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    ボンド

    高間晴

    DOODLEぼんど800字。チェズモク。ED後、入院中の食事風景。■いたれりつくせり


     BONDの四人は揃って入院生活を余儀なくされた。四人とも大怪我を負っていたが、中でも重傷だったのはモクマだ。今でも彼は鎮痛剤を打たれて、ほとんどずっと眠っている状態である。
     ルークとアーロンは持ち前の若さと体力で早々に病床から離れ、日中は中庭で二人過ごしていることが多いようだ。
     そろそろ昼食の時間だ。チェズレイはベッドから身を起こす。カーテンがふわりと揺れて、暖かな光が射し込む。
     鎮痛剤が切れ始めたのか、隣のベッドでモクマが身じろぎする。
    「目が覚めましたか、モクマさん」
    「ん……腹減ったなって思って」
     それを聞いたチェズレイは嬉しくてくすくす笑う。空腹を覚えるのは生きている証だからだ。
     ルークとアーロンも戻ってきて、看護師が四人のベッドに食事を運ぶ。
    「チッ。こんな精進料理みたいなんじゃ治るもんも治らねえっつうの。肉食わせろってんだ」
    「さすがに我慢してくれよ、アーロン。スイさんが差し入れしてくれた果物、僕の分も食べていいから」
     梅干しの入った薄味の粥をすすりながら、二人はやいやい言っている。その様子をよそにチェズレイは玉子焼きを箸で食べていた。 817

    高間晴

    DOODLEぼんど800字。チェズモク。ED後で入院中の四人。■まだ、始まったばかり


     恋だの愛だのでこんなに苦しい思いをすることになるなんて、思ってもみなかった。チェズレイは病院のベッドの上で寝返りをうつ。
     現在、ミカグラ島の危機を救ったチームBONDは仲良く入院中。四人とも医者からはよくぞ生きていたと言われるほどの重傷を負っていた。ナデシコの根回しもあり、同室で日がなベッドの上でぼうっとする日々を過ごしている。
     ――かと思いきや。
    「アーロン! 筋トレは早すぎるって医者にも止められただろう!?」
    「うっせえ! 治ったか治ってないかを決めるのは医者じゃなくて当人のオレだ!」
     病院の中庭から騒がしい声が聞こえてくる。
    「ははは。全く、お若い二人は元気だねぇ」
     売店へ暇つぶしの雑誌を買いに行っていたモクマが戻ってきて、チェズレイのベッドの傍の丸椅子へ腰を下ろす。
    「モクマさん。あなたが一番重傷なんですからベッドに戻ってください」
    「ん? でもね」
     そう言ってモクマがシーツの上に投げ出されたチェズレイの手を取る。それはあの指切りをした時と同じく、温かい手だった。
    「ベッドに戻ったんじゃ、こんなことできないだろ?」
     その言葉だけで容易く 819

    高間晴

    DOODLEぼんど800字。チェズモク。もうすぐ春ですね。■さくら、ふわり


     チェズレイとモクマは、作戦決行前にはいつも二人で散歩をする。裏通り、繁華街、公園。それは二人の上に空さえあればどこでも良かった。
     極東の小国でそこそこ上質なホテルに腰を落ち着け、敵アジトについての捜査も済んだ。だから今夜、敵地へと潜入することになっている。
     川べりの遊歩道。あたりは初春といった雰囲気で、明るい陽の光に梅が花をほころばせている。
    「梅は咲いたか桜はまだかいな、っと」
     隣でモクマがそう口に出すと、チェズレイは考え込んでいた様子から顔を上げた。
    「なんです、それ」
    「マイカの里に古くから伝わる唄さ。
     ――お前さん、ちょっと緊張してるね?」
     首を傾げてチェズレイの顔を覗き込めば、端正な顔が少し困ったように微笑んだ。
    「していないといえば嘘になります。今夜は私の夢への第一歩を踏み出すのですから」
    「まあ、考えるのはお前さんに任せておくよ。俺ブルーカラー、お前さんはホワイトカラー、ってね。
     でも、たまには俺も頼ってよ? バディなんだからさ」
     そう言ってモクマが笑うと、チェズレイは風にそよぐ長い髪を首筋に押さえつけながら小さなため息を付いた。
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    高間晴

