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    PSY

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    TRAINING10/15ワンライ
    お題【メンタル・派手】
    朱ちゃんが来る前の憔悴しきっている執監のお話。事件現場に突入した宜野座さんが怪我をして意識を失い、そんな宜野座さんに話しかける狡噛さんです。ちょっと暗め。
    永遠ことあれかし ギノが俺に隠れてメンタルケア薬剤を飲んでいることは知っていた。
     監視官は厳しい仕事だ。狭い部屋に押し込められた執行官よりもずっと自由がなく、ただ事件を解決することだけを考えて一日が終わる。精神をすり減らして辞めてゆく者も多かったし、出世に固執していたというのに執行官に堕ちる者、矯正施設送りになる者もいた。それでもギノはぎりぎりの場所で、その地位にしがみついていた。まるで自分にはそれしかないと言わんばかりに、まるでそれしか自分には求められてはいないと言わんばかりに。
     監視官は基本的に執行官の監督にあたる立場にある。猟犬を使い、彼らに犯人の思考をトレースさせ、自分たちは色相を悪化させないまま事件を解決するのだ。だが彼はどういうわけか、自分でドミネーターの引き金を引くことが多かった。それは監視官としては珍しいことだった。今の一係の監視官は彼だけで、それでも脅威的な検挙数を誇るのは、ギノの存在によるところが多い。だが、まるで彼は自傷するようにドミネーターの引き金を躊躇なく引き、犯人を執行してゆく。俺はそれを見るたびにいつ自分に向かってドミネーターの引き金に指をかけるのか気が気じゃなかった。執行官の俺が言ってもしょうがないのだろうけれども、俺はかつての恋人を心から心配していた。そしてそんなある日に、彼はあろうことか任務中に犯人と揉み合いになり派手な怪我を負ったのだった。
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    TRAINING10/10〜10/11開催『全国一斉色相調査会』、及びプチオンリー『二人の係数24時』のウェブ展示作品です。
    任務が終わって報告書を書いている怪我をした宜野座さんに、狡噛さんがコーヒーとマフィンを買ってくるお話です。イベント開催おめでとうございます!
    コーヒー&チョコチップマイフィン「ねぇ、その怪我大丈夫なの?」
     もう少しで朝だという時間帯に、行動課のオフィスで書類仕事に励んでいると、花城はそう言って胸に抱えた情報共有用のタブレットを静かにデスクに置いた。そこには先ほど逮捕した男の情報が載っており、それは今まさに俺が上に上げる報告書に必要だったものだった。俺は「ありがとう」と言い、タブレットからデータを吸い上げる。
    「あなたが頑丈なのは知ってるけど、絵面が危ないのよね。また医務室に行ったら? その包帯は目立つわ」
     花城は額を指さし、すぐには俺から離れなかった。俺の容姿が、いや、頭に包帯を巻き、生身の手に止血テープを貼った部下の姿が気になったのだろう。とはいえ、絵面のわりにはそれほど怪我がひどいわけではない。数日経てば傷跡も消えてしまうようなものだ。ただ出血量が多かったので、念入りに手当てをされてしまっただけで。
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    TRAINING10/08ワンライ
    お題【気晴らし・ダイエット】
    厄介な仕事を終えて狡噛さんの部屋をビールを持って訪ねた宜野座さんが、狡噛さんに過去について語られるお話です。
    need to be in love なんとはなしに狡噛の部屋を訪ねることはよくある。それは時に友人としてであったり、時に恋人としてであったりしたが、気晴らしを求めてということも少なくなかった。何せ彼の部屋には多くの希少な古本があり(日本語翻訳されていないものも多く読めるものは少なかったが)、紙のスリーブに入ったレコードや父が残した酒に負けないくらいのブランデー、そして今や色相悪化を理由に流通していない映画のディスクがあった。俺はそれを旧式のプレーヤーで見るのが好きだった。最新の流行映画にはない砂嵐ですら、芸術のように思えたからだ。レコードもよかった。かすかな雑音が、まるで耳のすぐ側で囁いているようだったから。
