?」
    「そうそ。そろそろ誕生日だろお前」
     トールズの同窓会から帰ってきたリィンに水を渡しながらさり気なく声をかけた。
     強かに酔ったリィンの記憶が怪しくなることを利用するのは多少気が引けたが、背に腹は変えられない。
    「クロウ」
     水の入ったコップを両手で包んだリィンがぼんやりこちらを見上げていた。呼ばれたと思い、彼に顔を寄せる。
    「ん? なんだ」
    「クロウ。クロウがほしい」
     ほしいってなんだ俺はものじゃねえと危うくつっこみそうになり、それを喉の奥に押し留めた。
    「いやな、誕生日プレゼントの話してんだよ」
    「分かってるぞ。だから、クロウが欲しいんだ」
    「分かってねえから。この酔っ払いめ」
     もう一度クロウが質問の趣旨を説明しても、きょとりと瞬いたリィンは同じことしか口 809

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    TRAINING本日の800文字チャレンジ
    同居クロリン「誕生日」12本のバラの花言葉はわたしと付き合ってください
    「なあリィン、誕生日プレゼント欲しいもんあるか」
     行きたいところでもいいけど。あんまり軽い話し口にリィンは目を白黒させた。夕食の献立を聞いてきたのを、聞き間違えたのだろうか。
    「クロウ、その。もう一回言ってくれるか」
    「だから、誕生日プレゼント。なにがいい」
     聞き返したリィンの徒労も虚しく、クロウは先ほどと同じことを口にした。誕生日、なにがいい。それを理解するまでふたたび硬直してしまったリィンはジャムのたっぷり塗られたパンをクロウに口のなかへ放り込まれてようやく現実に帰ってきた。
     同居をはじめてはや五年目。
     最初は凝ったサプライズを仕掛けてきていたクロウが今年は直接聞いてきた。つまり、もう考えるのも面倒になってしまったのだろう。そのうち一緒に住むのも面倒になって、また旅に出てしまったら――。
    「リィン教官?」
     伺うような生徒の声で我に帰った。今は勤務中だ。胸のなかのわだかまりをどうにか抑えて授業に集中した。
     結局、誕生日当日までクロウの問いに答えは見つけられなかった。昨日も聞かれたリィンは、今年は何もいらないから。もう祝うような歳でもないし、ケーキもプレゼントはもう要らない 807

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    TRAINING本日の800文字チャレンジ尋ね人は佳人を求める
    Ⅳノマ√後、クロリン。ク転生
    東方には、不思議な話が伝わっている。
     砂漠で迷うと火の化身、不知火が出るというものだ。不知火は白い毛に赤い目をしていて、迷い人を人里まで案内してくれる心根の優しいものなのだと言われていた。
     不知火にはかならずお供がそばに描かれている。猫のようであったり、鳥のようであったり、はたまた人のようでもあった。不知火はそれを生涯ただ唯一の相棒だと呼んでいた。その話をする不知火はアムリタの涙を流したという。



     ようやく辿り着いた家の扉をノックした。
    「どなたです……、か」
     恐る恐るひらいただろう扉の向こうから探し求めた愛しい人の顔が現れる。こちらを認識した瞬間、彼の瞳が揺れた。真っ赤な目から頬を伝い落ちる雫を指で拭う。あたたかい涙だった。
    「久しぶりだな。リィン」
    「ク、……ロウ」
     リィンは目の前に突然現れた俺の姿形を確かめるように頬を両手で包んでいる。しばらくそうしてからぎゅうぎゅう抱きついてきた。
    「いやあ、ここに辿り着くまで三回も生まれ変わったわ。まあでも、お前が変わらずお人好しで助かった。お前、伝承になってるぞ」
     案内された家のなかで当たり前のように紅茶を出されて曖昧に笑 823

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    TRAINING本日の800文字チャレンジ!ちっちゃくなったリ
    Ⅳエンディング後/幼さに残る面影
    「おいおい、なんでリィンがちっこくなってるんだよ」
     黄昏を終え、女神の至宝から思いがけない追加ステージを与えられたクロウ・アームブラストは、同じベッドのうえでシャツに埋もれ丸くなっているかたまりに頭を痛めていた。あどけない寝顔を晒す彼は、昨日トールズ士官学院リーヴス第Ⅱ分校へ帰ったはずのリィン・シュバルツァーだった。
     そう、リィンとはリーヴスで別れたはずだった。クロウは一度死亡していた存在であるためいまだ不用意に出歩けず、ローゼリアとともに魔女の里と呼ばれるここ、エリンの里に身を寄せていた。
    「なんじゃ、うるさいのう。シュバルツァーなら昨夜遅くにエマから連絡があってな。妾が連れてきた」
     階下にいたはずの魔女の長、ローゼリアがいまだ寝ているリィンの頬をつつく。いつのまに入室したのだろう。考えるより先にむずかるリィンの姿に慌てて魔女の手を掴んだ。
    「へえ、なるほど。いや、なんで俺のベッドに入れんだよ」
    「泣きやんだからじゃが。しかし改めて見てもちんまくなったのう。妾より小さくなっておる」
     かっかっかっ、と笑う彼女には現状がそう逼迫したものに感じないらしい。緊張感のない様に肩の力が抜 803

