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    もしも

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    PROGRESS続々・もしも境井家が代々志村家当主の夜伽をしていたらの話 3
    (支部に無印と続があります)
    若い志村×若い正
    「大事ないか、正」

    かたりと音がして我に返ったというのに、まだ夢の世界のようにふわふわしている。
    正は軽く目眩を覚えながら、正面を見た。
    黒曜石の輝きを持つあの目が、ぐぅっと近付いていた。
    志村は膳を脇に避けて、身を乗り出している。
    長く美しい指先が、正の方へ伸びてくるー…。

    「大事ありませぬ…!」

    裏返りそうな声を無理に抑え込み、俯いて袴の酒の染みを睨んだ。
    あぁ、恋をしてしまっているのだ。
    城にまで会いに行きながら、志村を目の前にして声をかけることができなかった……郷のおなごが〈若様を一目見るだけで幸せにございます…〉と愛を伝えてくれたことがあったが、まさにそれではないか。
    恋をしてしまっているのだ。
    なんと不毛な恋か。
    ただの掟で抱かれただけだというのに…。
    気遣うようにこちらへ伸びた志村の指先を、これ見よがしに顔を逸らして拒絶する。
    志村はしばらく思い悩んでその手をそのまま宙に置いていたが、やがて、ゆっくりと引っ込めた。
    正は目の皿をふつふつと燃え上がらせながら、この愚かしい恋心を読まれたならば困ると、志村のあの黒々と濃く美しい双眸を決して見ないようにした。

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