     今夜もドアを開けたら、レコードプレーヤーから耳に馴染むなめらかで軽やかな女の歌声が聞こえてきた。三オクターブの声域を持つ、アルトの声の美しさ。狡噛が気に入るには少し甘すぎる声。批評家にロマンチックすぎると評価されたにもかかわらず、何度もグラミー賞を取りやがて殿堂入りした兄妹のポップ・ソング・グループ。世界的人気を得た彼らだったが、けれどヴォーカルが無理なダイエットから拒食症になり亡くなり、活動は突然終わりを告げる。彼女の死は摂食障害を世界にしらしめるものとなった。
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    TRAINING9/17ワンライ
    お題【宇宙・かわいい】
    仕事終わりに空を見上げる狡噛さんと、そんな狡噛さんの昔のことを思い出す宜野座さんのお話です。
    天の光は全て星 夜、狡噛は空を見ることが多い。とはいえ出島では高層ビル群が放つ光や、猥雑なネオンなどで、ほとんど星は見えないのだが、それでも彼はベランダに立ってスピネルを吹かし、月や宵の明星を見つめるのだった。
     狡噛が星が好きだと聞いたのは、学生時代のころのことだ。彼は一時期取り憑かれたように宇宙の神秘についての本を読みあさっており、それは暇さえあれば教科書を読んでいるような俺が心配してしまうほどだった。あと五十億年したら太陽はなくなるんだ、暗黒物質の正体はまだ解明されていないんだ、生命が誕生するには二十五メートルプールにばらばらの時計の部品を入れて、自然に完成するくらい奇跡的なんだ。素粒子物理学、天体物理学、一般相対性理論、プラズマ物理学、現象学、超弦理論、量子力学。とにかくあのころの狡噛の喋る言葉は意味が分からず、会話をするにも一苦労したのを思い出す。なにせハンバーガーを食べる時ですら、彼は重ね合わせの原理について思考していたのだから。それが収まったのは、彼がまた違った分野に興味を持ったからだったが、あの時は安心したものだ。それは珍しく俺にも理解できる程度の問題で、会話に取り入れることもできたので。
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    TRAINING9/10ワンライ
    お題【合宿・月】
    外務省の子女たちの合宿を監督することになった狡噛と宜野座が川の近くで取り留めもなく喋るお話です。
    死んだっていいわ 深夜、川べりでのキャンプファイヤーに気を良くした学生が、メディカルトリップでない本物の酒に手を出すのにはそれほど時間はかからなかった。俺と狡噛は確かに彼ら——外務省高官の子女たち——を監督する立場にあったのだが、何せ彼らからは距離があったので、合宿にはしゃぎパーティーを始めた子どもたちに気づくまでには時間がかかった。それに監督といったって、危険な侵入者から彼らを守るのが俺たちに期待される行動であって、健全な合宿生活を送れるようにする教師の役割は求められていない。あくまでも俺たちは彼らの警護を仰せつかっているのであって、その守るべき存在が勝手に馬鹿をやるのなら止める方法はなかった。
     ちなみに今回の合宿は、最終考査が終わり、学生生活が終わり、その思い出づくりで行われたものらしい。多くが中央省庁に就職が決まったエリートたちだから本当の馬鹿はやらないだろうが(たとえば違法なストレスケア薬剤に手を出すとか)、アルコールを許すかどうかは微妙なラインだった。酒はその依存性から、現在では煙草と同じく色相を曇らせるものとして扱われている。俺の隣でスピネルを嗜んでいる潜在犯がいい例だ。彼の現在のサイコ=パスは知らないが、俺よりも濁っているのは確かだろう。それに俺も人のことは言えないくらいの色相だ。健全な学生たちが一夜だけ楽しむくらい、見逃してやってもいいのかもしれない。そう思い、俺は報告書に彼らがアルコールを楽しんだのは書いてやらないことにした。
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