守衛の猫「今どんくらい溜まってる？」

　裸のまま埃っぽい床に転がりながら、新堂のかすれた声に鼓膜をゆすられた日野はそちらに顔を向けた。新堂は先ほどまでの火照りの余韻を皮膚の上に浮かべたまま、天井を見つめている。ひとりごとのような声色だった。

「性欲の話じゃないよな」
「バカか。今やったばっかじゃねえか」
「はは、だよな」

　さきほどまで日野の世界を落書きのように歪めていたドラッグは、射精と共にすっかり抜けていた。これこそがダブルミーニングってなもんだな、という日野渾身のジョークは、以前言ってみたら容赦ない肘鉄を受けたのであれ以来言わないようにしている。
　新堂が言う所の『溜まってる』ものは、ふたりで共有しているビニールポーチの中身のことだ。猫のキャラクターが守衛をするそれは、これまで新堂や日野が懸命にかき集めた全財産が納められた、ふたりの共有金庫になっていた。

ドラッグ中毒　新堂は伸びきったニットのポケットからくしゃくしゃの紙を数枚取り出して、それらを日野に投げ渡した。空気抵抗を受けてひらひらと踊る紙の上では、ひとりの中年男性がスーツを着て偉そうにしている。おっさんが印刷された紙っぺらに価値が宿るこの世。ファッキン・ワールド。上品ぶった顔で金を受け取る日野に中指を立てて、真っ先に口をゆすいだ。下水へと流れ込んでいくその水の中に、ちぢれた毛が一本混じっている。

「けっこうな収穫だな」
「陰毛のおまけつきだぜ、くそ」

　いい仕立てのスーツを着ていたから上客だと思ったのに、とんだ外れくじだった。この寒空の中全裸にさせられた挙句、後ろ手に縛ってのイラマチオがお好みだってんだから、ずいぶんと高尚な趣味である。新堂がこの世に生を受けてもう十八年が経ったが、喉を開くのが得意で良かった、と今日ほど思ったことは無かった。