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    駿

    さめしば

    DONE奥武幼馴染みのSS⚠️20巻おまけ読了前提⚠️
    notカプのつもりですが冬→駿片思い風味かもしれない。歓迎会の時期など捏造要素アリ
    ※2022.12.04 加筆修正
    萌ゆる緑、吹き散る花片 言葉を交わすふたりの背中を、ただ見ていた。
     花曇りの夜空を背景に歩む後ろ姿は、現実の距離よりもずっと遠くにあるように感じられる。「控えでも満足だよ」と話す彼――ひとつ上の先輩の、穏やかで寂しげな笑顔を想像して、ぐっと胸が詰まった。その隣を歩く幼馴染みはきっと、僕には見せない顔をしている。
     一歩前へ出していた右足を後ろに引き、勢いよく踵を返す。ふたりの会話を盗み聞きする権利など自分にはないのだ。僕自身だって、スタメン争いを経て先輩より良い番号を勝ち取った当事者に他ならないのだから。
     それじゃそろそろ失礼しますと、近くにいた先輩たちに挨拶をしてから僕は足早にその場を辞した。歓迎会は賑やかに幕を閉じたのだ、この楽しげな雰囲気に水を差すわけにはいかなかった。行きと同じく、幼馴染みと歩くつもりでいた帰り道をひとり黙々と辿る。四月と言えどまだ肌寒さの残る夜だ。ひゅうと吹き抜ける風に肩を竦めて、カーディガンのポケットに手を突っ込んだ。猫背ぎみに丸まる姿勢は、自然と足元のほうへと視線を落とす。一歩、また一歩とスニーカーの爪先を前へ出し続けると、目先の景色にだんだんと変化が起き始め——やがて視界一面に広がったのは、桜の花びらが黒いアスファルトに描くまだら模様だった。いつの間にやら、桜の街路樹の植わった歩道に差し掛かっていたらしい。足を止め、ぱっと顔を上げてみれば、日中とはがらりと表情を変えた街並みがそこにあった。
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    さめしば

    DONE冬駿のSS 冬→駿片思いネタ。とある冬のおはなし。⚠︎捏造要素あり
    きみのとなりにけぶる朝靄「冬居くんおはよ! 今日も冷えるねー」
    「おはようございます、おばさん。お邪魔します」
    「さあ上がって上がって」
     ほんといつもごめんねえ、と幼馴染みの母親が目尻を下げて申し訳なさそうに微笑む。僕は招き入れられるまま、勝手知ったる他人のお宅へ上がり込んだ。スニーカーを定位置に揃え後ろを振り返ると、彼女はすでに台所の方へ足を向けていた。「あの子まだ寝てるから叩き起こしてやって! すぐご飯持って上がるね」と忙しく立ち回りながら響かせる声に僕ははあいと返事を返し、二階へ続く階段に足をかける。
     部活の朝練がある日はこうして、隣に住む幼馴染み——同じ部に所属する部長と部員の関係でもある——と連れ立って登校することになっているのだ。僕が入部したこの春始まった、約束にも満たない暗黙の了解のようなもの。たいてい僕の方が先に支度を終えるので、我が家から数歩の距離を迎えに上がる流れはすっかり習慣と化していた。彼が自力で起床できた日は居間で待たせてもらうけれど、時間ぎりぎりまで二度寝を決め込む朝はそう少なくない頻度でやってくる。その場合、彼を布団から叩き出す役目を自然と僕が担いがちになるのだ。そして彼の母親が朝食を二階へ運んでくるまでが、ここ最近のお決まりの流れ。すぐそこにご飯があれば起きる気になるでしょ、とは彼女の談。実際その効果は発揮されているだろうけど、居間よりも駿君の自室の方が僕にとって過ごしやすいはずだ、と気を遣ってくれている節もある。
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