    甘味。/konpeito

    TRAINING今朝の800文字チャレンジ。佳人は尋ね人を待つ
    ノマ√リィンくんのその後のお話。モブ視点
    「本当なんです。本当に砂漠の真ん中にオアシスがあったんです」
     緑が青々と茂っていて、水も湧いていました。そう熱弁する少年を周囲は笑った。それもそのはず。ゼムリア大陸の東には、人を拒むような広大な砂漠地帯が広がっている。近年は砂漠の緑化に努めてきたお陰か侵食は進んでいないものの、それはごく一部の話だった。
     少年はそれきり口を閉ざした。
     いつしか幼少の時分にそんなこともあったなと妻子とともに暮らしながら不思議な思い出として振り返るようになった頃、少年だった男を訪ねてきた者がいた。
    「なあ。砂漠のど真ん中にあるオアシスを見たっつーのはあんたか」
     訪ねてきた男は血のような真っ赤な目をしていた。こちらの地方では珍しい銀髪なのできっと旅行者だろう。
    「ああ。そんな話もしたな。なんだ、ホラ吹き少年でも見に来たか」
     妻に少し出てくると声をかけ、人の目が気にならない宿酒場の裏手へ回った。旅行者もついてくる。
    「オアシスの話を詳しく聞きたい」
     彼の目は、今までこの話題を出したときに向けられたことがない色味をしている。砂漠で迷ってしまったあの日、助けてくれた人とよく似たそれに背中を押され、男はこ 747

    甘味。/konpeito

    TRAINING両片思いアシュクル/創エピ第Ⅱ分校修学祭後自らの行いは自らでケリをつけたかった。
     皇帝暗殺の犯人が自分であるにも関わらず、世間ではそれを誤報とされている。この手で引き金を引いた感触が今でも残っているというのに。
    「ったく。めんどくせえ連中に捕まっちまったな」
     無理やり参加させられた打ち上げからひとり抜けたアッシュ・カーバイドは、今日の出来事を振り返っていた。
     学院生活最後の行事だからと妙に熱を入れてしまったのは自覚していた。不在時に決められたとはいえ、実行委員に任命されたからにはやりきりたかった。その結果、まさか出し物への投票だと勘違いしていた選挙箱で生徒会長になってしまうとは思いもしなかったが。
     来月には学院を去り、遊撃士として仕事をしながらせめてもの罪滅ぼしをしようと考えていただけに、完全に予定を狂わされてしまった。
    「アッシュ、ここにいたのか」
    「クルトか。酒もないのに付き合いきれねえ。連れ戻したかったら酒持ってこい」
    「俺たち未成年だろ」
     クルト・ヴァンダールに呆れたような目を向けられ、肩を窄めた。何事にもお堅いこのクラスメイトが未成年の飲酒を容認するはずもない。
     生活態度は至って真面目、剣技は教科書通り、 870

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    REHABILI書きたいところだけ書くジュライ行きの導力列車で同じ班となったクラスメイトと話している時だった。
    「その制服、学生さんか」
     突然かけられた声に肩を揺らす。声の主は通路を挟んで向こう側の席に座っていた人だった。銀髪にカジュアルなコートを羽織った、帝都でもなかなか見ないような顔立ちのいい男の人だ。
    「うるさかったですか、すみません」
     慌てて口早に頭を下げる。制服は学校の顔だから学院の外でも立ち居振る舞いには気をつけるように、とこの特別実習前にシュバルツァー教官から言われていたというのに早速失敗してしまった。ボックス内に座る同班のメンバーも同様に頭を下げていた。
    「いんや。楽しそうだなとは思ったがな」
     それで、と促すような目配りに目礼してから口をひらく。
    「えっと。トールズ士官学院、第二分校Ⅶ組です。これから特別実習でジュライに向かっていまして」
    「へえ。トールズの第二分校つったら、ほら」
    「ええ。実はわたしたちの担当教官がその救国の英雄、灰色の騎士なんです」
     クラス発表当日に自己紹介で本人に向かって臆することなく灰色の騎士マニアだと豪語した隣の子が腰を浮かせる。
    ――まもなく、ジュライ。ジュライ。お降りの 1008