    DOODLEぼんど800字。チェズモク。うっすらネタバレしているのでクリア後推奨。香りについて。■香りの話


     朝食後。ヴィンウェイのセーフハウスのキッチンで、チェズレイが食器を洗っている。そこへモクマが使い終わった湯呑みを手に近づいた。
    「それも私が洗いますので置いておいてください」
    「あ、いいの? 悪いねえ」
     そう言ってチェズレイが洗い物をしているシンクに湯呑みを置く。すると近づいた拍子にふわりとほのかな香水の匂いがした。石鹸のような、清潔感のある香り。
    「お前さん、いつもいい匂いがするねぇ」
    「それはどうも」
     そうしてモクマはチェズレイの隣に立ったまま、あの夜を思い出す。ACE本社ビルから落下していく際に、この男に抱き込まれた時。これとは違う匂いがしていたことを。
    「そういえばお前さん、潜入の時はいつも香水をつけてなかったよね? ACE本社に乗り込んだ時は何かつけてた?」
     完璧主義者のチェズレイは、香りが邪魔になってはいけないからと潜入ミッションの時はいつも香水をつけていないはずだった。モクマはそのチェズレイの傍にいたこともあるが、忍者の嗅覚でもわからないほど何の匂いもしなかったことを覚えている。
    「いえ、あの時も何もつけていませんでしたけど……どうかしました?」
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    高間晴

    DOODLEぼんど800字。チェズモク。バディエピ「モーニングコーヒー」のその後の話。■その後のモーニングコーヒー


     すべてが終わった後、BOND四人はミカグラ島を離れることになった。
     朝、オフィス・ナデシコのリビングにピアノの音が響いている。弾いているのはチェズレイだ。鍵盤の上を指が踊るたびに流麗な旋律が室内に満ちる。
    「――いつまで、そうしているつもりですか」
     手を止め、背後の気配に振り返らずチェズレイは問う。
    「いやー、いつ聴いても見事な腕前だと思ってさ」
     そう言って近づいてきたモクマの手にはカップがふたつあった。チェズレイがひとつを受け取って中を覗き込む。それはカフェオレらしく、コーヒーとミルクの香りがした。
    「俺もお前さんも病み上がりだからさ、胃に優しいカフェオレにしたんだけど」
    「ありがたく頂きますよ」
     そう言って微笑むとカップに口をつける。少しぬるくなったカフェオレが喉を通っていく。
    「そういえば、ボスはどうしています?」
    「部屋ノックして声かけてみたけど、まだ寝てるみたい。まあルークも色々あって疲れてるだろうしさ」
     ちなみにアーロンはすでに故郷のハスマリー公国へ向けて出立していた。入院中のアラナのことも気にかかるが、もう快復に向かっていると 817

    高間晴

    DOODLEぼんど800字。チェズモク。モクにオーダーメイドのスーツを着せたかっただけなので細かいことは許されたい……■知らない


     チェズレイはモクマと共に、今夜は裏社会のパーティーに潜入することになった。そこにはマフィアのボスなども顔を出すそうだ。狙いはそいつらの尻尾を掴むこと。
    「ちょっとチェズレイ。おじさん、ネクタイの結び方なんてわかんないから頼んでいい?」
     ホテルのツインの部屋でスーツに着替えたモクマ。申し訳なさそうに、ネクタイを差し出してきた。モクマはチェズレイのボディガードという名目で潜入するので、それらしい身なりをしなければならない。チャームポイントの無精髭は綺麗に剃り落とされ、オーダーメイドの黒スーツを身にまとったモクマに、チェズレイはため息を漏らす。
    「あぁ……素敵です、モクマさん」
     そう言ってネクタイを受け取ると、チェズレイは手早くモクマの首にネクタイを巻き、結び目まで丁寧に整えた。
    「ありがとさん」
     モクマが礼を言うと、チェズレイはその額にキスを落とす。
    「ちなみに今夜はパーティーから帰った後に、そのままあなたを抱いても?」
     含み笑いでお伺いを立てるチェズレイに、モクマは苦笑する。
    「パーティー会場で何事も起こらなきゃね。無事に生きて帰るまでが潜入ミッション、ってやつ 828

