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    fujimura_k

    MOURNING2022年5月発行 明治月鯉R18 『鬼灯』
    身体だけの関係を続けている月鯉。ある日、職務の最中に月が行方を晦ませる。月らしき男を見付けた鯉は男の後を追い、古い社に足を踏み入れ、暗闇の中で鬼に襲われる。然し鬼の姿をしたそれは月に違いなく…
    ゴ本編開始前設定。師団面子ほぼほぼ出てきます。
    鬼灯鬼灯:花言葉
    偽り・誤魔化し・浮気
    私を誘って

    私を殺して


     明け方、物音に目を覚ました鯉登が未だ朧な視界に映したのは、薄暗がりの中ひとり佇む己の補佐である男―月島の姿であった。
    起き出したばかりであったものか、浴衣姿の乱れた襟元を正すことも無く、布団の上に胡坐をかいていた月島はぼんやりと空を見ているようであったが、暫くすると徐に立ち上がり気怠げに浴衣の帯に手を掛けた。
    帯を解く衣擦れの音に続いてばさりと浴衣の落ちる音が響くと、忽ち月島の背中が顕わになった。障子の向こうから射してくる幽かな灯りに筋肉の浮き立つ男の背中が白く浮かぶ。上背こそないが、筋骨隆々の逞しい身体には無数の傷跡が残されている。その何れもが向こう傷で、戦地を生き抜いてきた男の生き様そのものを映しているようだと、鯉登は月島に触れる度思う。向こう傷だらけの身体で傷の無いのが自慢である筈のその背には、紅く走る爪痕が幾筋も見て取れた。それらは全て、鯉登の手に因るものだ。無残なその有様に鯉登は眉を顰めたが、眼前の月島はと言えば何に気付いた風も無い。ごく淡々と畳の上に脱ぎ放していた軍袴を拾い上げて足を通すと、続けてシャツを拾い、皺を気にすることもせずに袖を通した。
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    sui

    MOURNING利こま

    天使の小松田くんと学生利吉さんが出会う話
    ※ぴた〇ンパロ。利吉さんのお母さんが亡くなっている設定です
     窓に吹きすさぶ強い風の声に利吉は目を覚ました。少しだけ開いていたカーテンの向こう側の無機質な景色には普段と何一つ変わらない色が映る。朝六時半。パジャマのままリビングに向かうと、背広に腕を通す父と目があった。

    「利吉、今日も遅くなる。じゃあ行ってくる」 
    「行ってらっしゃい」

     通っている学校の近くにあるマンションに、利吉は父と二人で住んでいる。利吉は身支度を整え朝食を腹に納めると、プラスチックゴミで膨らんだゴミ袋と鞄を持って靴を履いた。

    「行ってきます」

     母は利吉が十歳の頃に交通事故で亡くなった。玄関に飾っている家族写真の中で楽しそうに笑う母をちらりと見て、ドアを閉める。今日もいつもと何も変わらない一日がはじまる。学校に行って、友人と喋って勉強して……嬉しくも楽しくも悲しくもない毎日の繰り返しだ。これでいいんだ。この生活に不満を持たず何も望まず、毎日が繰り返されるなら。いや、それは少し悲しいかもしれない。ささやかな娯楽、友人、父、誰といても何をしていても決して誰にも埋めることの出来ない一人分の隙間が未だに塞がらない。本当は塞がる筈なんてあるわけないのに、その隙間を手の届く範囲内の何かで必死に埋め合わせをしようとしている。それは、寂しくて悲しくもあり、自己嫌悪の塊に未だに真正面から向き合えない自分に残された逃げ道だった。そんなの、どんなに浅はかだなんてわかっている。だが、どうしようも出来なかった。
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