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    em7978

    Valentine16×19
    リコリスと初恋 アラベスクジムの控え室では二人の青年が同時に溜め息を吐いていた。一人はガラルのトップジムリーダーとしてそのハンサムな顔立ち共に名高いキバナだ。今年で十六になる彼は確かな実力でその地位を勝ち取った。チャンピオンダンデのライバルである。
     隣に並ぶのは彼より一つ下のジムを守るスパイクジムのリーダー、ネズだ。彼はミュージシャンでもあり、本人の自己評価の低さとは反対に両方の分野でファンを獲得している。
     肌の色もバトルのスタイルも全てが対照的な二人だが、今日ばかりは意気投合していた。バレンタインデー。リボンやハート、甘いお菓子の香りが町中から漂ってくる日だ。例年通りならキバナはファンとの交流会で忙しい一日であったろうし、ネズはライブでファンサービスに勤しんでいただろう。当然ファンからのプレゼントは山積みで、その仕分けはいつもキバナも含めてスタッフ総出だった。開けて良いもの、駄目なものを分類して、メッセージカードには全てキバナ自身が目を通す。裏方なんて地味なものだ。ネズはキバナよりいくつか年上の先輩で、隣町に住んではいるけれど、気難しい性格をしているせいもあってそうした会話をしたことはあまりなかった。けれど、どこもきっと同じようなものだとキバナは思っていた。大変だけどファンからの応援は嬉しいし頑張れる。山積みの菓子達がキバナの口に入ることは無いし、ファンと選手という関係以上の好意に応えることは出来ないけれど、この仕事を選んだからには毎年この日を精一杯のファンへの笑顔で迎えるのだと思っていた。ネズもきっと似たようなものだろう。
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