    高間晴

    DOODLEぼんど800字。バレンタインのチェズモク。■チョコレートよりも甘いもの


     よし、とチェズレイは決意を固めるとテーブルに手をついて、椅子から立ち上がった。
     今日は二月十四日。バレンタインデーだ。モクマも喜びそうなミカグラ料理のフルコースを出す店にディナーの予約を入れたし、渡すペアリングもしっかり確認した。あとはどうやってスマートにモクマを誘うか、だが。それについてはまだ何も考えていない。ちょっとその辺の道でもぶらついてこようと思ってセーフハウスの玄関まで来ると、モクマとばったり出くわした。
    「あぁ、おかえりなさい、モクマさん」
    「ただいま~っと。……えーと、チェズレイ」
     モクマが左手で背後に何か隠しているのがわかった。またこっそり酒でも買ってきたのだろうかと思っていると、目の前に赤とピンクのハートでカラフルなラッピングのされた小さな包みが差し出される。
    「バレンタインおめでとう! ……ってのも変かな? なんて言えばいいのかおじさんわかんない」
     てへへ、と少し困ったような顔で笑うモクマ。それを目の前にしてチェズレイは彫刻のように固まってしまった。
    「あ、チェズレイ? どったの? ……あ、これね、チョコレートだよ?」
    「… 817

    高間晴

    DOODLEぼんど800字。チェズモク。チェズレイの左目のメイクの下についてバレというほどではないネタバレを含みます。■インクルージョン


     カーテンから射し込む朝の光を感じてモクマは、ベッドの上でうっすら目を開ける。眼前には規則正しい寝息を立てて眠っているチェズレイの顔。目覚めてすぐ近くにこの男の気配があるのにも慣れたもんだな、とモクマはチェズレイのプラチナブロンドを指で梳いた。その感覚に身じろぎしてチェズレイがまぶたを震わせて静かに目を開く。
    「……おはようございます、モクマさん」
    「おはようさん、チェズレイ」
     二人は挨拶を交わすと小さく微笑む。
     そういった行為をしない場合でも同じベッドで眠るようになったのはいつからだったろう。チェズレイはもはや左目の周りに残る傷跡さえ隠しはしない。モクマは手でそっとその傷跡を撫でた。
    「お前さん、ほんとに美人だな。美人は三日で飽きるって言うけどありゃ嘘だってつくづく思うよ」
    「ありがとうございます」
     しかしモクマの称賛の言葉を素直に受け取れるまでに、チェズレイはチェズレイで悩んだようだった。完璧主義者のこの男が、自分の美貌に傷があるのを許すにはそれなりに時間がかかる。だからこそモクマは初めて出逢った頃のように「傷があるからこそ素敵だ」と言って聞かせたのだ 829

    高間晴

    DOODLEぼんど800字。何もネタバレしていませんが本編終了後の時間軸です。ルークに送るものを探してスーパーで買い物するチェズモク。■夏の北国にて


     久々にヴィンウェイのセーフハウスに帰ったチェズレイとモクマ。大きな仕事がひとつ片付いたし、しばらくの間のんびりしようということになったのだ。
    「モクマさん、洗濯物あったら出しておいてください」
    「はいよ。――じゃあ俺は買い出しにでも出かけようかね」
     そこでチェズレイはほんの少し思案する。
    「――待ってください。ボスにはこの間野菜を送りましたし、今度はヴィンウェイ名物のものを何かしら送りたいので私も同行します」
    「ははっ。チェズレイはすっかりルークのお母さんだねぇ」
     モクマが笑うと、チェズレイはほんの少し目をみはる。それから小さくくすくす笑った。
    「お父さんはあなたですからね」
    「あはは。そうだった」
     二人で笑うと、チェズレイは洗濯機にとりあえずモクマの分の洗濯物を入れてスイッチを押す。チェズレイの服の大半は素材がデリケートなので、あとでクリーニングに出される予定だ。
     それから二人は揃ってセーフハウス付近のスーパーマーケットへ向かった。
     買い物かごを載せたカートを押しながら、モクマはチェズレイの後をついていく。チェズレイは手袋の手で野菜を手に取って見定めて 822